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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年08月25日23時35分掲載
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文化
【核を詠う】(162) 本田信道『歌ノート 筑紫から』の原子力詠を読む(2) 「被爆地と被曝地帯とある国の原発存続、どこまで論じた」 山崎芳彦
8月17日の朝日新聞に政府広報(復興庁、内閣官房、外務省、環境省)の全面広告「放射線についての正しい知識を」なるものが掲載された。政府広報だから、他紙にも一斉に展開されているのだろうと思ったが、確かめていない。それは、「今月3日、政府は福島県より避難されている方々を対象に、放射線に関する勉強会を開催し、放射線に関する様々な科学的データや放射線による健康影響などについて専門家からご講演をいただきました。」その内容の一部(だろう)が、「放射線を恐れるな」、「福島原発事故による放射線被曝は危なくない」キャンペーンであった。政府公認・御用達の放射線に関する「専門家・有識者」グループの一員としておなじみの中川恵一・東京大学医学部付属病院放射線科准教授と、レティ・キース・チェム国際原子力機関(IAEA)保健部長(当時)がCMタレントである。
この内容については、すでに周知であるだろうから詳しくは触れないが、特に中川恵一氏の、とても「専門家」のものとは思えない妄言は読むに堪えないものだ。「放射線被曝の影響による遺伝的影響はない」、「100ミリシーベルト以下の被曝量ではがんの増加は確認されていない」、「外部被曝も内部被曝も変りはない」、「福島で小児性甲状腺がんが80名ほど出ていると報道されているが、大規模な検査をすることで発見が増えるのは当然」、「放射線被曝に慎重になりすぎることにより生活習慣が悪化することが発がんリスクを高める」・・・などと、これまで積み重ねられてきた原子力放射線の健康に対する影響についての知見の到達点、あるいは確定することが出来ない問題を踏まえての予防的対処のあり方を、「中川流」、原発推進にくみする学者・研究者流、にデータや国際的に認められている各種の基準を恣意的に「解釈」して、詐欺的論法で述べている。
もとより、多くの人々が福島原発事故による放射線被曝の被害が最小であることを願い、だからこそ、そのために被曝の防止、放射線量の低減、生活環境の見直し、乳幼児から高齢者までの被曝地域に在住していた人々、福島に限らず各地に作られてしまったホットスポットといわれる地域の人々の健康の問題についての政府・東電はじめ関係者による対策を求め、自助努力をしてきている。そして何よりも現在進行形の福島原発事故による汚染水問題や、メルトダウンした核燃料や原子炉にある核燃料棒の処理について、廃炉作業の推移について、さらには福島原発の教訓に学び、この国が脱原発の道を進むことを求めている。中川恵一氏を含む原発再稼働推進・維持拡大・海外輸出を推進している政府公認「専門家・有識者」のふりまく「放射線安全神話」の欺瞞的言辞を容認しない。彼らにすれば原発事故による被害、放射線被曝は福島をはじめこの国の人々にとって「受忍」すべき範囲のことなのだろう。
中川氏は福島原発事故直後に何を語ったか。 「今回の原発事故は、私たちが『リスクに満ちた限りある時間』を生きていることに気づかせてくれたとも言える。たとえば、がんになって人生が深まったと語る人が多いように、リスクを見つめ、今を大切に生きることが、人生を豊かにするのだと思う。日本人が、この試練をプラスに変えていけることを切に望む」(「崩壊した『ゼロリスク社会』神話」、毎日新聞2011年5月25日)というのである。(この部分は岩波書店刊『科学者に委ねてはいけないこと』に収載の影浦 峡・東京大学大学院教育学研究科教授「『専門家』と『科学者』―科学的知見の限界を前に」からの孫引き引用 筆者) この中川発言について明快かつ詳細に分析した影浦氏は「無責任な、そして現実の要請と大きく乖離した精神論である」と厳しく批判している。
このように福島原発事故について中川恵一氏が語っているとき、福島の原発周辺地域をはじめ多くの人々はこの事故に深刻な衝撃を受け、どのような生活の苦難、困難を強いられ、犠牲を強いられ、精神的にも放射線被曝の不安にさいなまれていただろうか。
政府が作成した「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」とセットになった「放射線リスクに関する基礎的情報」には中川氏を含む「専門家・有識者」56名の氏名が記されているが、さらにその周辺、あるいは指導下に位置する相当の人が、また大学や研究所が今、福島原発事故の実相とその被害の実態を、あたかも「いわれているほど深刻ではないし、放射線についても心配することはないのだ」と糊塗し、原発そのものの維持につなげようと、うごめき、税金や電気料金を費消している。 朝日新聞も、日経新聞その他、そのキャンペーン広告を掲載した新聞の罪も大きい。購読している朝日新聞には抗議の電話をしたが、どうにもまともな対応をしない。
本田信道さんの原子力詠を読みながら、本当に許しがたい原発推進勢力の悪辣極まりない策動への怒りがこみあげてくる。本田さんの作品を読む。
◇第二章 抄2◇ 日を経ては原発事故のゆゆしきの幾つかぞへて人為と知れり
すでにしてあの日あの時、きみやその口惜しききはを語りくだされ
そこのみは唄ひもならぬフクシマのたちくるところ ふる里がある
ふくしまの訛ききとめ混み合へる東京駅に心身揉まる
代々木まで「さようなら原発一0万人集会」に行く、 メールは来たり
東日本大震災にまぜこまず福島原発事故は言ふべし
放射能を憚り語るやるせなさ 恃む未来の孫よ玄孫よ
福島の若者たちがまよひゐる未来といふに応へよ政権
何やある胎児診断態勢がわからぬやうなるわけにて進む
かくのごとく頓着無しに放られて一六万人の避難はつづく
防衛費を掠めし企業、手抜除染の真なき企業、性善説揺らぐ
さればまた一途に復興その意志の福島りんご蜜入りを噛む
◇第三章 抄1◇ ふたとせの日数経つるに癒ゆるなき五感の疼きあの日傷めし
うれさむき木立の道にくぐりゆく水の音してフクシマを泣く
過去形に放るなかれ原発のメルトダウン三基とはに見据えよ
汚染水タンク殖えゆくこののちの日数を誰ぞいかにかぞふる
(長歌) 桎梏の 放射線量 恐れつつ 覚悟のきはに 止まるも 追はるる如く ふる里を 棄つるにあらぬ 苦しみも 根源いまだ 御し難く ふたとせ経たり 風の子と なりて遊べる 孫子さへ 離(さか)りて寄らぬ フクシマのうた (反歌 二首) 錚々と松籟わたる宮の辺に若き日聞きにし奥羽の風よ
彼我もなき無垢の高みをゆくものか雲よかよはせ祈りの遠に
事故あれば想定漏れと言ひなされ、想定外とは遁辞にござる
甘々の想定なりと省みぬこの無責任を誰も問はぬか
想定に如何なる哲学うちたてて思念したるや由々しきばかり
核制御、理論に瑕疵のあらずとも完全ならざるヒトが運転す
人間のミスの連鎖を防ぐべく幾重に想定したるや君ら
原子炉の計器の値を読みまがひさらに換算式をたがふか
福島のくだもの園のさくらんぼ筑紫にありて妻と分けあふ
福島へ梨の注文なしにけり子らのもとへのひと箱づつも
除染とて庭の表土を剥ぎ寄せて盛りたるままと知るは哀しも
色あらず臭ひもあらず五感もて捉へならざるヤツの魔性や
放射能測定機器をたづさへて日ごと濃度を測ると言へり
被爆地と被曝地帯とある国の原発依存、どこまで論じた
福島が白くぬかるる地図にしてパック旅行の東北版とどく
あのときの海を恨まぬ漁師らの船を出せぬは汚染の所為ぞ
想定の未熟を問はぬ検察の不起訴処分をいぶかしく読む
これといふ用にあらねど何ならず 訪はねばならぬ福島へ発つ
これといふ役目あらねど何ならず フクシマ駅前夕かげに立つ
寄らざればお叱りあらむSさんに隣のやうなる声を掛けにつ
三たびもの夏を越しける汚染地や棚田に戻れぬ茅野のつづく
再びの日をし恃むか山の田を鋤きゆく老いよここ汚染地に
一枚の棚田に老いの耕運機「収穫ならねど田を守らむ」と
行きゆくに阿武隈高地荒涼と人影絶えて浪江へつづく
しづむ里 戸は閉ざされてけはひなく物干しざおの斜に落ちけり
道沿ひに桃色のぼり並べ立てまつりにあらぬ除染作業中
累々と除染廃棄物積まれをりここに極まるその黒袋
分断の看板一枚、被曝禍の「この先帰還困難区域」(富岡街道・浪江町津島)
次回も本田信道「歌ノート 筑紫から」の原子力詠を読む。(つづく)
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