第三次世界大戦が始まった。欧州在住のジャーナリストが今年に入ってそう語った。それは「アラブの春」に端を発したものだと言えよう。湾岸諸国や北アフリカだけでなく、超大国も巻き込まれている。2011年の「アラブの春」でのリビア軍事介入をめぐるロシアと米国との対立、さらに昨年のシリア空爆をめぐるロシアと米国との対立。そしてウクライナ問題。賭け金は積みあがってきていた。
シリアとイラクではイスラム国をめぐって米国の戦争の第二章が始まる気配があるのと同時に、リビアでは内戦が激化し、様々な外国武装勢力が入って血みどろの戦いを行っている。
ニューヨークタイムズではリビアのトリポリに向けて、アラブ首長国連邦とエジプトが合同で空爆を行ったと報じられている。目標はイスラム原理主義勢力だ。エジプトのシーシ大統領は直接介入を否定しているそうだが、米政府高官が両国の軍事介入について触れたそうだ。しかも最近だけで空爆が2回に渡ったと言う。米国はこの件について知らされていなかったとされ、オバマ政権を動揺させているようだ。
ニューヨークタイムズによると、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はともに「アラブの春」の湾岸諸国への波及を恐れ、力づくで封じ込めようとしている。サウジアラビアの国内では「改革」をネットなどで呼びかけた市民を弾圧する諸法案を今春通したばかりだ。そして、今、軍出身のシーシ大統領が率いるエジプトに対して、両国は支援を行っており、イスラム主義のムスリム同胞団を抑えさせようとしている。
こうした文脈のもとで、エジプトが国内基地を利用させてアラブ首長国連邦がリビアのイスラム原理主義勢力に空爆を加える手助けをしたと報じられている。アラブ首長国連邦はリビアの「アラブの春」のときはカダフィ打倒を呼びかけたが、支援したのはイスラム原理主義勢力ではなく、地元部族だったそうである。
一方、カタールは2011年からリビアのイスラム原理主義勢力を支援しており、今、この勢力に武器を与えていると指摘されている。これまでカタールは秘密裏にイスラム原理主義勢力を支援していると欧州メディアで報じられてきたが、ここまで米紙ではっきり書かれたのは珍しい。これは今では御用済みとなった「アラブの春」の幻想と米国が決別したことを意味しているのではなかろうか。つまり、米国は昨年秋にイランと和解したことによって「アラブの春」を起こした政治的目的を達成できたのである。 リビア内戦をめぐっては、湾岸諸国でも勢力が2分されてきているようだ。ニューヨークタイムズでカタールが名指しで指摘されたということは、今後、カタールが欧米メディアで非難される局面が出てくるものと思われる。あるいは懲罰されることになるかもしれない。
ところでおかしなことに米国の兵器会社がミサイルをカタールに販売しようとしており、その部品を日本のメーカーが請け負っている。武器輸出三原則が撤廃されたから兵器部品の輸出が可能になったのだ。米国はイスラム原理主義勢力を支援しているとされるカタールに兵器を販売するのだろうか。そして、日本政府は日本企業の関与を黙認するのだろうか。
今始まった「第三次大戦」が激化すればするほど、兵器産業は儲かり、日本の地域の雇用を創出することになる。兵器産業は国内産業である。というのも中国や韓国にアウトソーシングできないからだ。だから武器輸出が拡大すれば一時的には景気が回復する。次期総選挙までに武器輸出が加速すると安倍政権が継続する可能性も高まるだろう。しかし、これは他国に販売している限りにおいてである。日本が近い将来、集団的自衛権によって中東やアフリカに軍事介入する可能性もあるから、その場合は財政負担となって税金として国民にいずれのしかかってくる。米国と同様、若い日本の兵士の高次脳機能障害も増えるだろう。これまで日本で高次脳機能障害はほとんど患者家族の負担に押し付けられてきたが、兵士の場合は国が人生の最期まで面倒を見なくてはならないから費用も莫大になる。
しかし、こうした負担はアメリカを見ても分かるように、最初の数年はあまり痛みに感じないものだ。2016年にヒラリー・クリントン氏が米大統領に当選すればより積極的な軍事介入を行うと見られている。「アラブの春」の後始末と、イランとの交渉の総仕上げのためだ。安倍首相がこの流れに沿って動けば(財政難が顕在化するまで)安倍政権が継続する可能性がある。個人的には日本が軍事ケインズ主義のアメリカの二の舞いにならないことを祈るばかりだ。
■アラブ首長国連邦
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uae/ ■サウジアラビアのテロ対策法 〜政治の改革派を弾圧する法案との批判も〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201402050206433 ■サウジアラビアがムスリム同胞団をテロリストに指定 〜「アラブの春」の波及を恐れる王室〜 カタールとの確執も
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201403082029196 ■<カダフィの息子を救ったのはロシアの秘密部隊だった> 新刊のノンフィクション「サルコジ・カダフィ」から
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310232228513 ■アラブの春の設計者たち〜NYT寄稿 'When Arabs Tweet'(アラブがツイッターを始めるとき)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306250303382 ■シリア戦争 「欧米の真の標的はイラン」 英インディペンデント紙のロバート・フィスク記者
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201308302306375
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