バングラデシュで深刻な人権活動家に対する弾圧が報じられてから[1]一年以上が経過した。東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、バングラデシュにおいて今も人権状況が深刻であることついて懸念を表明し、その改善を強く求めている。
過去10年間に亘り、特殊治安部隊であるRAB(緊急行動部隊)による超法規的殺害、拷問、及び恣意的な違法逮捕の多数の事例を含む組織的かつ深刻な人権侵害が治安維持の名の下で行われている。NGO等非政府情報筋の推計では同期間中約800名の民間人がRABの関与により殺害されたが、未だにその責任者は処罰をされていない。
2014年1月に行われた国政選挙において、主要野党であるバングラデシュ民族主義党(BNP)を含む政党の幹部及び野党メンバーやその支持者など数千名が逮捕された。政府による選挙運動への不当な介入に抗議の意を示した全野党が選挙ボイコットを行った。 その影響で過半数を超える選挙区において与党アワミ連盟系の議員が無投票当選を果たした[2]。現在、逮捕された数百名の野党メンバーは刑事訴追を受けている。
更に、我々は同国における市民社会に対してかけられる不当な圧力に懸念を抱いている。特に人権団体や人権活動家に対する不当な干渉が政府により行われている点留意する。たとえば同国の主要な人権活動家であるアディルル・ラーマン・カーン氏(オディカー書記)及びASM・ナシルッディン・エラン氏(オディカーディレクター)は、治安部隊による集会に参加した市民の殺傷に関する事実調査報告書を公表した事により逮捕され、有罪判決が下されれば最長懲役10年に当たる罪で今なお訴追されている。現在身柄は保釈されているものの、当局は訴追を取り下げず、引き続き治安部隊の不当な監視下に置かれ、嫌がらせや干渉に晒されている。
こうした人権抑圧の一方、住民の経済的社会的権利は未だ深刻な状況に置かれている。多くの住民が国際人権基準に基づく適切な住居や安全な水などにアクセスすることができない。ラナプラザ・ビル事件以降は労働法規・建築関連法規が全く遵守されないまま、悲劇的な犠牲が発生したが、政府のイニシアティブは未だ労働者の安全・人権に配慮した者とは言えない。さらに、女性の権利に関していえば、2010年にDV防止法が成立してから4年が経過しているにもかかわ らず、同法を実施する予算措置も政治的意思も欠如したまま、全く実施されないまま今日に至っており、政府はアカウンタビリティを果たしているとは言い難い状況である。
よって、ヒューマンライツ・ナウはバングラデシュ政府に対し、以下を要請する。
− RABを即座に解体すること。解体後、組織的犯罪及びテロ行為に対処するための組織は完全に文民から構成され、かつ、人権を組織・活動の中核に位置づけるよう組織再編に取り組むこと。過去のRABによる殺傷などの深刻な人権侵害事件の責任を明確にし、その責任者を確実に処罰すること。
− 選挙に関連して恣意的に逮捕、拘禁されている人々を直ちに解放すること。
− 市民社会に対する不当な圧力をかけるのをやめること。市民団体への干渉をただちにやめ、市民的及び政治的権利に関する国際規約で認められている人権活動家や人権NGOの活動の自由が十全に保障されるように確保すること。また、カーン氏やエラン氏に対する起訴を取り下げ、監視から解放し、嫌がらせや干渉を即刻やめること。
− 労働法規・建築法規を遵守し、国際的に確立された労働者の権利が十全に保障されるように確保すること。
− DV防止法が実施されるよう、十分な予算措置を講じること。
− 国連社会権規約の締約国として、多くの国民が、安全な水、食料、適切な住居に対する権利を享受できていない事態を一刻も早く改善すること
<国際社会、ドナーに対して> ヒューマンライツ・ナウは、国際社会に対し、バングラデシュの上記のような人権状況の抜本的な改善のために働きかけていくよう強く要請する。 とりわけ、影響力を有するドナー国は、人権状況の改善を強く求める姿勢をとるべきである。人権侵害や民主主義違反が放置され、アカウンタビリティが確保されないことに対し沈黙したまま、人権に基礎を置かない援助を推進することはむしろ有害な影響をもたらしかねない。
[1] http://hrn.or.jp/activity/2013/09/13/130913_BangladeshLetter.pdf [2] Odhikar, Human Rights Monitoring Report: August 1 - 31 2014, Note.2, P3 (http://1dgy051vgyxh41o8cj16kk7s19f2.wpengine.netdna-cdn.com/wp-content/uploads/2014/09/human-rights-monitoring-monthly-report-august-2014-e.pdf)
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