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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年10月21日01時27分掲載
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核・原子力
川内原発再稼働:科学的根拠に乏しい九州電力の主張 予測が難しい破局的噴火
原子力規制の新基準に適合したとして再稼働が有力視される九州電力川内原子力発電所。その敷地は、過去何度も、破局的噴火の火砕流が襲っている。川内原発の運転再開にあたって、九州電力は、破局的噴火が起こる数年前に予知できるとし、原子力規制委員会も審査書の中で追認している。しかし、このようなことは、可能なのであろうか?既存の学術論文、学者の証言を基に検証してみる。(能村哲郎)
■そもそも破局的噴火とは
破局的噴火とは、深層マグマだまりのマグマが一気に噴き出すことで、周囲数十〜百数十kmに火砕流を起こし、火口周辺にカルデラ地形を生じさせる、極めて規模の大きな噴火である(*1)(*2)。
例えば、2万8千年前に鹿児島の姶良(あいら)カルデラすなわち錦江湾を形成した姶良Tn噴火では、「入戸(いと)火砕流」という雲仙普賢岳大火砕流の40万倍の規模の大規模な火砕流が、火口から四方に噴出して高知県宿毛市付近など100km以上遠くまで海上や山を超えて流れ広がり、火山堆積物が最大150mの厚みで大地を埋めた場所(いわゆるシラス台地)もある(*2)(*3)(*18)。
川内原発の敷地には、入戸火砕流のほか、加久藤火砕流(加久藤盆地を形成した破局的噴火)や阿多火砕流(鹿児島湾南部の阿多カルデラを形成した破局的噴火)等が到達している(*4)。
なお火砕流は、数百度以上の火山噴出物(火山灰や火山ガス)が地表面を流下する現象である。新幹線なみの速度を持つこともある(*2)。当然、原子力発電所を火砕流が直撃すれば、甚大な被害が予想される。
■九州電力の主張
原子力規制の新基準では、原発の運用期間中に破局的噴火の火砕流に襲われるなど「火山事象が原子力発電所に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合」には、「原子力発電所の立地は不適」とする方針が示された(*5)。
九州電力は、フランスの火山学者ティモシー・ドゥルイット氏による「地中海にあるサントリーニ火山における破局的噴火では、破局的噴火の100年前から急激にマグマが供給された」とする論文(*6)を用い、破局的噴火の前にはマグマの急激な供給で地殻変動が起きるので、破局的噴火の発生数年前には予知できるとした。九州電力は、破局的噴火を数年前に予知することで、噴火は起こるまでに原発から核燃料を搬出することができ、運用期間中(原発内に核燃料がある期間)に火山噴火の影響は受けないと主張している(*4)。
姶良カルデラでは、気象庁や京都大学防災研究所によって地盤の観測が行われており、深層マグマだまりに1年あたり0.01立方Km〜0.0038立方Kmのマグマが供給されている事が分かっている(*7)(*8)(*9)。九州電力の主張が正しいとすれば、破局的噴火の数年前にはマグマの供給量が増える様が観測できるはずだ。
■破局的噴火を観測したことが無い現代科学
日本で最も新しい破局的噴火は7300年前のアカホヤ噴火(鹿児島県硫黄島の南海底に鬼界(きかい)カルデラを形成)、世界に目を向けても1815年のタンボラ噴火(インドネシア)が最も新しい破局的噴火だ(*2)。現代科学では、破局的噴火を一度も直接的に観測したことが無く、岩石や地層から間接的に推定するしかない。
サントリーニ火山では、破局的噴火の前にマグマの供給量が増えた(*6)。しかし、それは、普遍的なものではない。例えば、鹿児島大学大学院理工学研究科の小林哲夫教授は、「アカホヤ噴火では破局的噴火の800年前から小規模な噴火や巨大地震が続いた」ことや、「姶良Tn噴火では顕著な前兆現象は見られず破局的噴火に至った」ことを報告している(*10)(*11)。
火山噴火予知連絡会会長の藤井敏嗣氏が「我々は巨大噴火を観測したことがない。どのくらいの前兆現象が起きるか誰も知らない。」(*12)と述べたほか、東京大学地震研究所の中田節也教授も「観測していれば噴火の前兆はつかめる。ただ、噴火がいつ来るのか、どの程度の規模になるかはわからない」(*13)と述べている。政府も、福島みずほ議員に対する政府答弁書(*14)で「カルデラ噴火について、(中略)噴火の具体的な発生時期や規模を予測することは困難である」と認めている。原子力規制委員会ですら、「巨大噴火については観測例が少なく、現在の火山学上の知見では、モニタリングによってその時期や規模を予測することは困難である」としている(*15)。
原子力規制委員会の原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チームでは、破局的噴火が差し迫っていると判断する基準を作ろうとしている(*15)が、まだできていない。
■観測網の貧弱な九州の火山
破局的噴火が差し迫っていると判断する基準ができたとして、破局的噴火の予兆を捉えることは可能なのであろうか?
火山活動を予測するには、日々の観測の積み重ね、異常を検知する必要がある。しかし、姶良カルデラ以外では、通常規模の火山活動が起こる火口付近にしか観測網が整備されておらず、カルデラ全体の観測は行われていない。例えば、阿多カルデラでは、カルデラの地下構造に関する論文がここ20年で1件程度であるほか、直近の破局的噴火である11万年前の噴火以前の活動については詳しく分かっていないのが実情である(*16)。
火山のマグマの量や動きは、重力の変化や地震波の伝わる速さの変化、地中の電気抵抗の変化で知ることができることが分かっている(*2)。これらの観測は、日本で最も大規模な観測網が整備されているとされる姶良カルデラでさえ、十分には行なわれていない。日本には、カルデラのマグマ量を直接的に観測した論文がほぼないのだ。
これは、カルデラの活動を知る上で重大な事である。例えば、藤井敏嗣氏によって、「マグマだまりが下方向に成長すれば、地面が隆起しないことも考えられる」(*17)と指摘されている。その場合にマグマ量が増えたことは、重力の変化によって地下のマグマ量を観測していればが分かるが、地面の起伏のみを観測している姶良カルデラでは分からない。九州電力の主張するように、破局的噴火の前に急激にマグマ量が増えても、マグマだまりが下方向に成長すれば、知りようがないのだ。
加えて国立大学の予算削減に伴い、日本の火山観測網は貧弱化の傾向にある。
九州電力は、カルデラの観測網を整備するのであろうか?今のところ、そのような計画は、発表されていない。
■予測が難しい破局的噴火
破局的噴火の予知は、技術的な面からも観測網の面からも難しいと思われる。九州電力の主張は、科学的根拠に乏しいと言わざる負えない。
仮に原子炉が破局的噴火で破壊されれば、火砕流の上昇気流で多量の放射性物質が地球全域にまき散らされ、全生物が存亡の危機に立たされることも考えられる(*18)。
原発の再稼働の是非を、慎重に検討するべきだ。
【参考文献】
(*1)小山真人:「現代社会は破局災害とどう向き合えばよいのか」、月刊地球11月号、2003年
(*2)高橋正樹:「破局噴火-秒読みに入った人類壊滅の日」、祥伝社、2008年
(*3)長岡信治:10万〜3万年前の姶良カルデラ火山のテフラ層序と噴火史、地質雑107号、2001年
(*4)原子力規制委員会:第107回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合 資料・議事録 2014年
(*5)原子力規制委員会:原子力発電所の火山影響評価ガイド 2013年
(*6)Druitt, T. H., Costa, F., Deloule, E., Dungan, M., and Scaillet, B.:Decadal to monthly timescales of magma transfer and reservoir growth at a caldera volcano. Nature 482, pp77–80. 2012年
(*7)井口正人:桜島昭和火口噴火開始以降のGPS観測2012-2013、2013年
(*8)石原和弘: A quantitative relation between the ground deformation and the volcanic materials ejected、IAVCEI Symposium - Arc Volcanism、1981年
(*9)山本圭吾:水準測量による桜島火山および姶良カルデラ周辺の地盤上下変動、京都大学防災研究所年報 第56号、2012年度
(*10)小林哲夫:大規模カルデラ噴火の前兆現象、京都大学防災研究所年報 第53号、2012年
(*11)小林哲夫:九州のカルデラ火山、西日本火山活動研究集会要旨録、2013年
(*12)朝日新聞朝刊2014年5月8日
(*13)毎日新聞朝刊2014年6月29日
(*14)第186回国会(常会)川内原子力発電所の火山影響評価に関する質問主意書 政府答弁書 2014年5月13日
(*15)原子力規制委員会:第2回原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム会合 資料 2014年
(*16)川辺禎久・阪口圭一:詳細火山データ集.池田火山.日本の火山,産業技術総合研究所地質調査総合センター 2005年
(*17)原子力規制委員会:第2回原子力施設における火山活動のモニタリングに関する検討チーム会合 動画 2014年
(*18)石黒耀:「死都日本」、講談社、2002年
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