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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年11月13日14時14分掲載
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クロード・ランズマン著 「Un vivant qui passe(生者が通る)」 記憶を掘り起こすファシズムとの戦い
ナチスがユダヤ人を絶滅させようとしたホロコーストの証言を厖大に集め、9時間を超えるドキュメンタリー映画「ショア」を監督したクロード・ランズマンにはそれと対照的なほどの小品「Un vivant qui passe (生者が通る)」と題された作品がある。これもホロコーストに関係したドキュメンタリー映画のインタビューを本に起こしたものだ。日本ではほとんど知られていないが、一読すると非常に興味深いノンフィクション作品なのである。
ではどのような作品なのか。「Un vivant qui passe (生者が通る)」というタイトルの言葉は収容所で痩せこけた収容者が行進していた状況を指す。
ドキュメンタリー映画「Un vivant qui passe (生者が通る)」は1997年に劇場公開されたが、もともとは1979年にフランスでテレビ放映されている。登場するのは二人。聞き手のクロード・ランズマン自身と質問に答える医師モーリス・ロセル(Maurice Rossel)である。後者は何者か、というとナチス時代にユダヤ人を強制収容し、虐待・虐殺していたアウシュビッツやテレジエンシュタットなどの収容所を査察した国際赤十字団査察団(CICR)の一員として現地を訪れた医師なのである。
時は1944年。今はチェコ領のテレジエンシュタット。ナチスのやっていることに世界から疑いの目が向けられていた。そこでナチスは収容所への査察を受け入れることにしたのだ。ところが後の報告書には虐待や虐殺の事実はないと記されることになった。その理由はなぜなのか?
ランズマンがこの問いを医師に投げかけるのだ。医師は当時、25歳だった。査察から37年が過ぎていたが、ランズマンは周到にもう一度記憶のうちに医師を現地に導いていく。二人の言葉の一言一言の歩みがここに記録されている。なぜ、あなたは真実を見ることができなかったのか、と。
ナチスはユダヤ人の収容者に用意周到な予行演習を繰り返し、想定問答に外れた回答をした者は処刑すると脅していた。さらに子供のための遊具のある部屋までナチスは査察前に作り上げていたが、すべては偽りのセットだった。
ランズマンは医師に会う前に、ユダヤ人の生存者から「あの日」にまつわるあらゆる情報を入手していたのだと思わされる。ランズマンは問いかける。たとえユダヤ人の収容者がそのような予定調和の行動が強いられていたとしても、あなたはどこかに真実の片鱗を発見することはできなかったのか、と。医師はランズマンの問いにこんな風に答える。
「私の任務は見たことを報告することだ。私はそこで見なかったことについては語ることができない」
医師はあれ以外に書きようがなかったし、今もう一度書けと言われても同じ報告をするだろうと答える。
ランズマンは尋ねる。
「その後、真実を知った今でも同じですか?」
医師は答える。
「もちろんだ。」
見ることができた偽りと、見ることができなかった真実と。これは今でも生々しいテーマのように僕には思えてならない。そこに多くの人々の命がかけられていたのだから。
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「Un vivant qui passe(生者が通る)」
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