昨年11月10〜11日、北京で開かれた「アジア太平洋経済協力(APEC)」首脳会議では、日本のマスコミは、中国のオリンピク並の派手な開会式と安部首相が中国、韓国の首脳とどのように接触するかの報道に明け暮れたようだが、ホストの中国は、ここで何を得ただろうか、よく考えてみる必要がある。
◆中国はAPECで何を獲得したか
その第1は、中國は、APEC加盟21カ国に「アジア・太平洋自由貿易地域協定(FTAAP)」を承認させたことだろう。11月11日付けの香港『サウスチャイナモーニングポスト』紙によれば、中国は、これをアジア太平洋地域の経済協力を促進する包括的、かつ互恵的協定だと位置づけている。そのことは、とりもなおさず、米国主導で、かつ大企業寄りの「環太平洋経済連携協定(TPP)」に対する挑戦だということになる。今、TPPでは、12カ国が交渉中だが、日本とマレーシアが猛烈に反対している。
第2に、中國は、アジア太平洋に対する多面的戦略外交の青写真を、APEC会議で明らかにしたことであった。そのハイライトは、500億ドルのアジア・インフラ投資銀行の設立である。当然この銀行は中国に置かれる。
これは、中國が要求したIMFでの発言権の拡大を、米国が拒否したことに対する返答である。現在中国は3.8%しか持っていない。これはIMFの救済融資を受けているフランスの4.5%より少ない。
◆南太平洋における中国の戦略
APEC直後の11月15〜21日、習近平国家主席は、オーストラリア、ニュージーランドを訪問した。その後、21〜23日、折からフィジーで開かれていた南太平洋島嶼会議に出席した。この会議には、サモア、パプアニューギニア、トンガ、ソロモン諸島など8カ国の首脳が集まっていた。
ここで習主席は、インフラ整備や気候変動に対する援助や、この地域からの輸入品の関税撤廃などを約束した。とくに関税撤廃は、この地域の対中貿易が飛躍的に増加すると見られる。 しかし、なによりも驚かされたのは、フィジー訪問だった。中国の国家主席としては初めての訪問だったこと、また、戦略的パートナーシップを呼びかけたことであった。
というのには、08年、フィジーでは軍事クーデターが起こった。その軍事独裁政権に対してオーストラリアやニュージーランドが経済制裁を強めていた。このすきまに、中国は「内政不干渉」の立場をとり、インフラ整備や資源開発に対する借款供与や、フィジーの軍人の訓練まで約束した。2000年のG7のジュビリーの際、ヨーロッパ・米国などが、重債務貧困国の債務を帳消しにすると同時に、将来、これらの国には、債務が発生しない贈与(グラント)で援助して行くことにしている。中国の借款の大盤振るまいは、近い将来に債務危機を再現するだろう。
フィジーは、米国とオーストラリアを結ぶ線上にある。「海洋国家」を目指す中国にとって、地政学的に重要な位置を占めていることが、習主席の訪問の理由であった。 同時に、この地域に対する中国の進出は、日本にとっても打撃である。なぜなら日本は早くからこの地域に接近していた。1971年、日本の肝いりでニュージーランドのウェリントンで第1回太平洋フォーラム(PIF)を開いた。現在これは太平洋島サミットと呼ばれ、3年にごとに東京で開かれており、16カ国が参加している。今回の中国の鳴り物入りの開発プロジェクトへの援助供与は、日本の地盤低下をもたらしているから。
◆中国のあたらしいシルクロード計画
中國は、400億ドルの資金でもって、「シルクロード経済ベルト」と「21世紀の海上シルクロード」の建設はじめると発表した。この時のシルクロードは複数である。多分これは、これまでの世界の前例から見て、最大規模、かつ最も多様で、野心的なインフラ建設プロジェクトになるだろう。これまでのところ、高速鉄道の入り組んだネットワーク、複数のパイプライン、複数の港湾、光ファイバーなどの建設が予定されている。すでに中国は中央アジアを通って、ロシア、イラン、トルコ、それにインド洋に至る通信ネットワークの建設に着手している。将来これは、ベニス、ロッテルダム、ベルリンなどヨーロッパの各都市に広がっていくだろう。 中國のアジア太平洋の夢が東アジア地域に留まっていないで、汎ユーラシア経済協力構想だと言うことに気が付いた米国、とくにウォール街は大恐慌をきたしている。
◆中・ロの新しい同盟
一方、中國とロシアの戦略的パートナーシップは、様々なレベルで進んでいる。これは、ウクライナ問題で米国、ヨーロッパから制裁を受けているロシアのほうが熱心である。
中・ロ接近が見られるのは、まず第1にエネルギー分野である。ロシアは、これまで西を向いていたのを、東アジアに切り替えた。その最大の例は、昨年5月に、天然ガスを西シベリアから、アルタイ・パイプラインを通って、中國に運ぶというメガ級の取引があった。
ここで見落としてならないのは、金融の分野での中・ロの協力である。これまでの、ロシアの通貨ルーブルが、米ドルとユーロにペッグ(自国の通貨を米ドルにに連動させる)していたのを、廃止した。ロシアの銀行VTBは、これまでのロンドン株式取引所での取引をやめて、上海取引所に切り変えるということを発表した。上海は、香港取引所と直接に取引をすることになっている。そして、香港の株式取引所には、すでにロシアの石油王たちが目を付けている。エネルギー部門での中・ロの大量の元・ルーブル取引は、ロシアが投機的、かつ政治的な西側からの攻撃から、ルーブルを守ることが、差し迫った必要であった。
中・ロの戦略的なパートナーシップは、エネルギー、金融の部門から、やがて軍事技術の分野にも見られる。ロシアは中国にS−400対空防衛システムを供与しようとしている。のちこれにS−500も追加されるだろう。また中国は、地上対戦艦搭載ミサイルを開発しようとしている。この部門でのロシアの協力は、ひそかに進んでいる。APECでのオバマ大統領と習主席の首脳会談では、米・中は、主要な軍事演習について、相互に報告しあうメカニズムについては合意した。これは、オバマ大統領のささやかな勝利であった。
------------- Yoko Kitazawa (国際問題評論家)
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
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