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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2014年12月30日22時23分掲載
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文化
【核を詠う】(170) 波汐国芳歌集『渚のピアノ』(2) 「被爆苦を超えんとしつつ吹雪くなか我の走れば並木も付き来」 山崎芳彦
波汐さんの歌集『渚のピアノ』の刊行は2014年の短歌界にとって、やはり貴重な果実として評価された。様々な評言がある。東日本大震災・福島第一原発事故にかかわっての作品を、自らの歌人としての立ち位置を明確に定めて多くの作品を発表し続けている仙台市在住の歌人である佐藤通雅氏は、現代短歌新聞の5月号(平成26年)で、「福島に生きる人の歌」と題して、歌集の作品をひきながらの批評を書いている。波汐さんについての紹介もあるので引用させていただく。「波汐国芳は一九二五年にいわき市に生まれ、現在は福島市在住。もうじき九十歳に達しようとする今日まで、福島に根を下ろしてきた。そして思わざる原発事故に遭遇する。事故後のいわきの浜辺を歩いていて、半ば砂に埋もれているピアノに出会う。白い歯をむき出し、まだ息があるようにも思えたという。歌集の題はここからとった。」と、記したうえで、作品を上げながら多くのことを述べている。
例えば、「赤々と釣瓶落としに落つる陽(ひ)のどさりと重し被曝してより」「被爆して逃れし人らの『仮設』見ゆ 白々と見え他界の如し」「セシウムは部屋隅にまで立ちおりて我が起き臥しに獄吏の如し」の三首を挙げ、 「これらの作品はどれもが重い。被曝の場にいなければ感受できない事々が形象化されている。三首目の『獄吏の如し』には、思わずこちらが息をのみさえする。渡辺白泉の『戦争が廊下の奥に立っていた』もおのずと想起される。」と評する。 また、「原発に追われ追われて病む友の意識戻らぬ生の空洞(うつろ)や」、「本当の写実とはそれ 原子炉の見えない奥も見た君である」の2首を挙げて、 「大熊町から避難し、いわきで無念の死を迎えた佐藤祐禎への挽歌である。佐藤は自ら原発の作業員になり、その杜撰な工事を目の当たりにする。『奥も見た君』とはそのことをいっている。」とも述べる。 「福島に生き福島を見据えてきた波汐に『福島産の果実を食(く)えぬという人ら福島産の電気食いしを』のような批判精神が頭をもたげるのは、当然のことだ。だが、感情を先立ててはいない。背筋を真直ぐに立て、内部を抑制し、しかし眼をそらすことのない気迫がある。」とも言う。佐藤氏の評言の実のある確かさを感じた。
ほかにも、短詩形文学に所属する東京在住の歌人の日野きく氏は、「セシウムの半減期四十年そは刑期 このまま死なば獄中死とや」をはじめ七首の波汐さんの作品を挙げながら、「著者波汐国芳は福島に住み、反原発の立場で詠みつづけてきた。・・・本著ではこの三年間の津波、放射能被害の現実を精力的に果敢に歌って迫力がある。直接の被害者として告発の歌集でもある。」(うた新聞、5月号)などと述べている。
また、神戸市在住の歌人、中川昭氏も、作品を挙げて、「前著『姥貝の歌』に続いてこの『渚のピアノ』は、福島県民の遣場のない怒りや悲嘆が永遠に終わるものではないことを再度突きつけた点において、激しく私の心を揺する。」として「博多人形 地震の揺れに向きを変え顔のあらぬは他界へ向くも」「被爆して逃れし人らの『仮設』見ゆ 白々と見え他界の如し」「雪深き其処は墓場ぞ積む雪の積み残したる鬼火も見え来」について、 「この他界観は、もはや波汐氏の絶望感にほかならない。他県のものから見れば仮設入居に安堵の思いを抱くのだが、波汐氏から見れば、それは白々と並ぶ柩のようにも思えたのだろう。顔のない人形にとって、美の喪失は魂の死を意味するものであるに違いない。鬼火は他界から送る怨霊たちの無念の合図のようにも読み取れる。」という読みを述べている。(うた新聞、5月号) そのほかにも多くの歌人が2014年の注目歌集として『渚のピアノ』を挙げ、それぞれの歌評をしている。
波汐さんの短歌作品をどのように読むか、これは作者と読者との、共鳴や、場合によっては格闘、あるいはすれ違いなど、一様ではないだろうと思う。しかし、真剣に作品に向き合い、作品が生み出される背景、表現によって明らかにされていること、さらには、特に原子力詠を読むについては、原発事故の被害、放射能禍、自分が生きている原子力社会との向かい合い、いま具体的に進められている原発再稼働などの政府の政策などを自らに関わることとして認識し、把握することをしなければ、波汐さんが短歌表現する、原発事故被災によってもたらされた「非日常を日常として生きなければならない」現実を受け止めきれないのだろうと、筆者は思っている。短歌作品を読むとき、その作品によっては自らの生き方を問うことも必要かもしれないのだ。
いま、渡部良三歌集『小さな抵抗 殺戮を拒んだ日本兵』(岩波現代文庫)を読んでいるのだが、戦争と人間について、そして決して過去のことではない「戦争の時代」あるいは戦争へと進むことになりかねない現在について考えさせられ、いま現実のこの国のありよう、政治と社会について思うことは多い。原子力の問題ともかかわり通底する政治・社会的事象もあるに違いないと感じている。。 いつか、この歌集について、また収録されている渡部氏の講演記録などについて触れてみたいと考えている。
いまは 波汐さんの作品を読み続ける。
◇亡 霊(抄)◇ この夕べ降り積む雪の締(し)まりつつセシウムたちの翅きしむ音
セシウムは煌(きら)と光れる翅持てば死をば運び来 遠き闇より
白鳥はインフルエンザをセシウムは死灰運ぶを翅閃(ひらめ)きて
雪運ぶ セシウム運ぶを背(せ)に聴けば鬼のカロンが小舟漕ぐ音 (「鬼のカロン」はダンテ神曲「地獄篇」のアケロンテ河の渡し守)
雪掻きて運ぶ老いらに重ねんか髪燃えセシウム運べる鬼を
セシウムの亡霊たちが漕ぐ舟か櫓の音響く暗き海より
ギーコ ギーコ櫓をこぐ音の一頻(ひとしき)り翳れる鬼の腕より響く
◇鬼◇ 放射線免疫(めんえき)なりと居直りて夏草(なつくさ)闇に分け入る妻ぞ
辛夷咲き ほつほつ山の笑えどもセシウム禍(か)ゆえに心ひらかず
今年又万作のはな鬱の胸 セシウム塞(ふさ)ぐ胸に点(とも)れよ
福島よ頑張れの声 被曝地のもっと怒れの声と曳(ひ)き合う
「福島よ頑張ろう」の幟(のぼり)を景として括(くく)りに夕陽のあかんべ置くも
鬼遣(おにや)らいの豆もて討つを吹雪(ふぶ)くなかセシウムの鬼 福島の鬼
鬼遣らい追っても追っても隠れいるセシウム鬼(き)とぞ 泣き虫いずれ
原発の建屋の闇が生んだ鳥 追っても追っても逃げない奴だ
セシウムは悪霊なるを六十年居座るとうそのしたたかさ
掃き溜めの嘴太(はしぶと)カラス次々に終(つい)は色なきセシウム漁(あさ)れ
セシウムは炎立つ鬼 闇深野分けつつ来るをわれの死後まで
負けないぞセシウム汝(なれ)を泣かさんか吾(あ)は歌詠みの鬼なればこそ
◇どこまでも闇◇ 被曝苦を超えんとしつつ吹雪くなか我の走れば並木も付き来
我が街にセシウム減らず戦(おのの)きて手繰り手繰るを何処迄も闇
被曝地の果実は買わぬ食(は)まぬとう人ら頻(しき)りに頑張れを言う
うつくしまと宣(の)らしし福島どこまでもセシウム咲くか菜の花畑
福島の桃食(は)みなされ多き口に食みてセシウム減らし下され
福島産梨齧(かじ)る音しゃりしゃりとセシウム齧ればセシウム減るや
福島の林檎は旨し セシウムのさくさく旨しと居直るわれぞ
豊作とう飽食林檎セシウムを食(は)みつつあらば其(そ)を食み尽せ
セシウム魔ひそむ知りてや庭先の夕顔白き耳立つるらし
朝の菊 霜浴びたるを抱(かか)えくるセシウム抱えきたる妻はや
夾竹桃咲き盛りつつ花明り被曝暮らしの底いも見せて
セシウムを洗い落とさんトマトより朱(あけ)こぼしたり笑みこぼしたり
福島産トマトが身籠るセシウムの真っ赤な鬼を囲める夕餉
薔薇が咲く風吹くたびに揺り出でて被曝の地にも明るむところ
セシウムに塞(ふさ)ぐ我らへ辛夷花移さんほつほつ開く笑みこそ
◇炎立ちゆく(抄)◇ セシウムを蝦夷に見立てて雪深野(ゆきふかの)炎立(ほむらた)ちゆく我が田村麻呂
セシウムは我らに魔王 ありありと線量計ゆ起(た)ちて統ぶるを
福島を福みつる島と読み替えて何とまあこのお人よしたち
原発事故 福島でよきと余所人(よそびと)らぽろりこぼしし本音の重さ
放射能憎み憎むを草深野炎立(ほむらた)ちゆく我が心ぞや
被曝二年福島の闇潜(くぐ)り抜け雪解(ゆきげ)の水の起(た)つこころなり
阿武隈川セシウム流るるこの川の今一度清(すが)しき空を呼べるか
次回も『渚のピアノ』を読み続ける。 (つづく)
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