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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2015年02月03日23時50分掲載
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女性自爆テロリストを妻に持った男の旅路 ヤスミナ・カドラの小説「テロル」
テロリズムはイラクであれ、アフガニスタンであれ、パキスタンであれ、毎日のように起きている。かつて19世紀のロシアでもテロが頻発したが、作家のドストエフスキーは「悪霊」という小説でテロリストの人間像を描こうとした。今日でもテロリストの内面に迫ろうとする小説に真摯に取り組んでいるイスラム教世界の作家がいる。アルジェリアのヤスミナ・カドラもその一人だ。カドラには3部作と呼ばれる小説群がある。
「テロル」(2005)ではイスラエル人として裕福に暮らすパレスチナ出身のアラブ人外科医が妻の行った自爆テロに衝撃を受け、その理由を探る旅に出る。謎を解く中で、イスラエル人とパレスチナ人双方の本音が見えてくる。推理小説も書くカドラらしく、エンターテイメント小説としても抜群だ。2005年にフランスのゴンクール賞候補にも挙げられた。
「カブールの燕たち」(2002)は不治の病で余命少ない女性の物語。彼女の夫は看守。その夫が美しい女死刑囚に恋をしたため、身代わりになって死刑を受ける物語である。 舞台はタリバン支配下のカブール。女死刑囚はタリバン支配の前は法律家だった。彼女の夫は事故死だったが夫を殺害した嫌疑で監獄に入れられ、見せしめの死刑に選ばれることになった。その女性を看守をしている夫が深く愛している・・・。 看守の妻は病に臥せったまま孤独に思索を続け、やがて夫を生かすため自ら死を選ぶ。数日間にわたる男女の内面の劇が、鋭い構成力で描かれ一気に最後まで読ませられる。
「バグダッドのサイレン」(2006)は田舎からバグダッドに学びに来た青年がイラク戦争勃発で村に帰る。しかし、村人が米軍に不条理に殺されるのを何度も目撃した主人公はテロ組織に加わり、テロ実行のためロンドンに向かう。しかし、旅の途上、心の葛藤が起きる。英国で起きたテロ事件もモチーフになっている。
いずれもパリの大手出版社Julliardからフランス語で初版が出ている。カドラの小説は神と男と女、この3者の関係を追究している。今までニュースで見飽きてステレオタイプの関心しか持ち得なかった素材に、我々が日常的に考えている恋愛や死といった普遍的テーマを持ち込んだ。そのため世界の読者が魅力を感じ、主人公の体験を追体験できるのではないかと思う。たとえばキリスト教徒の読者でもイスラム教徒の主人公に感情移入できる。
カドラはかつてアルジェリア軍に所属し、妻の名前をペンネームにしてコツコツ変名で小説を書き続けていた。熱愛する奥さん・ヤスミナさんのアドバイスを聞いてしばしば書き直しているそうだ。「アラブ=イスラム諸国の愚かしさの根源は女性を排除していることにある」とも言っている。(‘Rue des Livres’インタビューより)カドラは後に小説に専念するため軍を退役した。
「テロル」では、なぜ妻がカミカゼ=自爆テロの実行犯になったのか。妻の内面に気がつかなかった夫であった自分を正面から、あるいは妻の目から見つめ直す辛い旅が始まる。「カブールの燕たち」でも夫婦の心のずれが描かれる。あまり語られなかった女性の声が大きな要素になっている。そのため宗教や国際政治に関心がない読者でも、男女関係を描く新しい小説として興味深く読めるのではないか。
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