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2015年02月06日21時57分掲載
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文化
【核を詠う】(172) 波汐国芳歌集『渚のピアノ』の原子力詠を読む(4) 「冬囲いの菰(こも)を外さば列なさん木喰い・人喰い虫・セシウム魔」 山崎芳彦
いま読み続けている波汐さんの短歌作品に福島原発事故によってもたらされている核放射線にかかわって詠われたすぐれた作品が多い。今回抄出する作品の冒頭は「セシウムは鳥」と題する一連である。原子力災害の過酷さは、直接の健康被害がいま生じているかという視点を超えたところにある。10数万人に及ぶ人々が避難を強いられ、放射線被曝の不安に苦しめられ、今現在にとどまらず将来にわたる不安を抱えて生きなければならない、家族が離ればなれの生活を強いられ、職を奪われ、農畜産物海産物などが売れなくなって生活基盤を失うという危機に落とし込まれた人々も多い。原発事故から間もなく満4年になろうとしているが、原発事故の最大の問題である核放射線による被災の現実と将来について、政府と原子力利権マフィアは核放射線安全論を広げ、「復興」の名のもとに避難者の帰還促進、被災者、避難している人々に対する補償の軽減・打ち切り、さらに権力・金力による原発再稼働の促進など、理不尽の限りを尽くしている。
前回に記したいわき市の日々の新聞社刊行のブックレット『このさんねん』に掲載されている「西尾正道さんのはなし 放射線の人体への影響」を読み、大切なことを学ばされた。西尾正道さんは「1947年函館市生まれ。札幌医科大学を卒業後、北海道がんセンターで39年間、がんの放射線治療に従事し、2013年に北海道がんセンター名誉院長になり、NPO法人いわき放射能市民測定室で甲状腺の検査をボランティアでしている」、と『このさんねん』で紹介されているが、市民と科学者の内部被曝問題研究会の呼びかけ人にもなり、同会に所属し、貴重な役割を果たしている。西尾さんは、「ぼくはずっと医者として放射線の光を追ってきました。・・・医学のなかでいま、もっとも進歩している領域の一つが放射線診断学と放射線治療学です。/福島の原発事故が起きて、この三年は仲間うちの放射線外科との闘いにもなっています。それまで放射線の光の世界で頑張って医療ムラと闘い、三年前から原子力ムラとも闘って、少し重すぎます。本当に、ぼくは孤立無援の闘いとなりました。/要するに、医者の知識は基本的にICRP(国際放射線防護委員会 筆者注)で固められています。・・・ICRPのいまの防護学は科学ではありません。あれは物語なのです。原子力政策を進めるためのフィクションなのです。」(「このさんねん」より、以下同じ)と西尾さんは述べている。 がん治療一筋の40年間、放射線治療に関してもきわめて多くの経験と、同時にがん医療における放射線の使い方に問題意識を持っている西尾さんの「放射線の光と影、表と裏」を見据えた、福島原発事故による核放射線被曝問題にかかわっての知見と問題提起に、筆者は感銘を受けた。
その「西尾さんのはなし」から、いささか長くなるが、筆者が特に刺激を受けた部分を引用させていただきたい。科学や医療についての知識の乏しい筆者の引用に不正確、不適当な部分があったらと怖れながらの引用である。全文を読んでいただくことが何よりのことではあるが、本稿では一部の引用しかできない。お許しを願いたい。 「(福島県民健康管理調査に関して)ぼくが一番言いたいのは甲状腺検査の画像データを本人に渡すこと。自分の医療情報は自分のもので、福島県立医大のものでも、健康管理センターのものでもない。動画でなくても、何カットかの画像をその場で本人に渡せばいい。・・・なかには数年で出てくる人もいるが、もし甲状腺がんが起こるとしたら十年、二十年あとのこともある。・・・その間、県立医科大で膨大な画像を、だれがどう管理するのか。そういう保証はまったくない。いまの医療法での保存はカルテが五年、画像が二年。・・・証拠隠しに処分されてしまうかもしれない。だから本人に渡す。十年後に東京で暮らしていても、検査時に過去の画像と比較できれば情報は倍になる。・・・将来、どこで暮らしても、住んでいる地域の病院で、信頼のおける医者に過去の画像と見比べながら診てもらうのが一番効率よく確実で、そのために画像を本人に渡すのが大前提だ。」とは、まことに貴重で実現すべき提言であろう。放射線被曝対応に関する基本だと思う。
「いまの健康管理は厚労省が環境省に丸投げしている。これは大変な問題。・・・福島第一原発の事故で被曝し、全国に散らばっている人たちは検査を受けたくても、なかなかできない。・・・基本的に検診は保険診療にならないので、すべて自己負担。検診として全額自費にするのか、『疑い病名』をつけて保険診療として申請するのか、医療機関や医師によって態度が違う。こういうことをどうするのかが、まったく議論にすらならない。」との指摘もまた、被曝不安による避難者にとって貴重だ。
「放射線は線量が高くなれば、健康への影響の頻度が高くなり、たくさんの人に影響が出てくる。そして線量が多ければ多いほど、早く出てくる。それが放射線治療医の常識だ。・・・がんの発達、細胞分裂の時間的な経過から見ても、何年かかかるのは確かで、いますぐ『原発事故のせい』とは言い切れない。多面的に分析してみると、まだまだ結論は出せないのが現状で、淡々ときちっと、早く検査を進めていくことしかない。/チェルノブイリで甲状腺がんが増えたのは四年後で、その程度の時間はかかるという考えも成り立つ。もし今回の事故がチェルノブイリより放出された放射線量が少ないとしたら、もっと遅れて出てくる可能性がある。」
「一つの科学的データ(結論)を出すには、とんでもない労力がいる。ただ、いまの甲状腺検査のやり方がとても不誠実なのは、社会的に非難されるべきだと思う。/正しい説明を医者も、ジャーナリストもしていない。医者がしようとすると、医師会などもそうだが、内容を放医研に委託する。そこには御用学者の塊のような医者しかいない。膨大に研究費をもらい、恵まれた環境下では、残念ながら反権力的なことを言う腰の据わった人はいない。」
「(100mSvまで大丈夫の裏側)事故を起こした責任は東電、政府にあるのに、国や健康管理センターは膨大な人体実験をしている。広島と長崎に原爆を落したあと、米軍がほとんどデータを収集した。今回はIAEA(国際原子力機関)、ICRP、政府、東電など原子力ムラの連中が、長期、低線量被曝の場合にどうなるかを、福島の人たちを使って人体実験をしている。核反応生成物からできた放射線の人体への影響はよくわかっていない。わかっていなかったから、ロシアの研究者や医者が調査、研究をし、チェルノブイリではデータがいろいろある。/しかし日本政府はそれを参考にしていない。ICRPが原子力推進のためにつくった物語を語り、御用学者を使って『何でもない』と言っている。それは科学ではなく、原子力政策を進めるための疑似科学であり、物語にすぎない。/医学論文には『20mSv以下でも発がんのリスクが高くなる』と、たくさんのデータがある。世界中の原発労働者のデータがある。しかしICRP、IAEAはいっさい反応しない。彼らは全くデータを持たず、物語を作っているだけ。」 「その根拠になっているのは、六十年以上前の原爆のデータで、一回の急性被爆の、それも不完全な調査のデータ。爆心地から2km以上離れた100mSv以下の被爆者の調査はされていないため、データがないのを『100mSv以下の過剰発がんのデータはない』と嘘を言っている。/慢性のだらだら被曝の影響はわかっていない。事故が起きても『100mSv以下は大丈夫』ということにしている。」との指摘は厳しく、正鵠を得たものと思う。
「チェルノブイリのあと、一九八〇年のICRPの勧告で上手に作文して、原子力政策を進めるための内容で教科書を作り、世界中に流布し、それが今の世界中の御用学者の教科書になっている。医療関係者もそれを読んで教育されている。/今回のようなことが起きても、ほんとうの意味で問題意識を持たない。教科書を読んだら『いまの量なら心配ない』ということになる。だから日本の場合はよけい、医者や科学者が動いていない。チェルノブイリは物語が完成されていない時代だったから、みんなが一生懸命に調査、研究をした。/日本の場合は完成された安全神話でつくられた教科書を読んだ関係者ばかりだったら、問題意識を持たない。」 「今回の事態で一番大事なのは、そういう姿勢がいまの日本の判断基準になっているということ。・・・ICRPは急性被曝、しかも外部被曝しか考慮しないという視点で物語をつくっている。ヨーロッパのグループ(ECRR、欧州放射線リスク委員会 筆者注)は内部被曝、それに慢性被曝も考慮し、実際に疫学調査をして、発がんの危険性が多く、低線量の放射線の影響もしっかり出ているという現実に足を置き、分析している。いま政府がやっていることは一方的なICRPの理論だけをみんなに押しつけて啓発し、『安全だ』と言っているだけ。ところがそれだって、科学的にはほとんど根拠がない。」
「(いま、なにをすべきなのか)いま、科学的にきちんと、測定するシステムをつくる。内部被曝線量を測定するために、歯科医は乳歯が抜けたら一万円を払ってアメリカに送っている。おしっこをためて、フランスに送っている。毛髪はドイツに送っている。こんなばかな話はない。科学立国と称する日本が、こんなこともできない。・・・健康調査をするにあたって、その測定も同時にしていく。そして結果をつきあわせていく。何年かかっても国家的なプロジェクトとして組織的にやる、という科学的なスタンスがどうしてないのか。一番にまずやることはそれ。そうしないといつまで経っても空論、データがない所でやっても結論は出ない。甲状腺検査にしても・・・全国に散らばっている福島の人たちが気兼ねなく検査を受けられる体制にする。その結果をナショナルセンターみたいなところに集めて、同時に集計すればいい。/福島だけでやることが非常におかしい。全国のしかるべき専門の先生がかかわれる。長い目で見たら、せめて最低それぐらいのことはすべき。」 これは原発促進の政府と共犯関係にある「科学者、研究者、医療関係者」の隠蔽と欺瞞の姿勢、反人間の本質をあらわにした現状への指弾であり、いま急がなければならない課題の提起として鋭いし、原発事故を経験させられた、被曝を強制させられた、させられようとしているこの国の人々が立たなければならない足場となる言葉だろう。
「放射線による食品汚染はこれから永遠に続く。どこで、どのくらい摂取したかわからないなかで、内部被曝を測定できる体制をつくることが大事。例えば心配だったら、尿検査なら半年に一度ぐらい検査すれば0・数Bqからわかる。/いま、海の汚染が騒がれているけれど、結局、タンクに保管されている汚染水は、タンクが腐食して海に流れる。セシウムは九十年で八分の一にしかならず、海産物を通じて人間の口に入る。人類は二百年、三百年と未来永劫、放射線の内部被曝と向き合わなければならない時代になってしまった。これは日本だけの問題ではない。」、このような認識と自覚が求められていることを私たちは深く心に刻まなければならない。
「(実測値を測り、科学的データをつくる)内部被曝、慢性被曝が重要といっても、頭ではわかるが、具体的なデータがない。内部被曝がこれくらいの時に、どういう障害が出ているという調査もされていない。/科学の原点は実測値を収拾し、現実をきちっと分析すること。しかし現実を分析する体制や手法すら持っていない。例えば、α線は危ない、プルトニウム、ウランが出ていると言ったって、どれくらい出ているのか、測っていない。/ストロンチウムが大量に出ていて、そこからβ線が出ている。骨に沈着して子どもの成長に関係し、白血病が増え、骨の病気も増えるかもしれない。しかしβ線も測っていない。まったく実測値を測ろうとしない。そんなでたらめの姿勢では、いくら時間が経っても結論は出ない。/甲状腺の被害がこれぐらい出たといっても、甲状腺にどのくらい放射線を浴びたのか、測っていないから結論は出ない。政府が実測値を測ろうとする姿勢がないから、これだけ除染に膨大な金を使い、県立医大も無駄な医療機器を買っているが、α線、β線を含めた人体の放射能測定ができるようなものに金を使おうとしない。そういう知識もないし、頭脳構造もない。/実測値を測定し、数値と健康被害をつきわせて、科学的データを作る。そういうことができていない。」 原爆被爆国であると言いながら、何をしてきたのだろうか。原発列島化に危機意識を持たず「原子力の平和利用」「技術の発展、進歩」の詐術に乗せられた社会の生活に甘んじて来たことを省みなければならないと思う。
西尾さんは、『このさんねん』にまとめられた話の中で、もっともっとたくさんの、貴重な見解、問題提起をされているのだが、最後に、 「(放射線の影響は甲状腺だけなのか)若者の突然死が震災で増えているのか、いないかを調べればいい。小学四年生の心電図異常が倍ぐらい増えているデータもある。けれど循環器の先生が真剣に取り組んでいるかというとそうではない。学校自体もわからない。/悪性腫瘍は放射線健康被害の十分の一でしかない。極端に言えば、近代人のがんの罹患者数、特に日本の場合、高齢者が増えているからだけでは、がんが増えている説明はつかない。百年前、がんで死んでいる人は2パーセントだった。/核実験を含めて、地球上に放射能がばらまかれ、化学物質などの複合汚染が絡んで発がん率が高くなり、遺伝子に傷をつける原因になり、罹患率の上昇に繋がっている。」という指摘を引用しておきたい。
波汐さんの作品を読む前に、『このさんねん』の記事からの長い引用を連ねたが、作品を読んでいくうえでも有用だと考えてのことである。お許しを願いながら、短歌作品を読んでいきたい。
◇セシウムは鳥(抄)◇ どこまでも菜の花咲くをこの村に摘んでも摘んでもセシウム消えず
馬酔木(あせび)とう庭樹の一つ揺り出(い)でて次々セシウム眠らせてゆけ
冬囲いの菰(こも)を外さば列なさん木喰い・人喰い虫・セシウム魔
セシウムと共に生くるをセシウムに透視されつつよろめくわれか
被曝線量日々に嵩(かさ)むを病葉(わくらば)の透きて見えくる命なりけり
セシウムは鳥の如きを鳥もちもて捕えん幼き我がはかりごと
被曝者のわれにも戻る羽ばたきか真夜(まよ)をざぶりと浴(あ)ぶる風呂より
鬼遣(おにや)らいの鬼も戻れよ戻り来てセシウムを討つ我にくみせよ
◇負けてはおれぬ(抄)◇ 被曝とて負けてはおれぬ阿武隈川眠れる森を揺り醒(さ)ましゆけ
丹精の夕顔ばなの喇叭なり おお、復興の街をし呼ばん
息吐いてマラソンがゆく譬えれば福島おこしのSLである
駅伝の若きら福島の坂をゆく 奮い立ちつつわれもゆかんか
被曝苦ゆ抜けて駆くるに吐く息の夕めらめらと炎(ひ)を招きたり
除染(じょせん)など待たず枯れたるぼうたんの枯れたるのちをわれに耀(かがよ)う
◇虹の橋(抄)◇ 薔薇が咲き風吹く度に揺れ出(い)でて被曝の地にも生(あ)るる笑みなれ
被曝地のローカルバスに峠越ゆひとりの客のわれと夕陽と
被曝地の花に水やり 虹の橋架くるを明日への夢も渡れよ
◇口語徒然(抄)◇ 藪つばき朱の口ひらき たった今誰かが其処で笑ったような
憎しみで祭りのようで我がひと世夕焼け小焼けの赤んべである
もうすぐに辛夷が咲くね除染(じょせん)終えほんとの笑みも戻って来ますか
喰えぬのは山菜ばかりなのですか 原発喰えぬ政治も喰えぬ
ああ福島うつくしま等とうぬぼれの器に惨を容(い)れてしまった
薔薇園に薔薇のほぐれる微笑(ほほえ)みの抜け出て被曝の街を歩めよ
被爆百年 束(つか)の間(ま)ですか合歓(ねむ)ばなの睫毛さやさや森よ眠ろう
咲き盛る夕顔のはな誇りかにセシウムが其処で笑っています
津波に逢い 被曝にも逢い死者ら今レントゲンから出てくるような
◇小鳥らの恋(抄)◇ 被曝後を妻が撒(ま)く餌(えさ) 撒く笑みの誘うに今朝は小鳥らも来(こ)よ
放射能減りしを知るやこの園(その)にすずめ二つの恋も来ている
被曝後をようやく戻りし山鳩か空腹らしくひたに鳴く声
ずる賢き郭公鳴かず ずる賢きものは被曝知りているらし
虹立てり その向こうにも虹立ちて被曝の闇に窓あくような
◇オーボエ吹く娘(こ) 抄◇ 被曝地の土もたげ居る土筆らの首(こうべ)傾け光を分けよ
被曝後の公園に止まる息(いき)の根の何度も何度も揺するぶらんこ
喉(のど)震わせオーボエ吹ける乙女子(おとめご)よ被災の町に春をし呼ばん
ひばりひばり眩(くるめ)き閃き礫(つぶて)なし天より降るを誰討たんとや
天よりぞ笑い手繰(たぐ)らん滝ざくら滝なすほどに泣きたるのちを
町口に研師が光るを研ぎいたり噫(あな)復興の気先(きさき)研ぐらし
葡萄園 垂るる葡萄の瑞々(みずみず)と戻れ放射能降らぬ天こそ
除染とや産土(うぶすな)の土剥(は)がれつつ風寒々(さむざむ)とその土のいろ
除染とて地の面までも剥がれつつ見る見る町が無くなりそうな
次回も波汐国芳歌集『渚のピアノ』の作品を読ませていただく。(つづく)
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転載について
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