昨年11月、六本木の劇場で上映が開始されてから10ヶ月。野火のように全国に上映運動が広がり、現在600箇所以上で上映され、この後も約110箇所から予約が入っている映画です。「なぜ、弁護士がドキュメンタリー映画を作らねばならなかったのか?」と言う副題のため、素人が作った映画と勘違いされている方も多いのですが、実は表に名前を出せない映画人が結集して製作にあたった映画なのです。
■プロが結集
弁護士の河合弘之さんは脱原発弁護団全国連絡会の共同代表でもありますが、脱原発を広めるためにはビジュアルに訴えなければ!と言う思いから知り合いの映画監督A氏に3年前、脱原発映画の制作を依頼しました。しかし、原子力ムラがあるように、映画界にも東宝・東亜・松竹の映画ムラがあり、脱原発映画を作ったら仕事を干されてしまうから自分はできないが、と引き受けてくれる監督を見つけてくれました。
しかし、その人は単に映像を撮り溜めるだけ、1年経って河合さんの思いを形にする能力がないことが露呈。とうとう河合さん自身が監督をやるしかないと説得されます。責任を感じたA監督は信頼できる助監督、カメラマンなどを付けてくれることになりました。脱原発仲間には内緒で進めてきた映画制作でしたが、腹を括った河合さんは、海渡雄一さん、私、木村結を引き入れ、3人の頭文字からKプロジェクトとして再スタートを切りました。忙しい人びとですから会議はいつも夜9時スタート。終電がなくなりタクシーで帰ることもしばしばでしたが、全く知らない映画の制作。毎回ワクワクの愉しい時間でした。
監督が付けてくださった助監督はCM映像作家でもあり、30秒15秒の中で見ている人に強烈な印象を与えることに長けています。この映画がスリリングで、軽快なリズムを持っているのは、このペンネーム拝身風太郎さんの力によるところが大きいのです。彼は、全く原発には興味のない人でしたが、河合さんが本気であることを感じるや原発のことを猛勉強。原発推進側の資料や映像をふんだんに集めてくれました。
また、新入社員には「キミ、今、日本で原発は何基動いている?」と必ず聞くという映像編集の社長も、脱原発のためならひと肌脱ぎましょう!と大協力。テレビCMの世界や劇映画で鍛えられているカメラマン、多くのプロたちが結集して私たち素人の脱原発の思いを形にしてくれたのです。尤も、海渡雄一さんも私も無類の映画好き。海渡さんは一度は映画を創ってみたいと思っていたそうですから、思いはひとしおでした。脚本は海渡さんが書きました。ただ、弁護士という職業病?のためか理屈ぽく、何でもギッシリ詰め込まないと気が済まないようなので、私は常に、中学生が観ても分かるように、を心がけダメ出しをする係りでした。
■改訂版
この映画は原発の論点を全て論破することが使命でしたが、映画制作中に、日本の状況が「戦争法案」によって大きく変わってしまうことは予測できませんでした。テロ対策が抜けていました。更に内部被曝の問題。7月31日に出された、東電元取締役、勝俣、武藤、武黒の3名を起訴すべきとした検察審査会の決定、そして東電株主代表訴訟の動きなどを盛り込み、「日本と原発 4年後」という改訂版を制作しました。こちらは10月10日から3週間、渋谷ユーロスペースにて公開されます。
■第二弾の映画
また、第二弾として再生可能エネルギーの映画を準備しています。8月23日からロケを始めます。ドイツ、デンマーク、中国などで行われている再生可能エネルギーへの取り組み、地産地消を実現している地域など、世界の実態を伝えると共に、日本の各地で実践されている取り組みも紹介し、遠い未来の話だと思わされている再生可能エネルギーは既に生活を支えている現実であることを知っていただける映画になります。こちらも会議を重ね素人の思いをプロたちの力で素晴らしい映像に創り上げてもらえるようミラクルを起こそうと思っております。来年の春には公開予定ですので、お愉しみに。
マイケル・ムーアのドキュメンタリーを何本か観た河合さんは「今日から僕はマイケル・ムーア・河合だ」と真っ赤なCAPをかぶっておどけていましたが、撮影が進むとCAPをかぶることもなくなり、映画監督としての風格を感じられらようになりました。世界各地の映画祭に応募している「日本と原発」が早く受賞し、赤絨毯を歩くという河合さんの夢を叶えてあげたいと思っています。
皆様も是非、有料試写会を計画したり、授業で上映(無料の70分版あります)されたり、ご協力ください。
寄稿: 木村結 ( 東電株主代表訴訟事務局長 )
「日本と原発」公式HP
http://www.nihontogenpatsu.com/ 問い合わせ info@nihontogenpatsu.com
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