ローストチキン、フランス語でプーレ ロティはフランス人たちにとっても、ちょっとしたご馳走。フランスの家庭でも休みの日になると、お父さんが「今日はプーレロティにするか!」などといって台所に立ち、料理を作る父親を尊敬のまなざしで見つめ、子供たちがわくわくしているようなイメージの家庭料理でしょうか。
フランス人もグローバル化の波に押されて、外食が増え、最近はそういった家庭も少なくなりつつあるようですが。とは言っても、パリなどの都市の町中でもいたるところでプーレ ロティが回転式焼き台でぐるぐるぐる、と焼かれながら回っています。一番下には、じゃが芋とにんにく、玉葱などを敷きつめていて、落ちてくる鶏の香りたっぷりの脂や焼き汁を余すところなく吸わせ、付け合せにして鶏のすべてを楽しみます。
こちらもお肉屋さんや惣菜店の店先にあり、日本のお母さんがパックのてんぷらを買っていくようなイメージです。フランス人に言わせれば、代表的な国民食といったところです。もちろん立派なレストランの料理でもあり、こだわり派のビストロなどでプーレ ロティが自慢料理!と言う店も数多くあります。こちらも一羽丸ごとを恭しくギャルソンが熟練の手さばきで切り分けてサーヴィスする、と言った趣です。
家庭でお父さんが作るときは、オーブンに鶏と野菜を放り込んで、残りもののハムやソーセージ、サラダなどを食べて、ワインを飲み、しゃべっているうちに小一時間が過ぎて、こんがりきれいに焼き上がった鶏と野菜を食卓に載せ、モモ肉かい?胸がいい?なんて話しながら、てきぱきと捌いて、野菜と共に皿に盛ってみんなで食べる。というのが、典型的な週末の過ごし方でしょうか。フランスにはたくさんの種類の鶏がいて、皮の色や、身質もそれぞれ個性にあふれています。ココの肉屋のこの鶏がうまいんだ、いやいや、ウチはこっちが好みだよなんて会話もお父さん同士の日常の楽しみの一つでしょうか。
我が家でも、今日は誰か仲間と食卓を囲みたいなとか、特別感を出したいな、というときは、プーレ ロティを焼きます。丸の鶏はいつも冷凍庫にストックしてあり、やろうと思ったときにすぐに出来るようにしてあります。(スーパーが遠いもので。)近所で買うお気に入りのおおぶりの地鶏は一羽1500円くらいなので、付け合せの野菜代を入れても一人500円くらいで四人分のちょっと豪華な夕食が楽しめます。
鶏が丸ごと入るオーブンがあるので今は手軽に出来るようになりましたが、実はオーブンを購入する前からやっていました。オーブンがなくてどう焼くのかと良く聞かれるのですが、そのときはフライパン一枚で焼くのです。ラグビーボール状にタコ糸で縛り、フライパンの上でころころと回転させながら、超〜弱火で60〜90分くらい付きっきりですべての面をじっくり忍耐強く焼くと、こんがりと黄金色したローストチキンが出来上がります。でも、フライパンで焼いているので正確にはローストではないですが…。
僕自身は運転免許がなく、出かけるときは妻頼り。妻がいないと休みに外へ出かけられないので、必然的に時間がたっぷりできる嬬恋だからこそ出来るやり方でしょうか。来た当初は余暇をもてあまして不自由を感じるかと不安いっぱいでしたが、人間慣れるもので、出かけることができないストレスはそんなにありません。掃除や料理をすることが楽しみな休日ばかりです。都内に住んでいる頃、ローストチキンは外に食べに行くもので、家庭でやるなどとは思ってもみませんでしたが、いかんせん仕事終わりに寄れる店が近所にないもので、仲間との飲みも、妻との食事ももっぱら自宅です。
とにかく、妻が仕事で、僕だけが休みという日(コレが結構多いのです)はゆっくり起きた後に、残りの半日をかけて、夜帰ってくる妻に料理をじっくり作るというのが、僕の休みの過ごし方の定番です。フランスのラジオをかけて、それっぽい雰囲気を作り、ビールかワインをひっかけながらだらだらと6時間くらい後の夜に向かって食事の用意をするというのはなかなか楽しいものです。
じゃが芋の皮を剥いて切り、にんにくを粒に分けて、玉葱を切ります。鶏に塩をたっぷりとよくすり込んでから、慈しむようにうっすらとオイルを塗ります。鶏に火が通りやすい室温になるまでは、僕は映画を見ながらゆっくりとして、鶏は置いておきます。まるまる2時間常温に放置するとちょうど良い具合に肉が緩んでくるので、そこから妻が帰ってくる時間に合わせて焼きます。
野菜を並べて鶏を置き、オーブンに放り込んだら、床やキッチンの掃除をして、サラダやオムレツなど簡単な前菜の用意をしながらテーブルクロスを選び、皿とカトラリーを並べてテーブルを作り、今日の花もしくは鉢植えを選んで飾ります。ワインを氷水に放り込み、冷えた頃に妻が仲間を連れて帰ってくるという計算です。妻は僕が休みに何をしているかを知っているので、こういう日は特に期待して帰ってきます。後はわいわいと前菜を楽しんでいるうちにちょうど良い具合に焼きあがり、テーブルに運んだ鶏を皆で分けて食べると言った具合です。
僕が大事にしたいことは、皆で食卓の料理を囲むときは分けることの出来る料理にしたいと言うことでしょうか。気の置けない仲間と食事を楽しもうとするときは、コース形式で次々に料理を出すために、付きっきりで料理を作ることではなく、自分も一緒に楽しむことの出来る料理の選択が重要かもしれません。大きなグラタンでもいいし、鍋でもいいのです。ただやっぱり丸焼きの豪華さは食べる人をうきうきさせてくれるようで、何度も見ている妻も歓声を上げてくれます。
時間がさらにあるときはマデラ酒や、茸等で別にソースを仕立てたり、野菜を一緒に焼かずにキャベツを添えたり、ジャガイモをマッシュしてみたりと付け合せにこだわれば、より楽しく豪華になります。皮をパリッと焼いて、身はしっとり、わいわい捌いて食べるローストチキンは我が家でも楽しみなご馳走です。
寄稿 原田 理 フランス料理シェフ ( ホテル軽井沢1130 )
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507250515326 ■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507282121382 ■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508021120200 ■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508131026364 ■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201508272156474 ■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509051733346 ■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509112251105 ■嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509202123420 ■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201510212109123 ■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ)
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201601222232375 ■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603031409404 ■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603172259524 ■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604300026316 ■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201607061239203 ■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609142355513 ■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ)
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201709121148442 ■「嬬恋村のフランス料理」22 原木ハモンセラーノで生ハム生活 原田理(フランス料理シェフ)
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