現在、参院で議論されている安保関連法案。その中に国連平和維持活動の任務の拡大が盛り込まれている。たとえば自衛隊員は戦闘の前か、後なら危険地域でも駆けつけてNGOのスタッフなどの警護活動(駆けつけ警護)ができるようになる。その後に戦闘に巻き込まれたとしても、正当防衛か緊急避難の適用で武器を使用して戦闘することが可能となる。
国連平和維持活動で自衛隊の戦闘が最初に行われる可能性があるのが南スーダンだ。もともとは建国の手助けのために自衛隊も参加し、施設づくりなどに携わってきた。ところが、2013年から内戦の機運が高まり、危険度が高まった。しかし、首都のジュバに駐留する約350人の自衛隊は停戦合意を受けた国連ミッションとして、戦闘地域ではないとして駐留を続けている。安保関連法案が通れば自衛隊の任務は拡大するため、危険も高まるうえ、来年2月まで任務期間が延長されたばかりだ。
実は南スーダンのPKOではすでに他国のPKO派遣隊員の悲劇が起きていた。南スーダンに駐留しているインド軍のケースだ。インド軍は少なくとも過去に二回、戦闘に巻き込まれて士官や兵士が死亡している。インドは8000人以上のPKO人員を世界各地に派遣しているPKO大国だが、戦後のインドPKOの歴史においても最大級の悲劇の舞台となったのが南スーダンだ。
■インド軍の南スーダンPKO部隊 〜約2200人が参加〜
2011年7月9日、米国の強力な後押しでスーダンの南部10州が独立した。この南スーダンの独立に際し、世界で一番新しい国の「国造り」を支援するため、2011(平成23)年7月8日に採択された国連安保理決議第1996号で設立されたのが国連南スーダン派遣団(UNMISS)である。現在、50カ国以上が兵員を派遣している。日本の自衛隊もこれに参加している。インド軍は歩兵・医療部隊、工兵中隊を派遣しているが、その数は約2200人と、UNMISSでも最大級の兵力の1つ。派遣地域は東部のジョングレイ州と、北部の都市マラカルだ。
■インド軍の悲劇 最初は非戦闘地域だったが・・・
悲劇1
悲劇が起きたのは2013年、4月、ジョングレイ州でのことだ。インドでの報道(The Times of India,2013年4月9日付) によると、午前8時半。インド軍が国連の車両5台を護衛してGumruk から Borへ移動する途中、反政府軍の襲撃にあった。インド軍はこの時、2つの部隊が護衛に携わっていた。6 Mahar Regiment と 9 Mechanized Infantryだ。総勢で2人のインド人士官と35人のインド人兵士だった。証言によると、攻撃は銃とRPGと呼ばれる対戦車擲弾によるもの。インド軍も応戦したが、戦闘は1時間近く続いた。この襲撃で士官を含むインド軍の5人が死亡、5人が負傷した。死者の名前は次の通り。 (Lt-Col )Mahipal Singh, Naik Subedar Shiv Kumar Pal, Havildars Hira Lal 、Bharat Sasmal 、 sepoy Nand Kishore.親族がそれぞれ7万ドルの弔慰金を得ることとなった。さらにこの時は兵士だけでなく、国連の民間人7人も犠牲となったとされる。インド兵のPKO史で死者はおよそ140人に上るが、南スーダンの事件は大きな惨劇の1つとなった。
悲劇2
南スーダンの内戦は南スーダンの独立後に激化した国内多数派のディンカ出身のサルバ・キール(Salva Kiir)大統領派と、少数部族ヌエル出身のリヤク・マシャール(Riek Machar)副大統領派の戦いである。2013年7月に起きた大統領による副大統領の解任を機に戦闘が激化し、同年12月には内戦に突入した。この時、再びインド兵3名が襲撃されて死亡している。この時はUNMISSの基地が標的にされたという。12月20日付のAFPは次のように伝えている。
「インドのアショク・ムケルジ(Asoke Mukerji)国連大使によると、死亡したインド兵3人は、東部ジョングレイ(Jonglei)州アコボ(Akobo)のUNMISS基地がヌエル(Nuer)人の若者らの襲撃を受けた際に「標的とされ、殺害された」という。
襲撃前、同基地にはディンカ(Dinka)人の民間人30人以上が避難していた。ファルハン・ハク(Farhan Haq)国連副報道官は他にも死者が出た可能性に言及し、ディンカ人が無事かどうかは不明だと述べた。同基地を拠点としていたPKO要員約40人と国連警察顧問6人は、安全な場所へ移動した。」
■なぜインド軍PKO兵士が標的に?
AFPの記事では国連ミッションで介入していたインド兵が標的にされたと報じられている。記事に書かれているのが正しければ民族紛争が絡む内戦によって、PKO基地に政府側の部族が逃げ込んできた。それをインド軍がかくまっていた模様だ。そして、そこに対立部族がやってきて、匿っている側のインド人兵士を狙ったらしい。それはいったいどのような事態だったのだろうか。自衛隊にとっても、今後は他人事では済まされないだろう。自衛隊の基地でも避難民が駆け込んできたケースはあったからだ。2013年12月、内戦が始まったときのことだ。将来、自衛隊が武力行使を行えば、部族紛争に巻き込まれる危険もはるかに高まるだろうことを予感させる報道である。
その1ヶ月後の2014年1月に内戦は停戦合意となった。しかし、UNMISSはこの後にさらに国連決議を経て、ミッションを継続させている。だが、実際には戦闘が繰り返されているという。戦争をしない自衛隊という認識と、普通の戦う軍隊という認識。現地でどちらと受け止められるか。そこには大きな違いがあるのではなかろうか。
村上良太
※南スーダン:自衛隊PKO、駆けつけ警護追加 政府検討(毎日)
http://mainichi.jp/select/news/20150729k0000m010182000c.html 「南スーダンでは2013年12月、政府と反政府勢力の戦闘が始まり、避難民が自衛隊の宿営地がある国連施設内になだれ込むなど混乱が発生。避難民支援を行うNGOなどの活動は現在も危険にさらされているとされ、政府内で「将来的に自衛隊が駆けつけ警護を求められる可能性がある」との指摘が出ていた。」
※’The Times of India' の記事。 Five Indian peacekeepers killed in South Sudan ambush 南スーダン、待ち伏せ攻撃でインド兵が5人死亡
http://timesofindia.indiatimes.com/india/Five-Indian-peacekeepers-killed-in-South-Sudan-ambush/articleshow/19463496.cms
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