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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2015年11月09日23時54分掲載
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文化
【核を詠う】(番外篇・戦争法) “暑い夏”の新聞歌壇に戦争法詠を読む(6) 「東京歌壇」(7〜9月) 「切れ目なく人波つづき国会を呑みこむ人の海となりたり」 山崎芳彦
今回は東京新聞の「東京歌壇」(7〜9月)の作品から戦争法にかかわる歌として筆者が読んだ短歌を記録させていただくが、その前に同紙が今年一月一日から毎日、朝刊一面上段の左に掲載している画期的というべき「平和の俳句」(中日新聞、北陸中日新聞、中日新聞inしずおかとの共同企画、募集作品から金子兜太・いとうせいこう両氏が選)が、当初計画の戦後70年の今年一年間から、来年以降も継続することになったことを知った喜びを記しておきたい。多くの読者からの心からの要望、意見に応えての継続であり、選者の金子兜太、いとうせいこう両氏の希望でもあるという。このことは、「平和」を守ろう、もっと平和な社会、世界をと願う人々に敵対し、逆行する危険な政治が、いままさに行われている中での快挙であり、平和を求める様々な運動への励まし、共同の意思、ジャーナリズムの見事な立ち姿を示すものであると感動している。戦争法に反対する運動の中で力強く掲げられた金子兜太さんの筆になるプラカード、ポスター「アベ政治を許さない」は今後も掲げ続けられるのだと思う。
筆者は、東京新聞のTOKYO Webで、昨年8月15日に行われた「終戦記念日対談 金子兜太×いとうせいこう」を、あまりにも遅れたいまになって読んでいるのだが、まことに貴重なその内容に学ばされ、強く共感させられ、改めて、筆者がこの「核を詠う」連載で短歌作品を読み、記録することを、まことに行き届かないことだらけだが続けている、さらに続けていくために、どのように立っていなければならないか、を考えさせられている。
この対談は、とても刺激的で、読む者に強く大切なことを伝えているのだが、ここて要約できる力を筆者は持たない。未読の方には、是非とも原文に当たっていただきたい。いま私たちが立っている現実の危うさと、これから向かってはならない「戦前と戦争」への逆行に警鐘を鳴らす内容で、金子さんが自らの体験を踏まえて俳句の歴史や戦争の実態、いまの自らの生きようについて語り、いとうさんが自身の作家としての活動も踏まえて問いかけ、また自らの時代認識を語る、そして、その上で次のようなことに行きついたのが、「平和の俳句」企画につながっていった。
その最後の二人のやり取りを記しておく。その中見出しは「僕たち選者で〈戦後俳句〉選ばせて」で、この対談を企画した記者は、そこまでの対談も踏まえて、「金子さんは、トラック島で終戦を迎え、島を去るとき〈水脈(みお)の果て炎天の墓標を置きて去る〉と詠んだ。自分は一度死んだようなもの。生きて帰るのだから、これからは戦争のない世の中のためにできるだけのことをしようと決意した。」と書いている。
金子 今の人に想像できないような無残な死に方をしていった人のこと を思った時に、報いなきゃならないと。こっちも若いですから、よけい身に染みた。私が学生のころ、俳句を始めたのは、出沢三太という無頼で非常に面白い人間がやっていたから。その人が俺を連れてった句会の中心に高等学校の英語の先生がいた。水戸っていうところは、聯隊もあって軍国臭ぷんぷんなんですけれどね、お二人とも全く無視して、軍人が来ても頭下げない。俳句はそういう自由人が作るもんだと思い込んだんです。兵隊行くまで、自由人でありたい、ありたいと。ところが、戦争に行って、目の前で手が吹っ飛んだり背中に穴が開いて死んでいく連中を見たり、いかついやつがだんだん痩せ細って仏様みたいに死んで行くのを見て、いかなる時代でもリベラルな人間でありたいと考えていた自分がいかに甘いかということを痛感した。自己反省、自己痛打が私にそういう句を作らせたと同時に、その後の生き方を支配した。年取ってもその句が抜けません。自分を緩めることができない。それぐらいの痛烈な体験でした。いまの政治家諸公は、少なくとも俺のような戦争への自虐を感じないのだろうか。
いとう 東京新聞でぜひ、何俳句と呼ぶか分からないけれども、募集してほしい。あえて戦後俳句と言っていいかもしれません。僕たち選者になって、戦争体験のことも体験していないけれど自分たちは戦争体験をどういうふうに考えるかということも俳句にしてもらって選んで、ばあーっと載せたらいいじゃないですか。それで大賞、準大賞があって、その中から時代の代表作が生まれてくるってことが文学とかジャーナリズムを含めた、やっぱり言葉の力だから。
金子 二人でやるとなると、ちょっと面白いと思いますよ。変な奴が二人でやっているっていうのは。
対談後記として、「戦後」を続けていく決意、と題する社会部長・瀬口晴義氏の文章がある。 「(略)多くの軍属が餓死したトラック島を去る時、金子さんは彼等の死に報いることを誓う。復職した日本銀行では出世を求めず、俳句一筋の人生を送った俳壇の重鎮は『体験を語ることが最後の仕事だと思っている』と旧知のいとうさんとの対談を快く引き受けてくださった。/〈梅雨空に『九条守れ』の女性デモ〉の句が、さいたま市の公民館の月報に掲載されなかった問題(さいたま市三橋公民館が月報に、この俳句を、世論を二分するテーマで公民館の月報にはそぐわないとして掲載を拒否した・筆者注)は、戦前の新興俳句運動の弾圧の歴史と重なることが金子さんの話で理解できた。共通する時代の空気は『自粛』だろうか。どきりとしたのは『いまの自分を支えているのは、戦後恥ずかしくないように発言していかなければならないという思いです』という、いとうさんの言葉だ。いつまでも『戦後』を続けることがジャーナリズムの使命と私は考えているが、いとうさんはその先まで射程に入れていた。/金子さんから〈原爆忌被曝(ひばく)福島よ生きよ〉の句が届いた。『戦後俳句』を募集したらどうか、という宿題もお二人からいただいている。『戦後』をいつまでも続けてゆくという決意と願いのこもった句。私も挑戦してみたい。」
こうして「平和の俳句」の企画が生まれ、おそらく一年で数万にも及ぶ応募作品があるのではないかともいわれるこの「平和俳句運動」ともいうべき事業が、中日・東京新聞の枠をも超えて、さまざまな場でこれからも続いていくことを思いつつ、筆者は短歌作品を読み続けたいと思う。 「東京歌壇」の選者は佐佐木幸綱、岡野弘彦の両氏で、選者を指定した応募作品からそれぞれ10首の入選作が毎週日曜日朝刊に掲載される。
▼「東京歌壇」(7〜9月) ◇7月5日◇ アメリカを説いて回れる翁長知事せめて短歌でわれは支持せむ (佐佐木幸綱選 茨城県鹿嶋市・加津牟根夫)
◇7月12日◇ 兄二人征きて還らず長兄の妻と家継ぎ逝きしわが友 (岡野弘彦選 埼玉県上尾市・大平丈一)
前線の兵士のすがた赤裸々に描きてかなし「麦と兵隊」 (岡野選 埼玉県桶川市・木下英雄)
◇7月19日◇ 九条は誇りならずや紫陽花のさかりの花を打ちやまぬ雨 (岡野選 埼玉県川口市・高橋まさお)
夏雲のひろがる空にまぼろしのごとくB29の爆音ひびく (岡野選 千葉県成田市・神郡一成)
◇7月26日◇ 戦場に弟ふたり失ひし父はかなしみを歌に遺せり (岡野選 群馬県高崎市・野口啓子)
憲法は国のOS ウイルスが乗っとる危機を学者は憂う (佐佐木選 東京都練馬区・吉竹 純)
◇8月2日◇ 口おもく雪国に住む人すらや平和の危機に拳つきあぐ (岡野選 東京都・村山 晃)
◇8月9日◇ 終戦の年生れの我れら古稀迎へそぞろ気になる国の行く末 (佐佐木選 群馬県高崎市・野口啓子)
いま声をあげねばと集ふ議事堂にわれも小さき拳をあぐる (岡野選 東京都町田市・青戸紫枝)
とこしへの平和を願ひ病みながら寂聴さんはデモに加はる (岡野選 横浜市・小池四郎)
◇8月16日◇ 平和の俳句真っ先に読む新聞の休刊日けふは何となく寂し (佐佐木選 栃木県日光市・山田和令)
法案の可決ののちに映りたる政治家の顔この顔を見よ (佐佐木選 千葉市・石橋佳の子)
日本国憲法軽視の風潮は患者会にも蔓延して居り (佐佐木選 埼玉県富士見市・蛭根考人)
◇8月23日◇ 二百三十万の戦死者の半(なか)ばは餓死と聞くお国のために戦いし果て (岡野選 東京都世田谷区・野上 卓)
◇8月30日◇ 浦上の聖母マリア像を拝みゐるケロイドの頬の老いたる女性 (岡野選 東京都足立区・菅原昭子)
◇9月6日◇ 「堪へ難きを堪へ忍び難きを忍び」玉音は決戦を期する軍部を諭す (岡野選 千葉県八千代市・児玉将孝)
玉音を校庭で聴きし一年生戦禍なき世を喜寿にいたれり (岡野選 千葉県佐倉市・北 長生)
◇9月13日◇ 子を死なしめ母らたがひに向かひしと集団自決のさまを語れり (岡野選 茨城県土浦市・立谷正男)
いくさ厭(いと)ひ舟傾(かたむ)けて去りゆきし神をしのべり出雲の岬 (岡野選 東京都町田市・青戸紫枝)
北アルプスへ向かう前夜の国会前「戦争ノー」の声に加わる (佐佐木選 横浜市・竹田春雄)
◇9月20日◇ ふるさとの土を夢みてジャングルの土となりゆく骨はかなしき (岡野選 神奈川県座間市・遠藤やす子)
法案の採決伝わる国会前で南無妙法蓮華経が響く (佐佐木選 東京都葛飾区・白倉眞引)
冷製のパスタゆつくり食みしのち安保法案に熱帯ぶる舌 (佐佐木選 千葉市・石橋佳の子)
◇9月27日◇ 語りたき死者は語れず語るべく残りし人も老いて去りゆく (岡野選 世田谷区・野上 卓)
味噌ゴーヤの惣菜を家族につくり置き妻は雨中のデモに参ずる (佐佐木選 埼玉県草加市・神保公一)
切れ目なく人波つづき国会を呑みこむ人の海となりたり (佐佐木選 東京都練馬区・吉竹 純)
次回も新聞歌壇の戦争法詠を読む。 (つづく)
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