貧しくも誇り高い青年と人生に戸惑う上流階級の娘が偶然にも、豪華客船「タイタニック」に乗り合わせ、恋に落ち、結ばれるが、船は処女航海で氷山と接触し沈没する。年老いた娘は人生の最後まで秘めていた秘密を打ち明け、最後に安らかに眠るストーリー。
封切ってすぐには大ヒットしなかったのだが、結果は当時史上最高の興行収入になってしまった。ネットでの情報交換が現代ほど頻繁でなかった時代のこと、口コミロングランでじわじわと感動を引き寄せ、史上最高まで延びたという見方もおおいに出来る。アカデミー賞でも11部門に輝き、主題歌を歌ったセリーヌ・ディオンの知名度も飛躍的に上がった。
1997年にジェームス・キャメロンが2億8千600万ドルを投入して、3時間もあるこの映画を完成させたとき、世の映画人の前評は「史上最大の赤字映画」にリストアップされるだろう、というものだったように思う。 「ターミネーター2」の大ヒットの後に、1分1億円をかけた映画「トゥルーライズ」を大ヒットさせたキャメロンが調子こいて今度こそやらかしてしまった、と。しかし、である。
いつの時代も不変のドラマというものがあり、そして人類の中に脈々と流れるそのドラマこそ、監督 ジェームズ・キャメロンの最も得意とするところだ。エイリアン2で最後まで残って戦うシガニー・ウィーバーやターミネーター2で息子を守るために奮闘するリンダ・ハミルトンなど彼の映画を著すときのキーワードのひとつは「母性」つまり強い女性像なのだ。
ドラマ要素の強い作品では、ラストシーンに向かうその過程を追った観客が結果に至り、感情を揺り動かされるものだが、この作品は最後に船が必ず沈むという結果を観客全員が映画館に入る前から知っている。そこを彼の映画の特徴である「母性」によってどう魅せるか、それがストーリーテラーである監督キャメロンの腕の見せ所というものだ。
母性像、それは世代性別を越えて多くの観客が共感できるポイントというものだろう。映画冒頭では母の言いなりで閉塞感の権化のようであったウィンスレット演じるローズが、デカプリオ扮するジャックと出会い、貧しくも自由に生きる彼に触発され、次第に自分本来の姿を発現させながら一人の女性として目覚めてゆく様は世の女性の大きな共感を得たように思う。ただ反抗するだけが唯一の手段だったローズが、自分の意思で人生を切り開き、強くたくましくなりゆく過程を眺める観客も、そこにある恋愛という感情をからめて同じ気持ちになることだろう。エピソードとしては象徴的な馬の乗り方の話が一番わかりやすいかもしれない。ジャックから聞いたように、女性らしく横に座るのではなく、誇らしげに馬に跨る写真を飾っているローズが写るラストこそ、その後彼女が人生を彼女の意志で自由に謳歌した証のようなものだ。いつになっても感動を呼ぶドラマとはこういったものだと心底思う。やはり人間こんなシーンには弱いものだ。
腹をくくれば女はこんなに強いんだぞ、とでも言われているようなシーンがこれでもかと出てくるが、そのなかでも100歳を越えたローズがここまで誰にも話さなかったくだりは、強いを越えて怖いと思ったものだ。何を持っているかわからないから、つくづく女は恐ろしく、偉大だ。
単なるドラマでなく、史実の織り成す重厚なスペクタクルに包まれた、このひとりの女性の物語はまさに当時一番世を泣かせた映画であることは間違いないだろう。主演のケイト・ウィンスレットが最終的にヒロインに抜擢された理由のひとつが、たとえ船が沈んでも、本人は沈まないと思える強さを体現した説得力のある体型の持ち主だったから、と言うのも監督の弁である。多くの共感を深く得たのは、映画技術のすべてを投入したような豪華な映像や監督のこだわるリアリティでなく、この一貫した母性に対する共感の部分なのかも知れない。
これだけの映画だから、見ていないという方も少ないと思うが、もし、これから始めてみるという方にはぜひともキャメロン監督の努力の結晶である3D版をお勧めしたい。ただでさえリアルな(CG映像ではなく)ドラマがさらに説得力を持つこと間違いなしである。
■「タイタニック」(1997年) アメリカ映画 ジェームズ キャメロン監督作品 出演 レオナルド・デカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼイン、キャシー・ベイツ他
20世紀初頭に起きた豪華客船「タイタニック」の処女航海沈没事件を基に、ハリウッド屈指のヒットメーカーの一人 ジェームズ キャメロンが莫大な予算をかけて作った超大作。3時間という工業的に不利な条件で当時過去最高の興行記録を打ち立てた。VHS、レーザーディスク、DVD、ブルーレイ、3Dブルーレイとフォーマットの変遷の中、都度再販されている数少ない映画。 あまりに有名になった音楽のことも忘れられない。音楽は先だって事故死したジェームス・ホーナー。キャメロンの「エイリアン2」で音楽をコンポーズしたのだが、そのあまりの完ぺき主義ぶりに2度と組まないと心に決めた彼を動かしたのもまた、キャメロン本人だった。大胆さが特徴のこの映画音楽家が書いたスコアは、アイリッシュやケルトの要素を感じさせながら、超大作にふさわしい壮大なサウンドを聞かせてくれる。この映画のラストの余韻には音楽だけでなく、美しい声の入った主題歌が必要だとの判断のもと、テーマソングをセリーヌ ディオンが歌い、大作の最後にふさわしい大輪の花を咲かせている。
寄稿 原田理
■Cinema à la maison 「シネマ アラメゾン」 愛しの「トゥルーロマンス」 〜タランティーノの知られざる原風景〜 原田理
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