9月に国会で可決した安保法制は3月末までに施行される見通しと報じられました。折しも、欧米諸国は「テロとの戦い」を旗印に、世界大戦をも辞さない事態に突入しています。昨日はロシア戦闘機がシリアとトルコとの国境付近でトルコ軍に撃墜され、ロシアとトルコの間で緊張が高まっています。そのロシアは米仏と連携してイスラム国を粉砕する方針です。一方、スンニ派のイスラム国をスンニ派のトルコやサウジアラビアが裏で支援してきたと報じられています。シーア派とスンニ派というイスラム教の中での宗派の争いに西欧諸国が利害関係をもって絡み合い、第一次世界大戦の時のような危険な状況が生まれています。
このような状況で、イスラム国の勢力に外国在住の日本人が襲われたり、日本が襲撃されたり、あるいは日本と深くかかわる外国が襲撃されたりした場合、「存立危機事態」や「重要影響事態」といった曖昧な言葉の枠組みで、自衛隊が外国に出動して戦闘することを可能にしたのが安保法制です。実際にイスラム国が米主導の反イスラム国陣営に参加したことをもって日本をテロの標的とする声明を出していると報じられています。この場合、米ロ仏などとの集団的自衛権の行使も可能性としてはあり、東アジアでの仮想敵国群との戦闘よりはよほど安倍政権としては国民の理解を得やすく、安保法の適用をかけやすい状況に至っています。
しかし、この安保法制は憲法学者の大多数が廃案を求め、反対意見を掲げたように違憲の疑いの濃厚な法律です。日本国憲法98条は憲法に反する一切の法令に従う必要がないことを定めています。自衛隊の派遣を前にして日本国民の中で違憲かどうかをめぐって、おそらくさらなる議論の高まりがあると予想されます。
「第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」
「第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
「第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」
今回の安保法制の国会での強行採決で明らかになったことは国会の多数派政党が内閣法制局長官のポストに自分の主張を受け入れる人材を据えれば違憲の疑いがあっても法律自体は制定でき施行できる、ということです。違憲な法律でも内閣と法制局長官が従来の憲法解釈を変えれば容易に立法でき、それを覆すには施行後に市民が裁判を起こして勝訴しなくてはなりません。これでは将来、数を頼りにどんな違憲と疑われる法律でも作れる可能性が出るため、悪しき前例となりました。戦争という日本国民の運命を左右する重大事項を時の政権の解釈1つで捻じ曲げてしまうことができ、それに誰も抗することができない事態に至っています。
ドイツやフランスなどの国々では法律が施行される前に憲法裁判所で違憲でないか、チェックが行われます。この審査は国会で多数派を握る政党が託した人物ではなく、政治から独立した審査官や法律家らによるものでなくてはなりません。政治から独立した違憲審査が法制定の段階で必要となっているのは内閣法制局長官が安倍政権の意を汲んでこれまでの歴代の内閣法制局の解釈を一夜にして覆したことにあります。しかし、その新たな解釈については憲法学者の9割以上が違憲であるとみなしています。このような事態は戦後これまでなかった新しい事態です。
環太平洋経済連携協定も内閣・官僚主導の秘密交渉でどんな協定なのか、途中経過はほとんど国民に知らされることもないままで進められてきました。内閣府が民意を無視して好き放題に法律を制定したり、条約の交渉を進めたりと、国民主権が脅かされ放題になっています。さらに来年3月末までに安保法が施行されると、すでに施行されている特定秘密保護法と並んで、明日にも起きうる「テロとの戦い」がどのような事態なのかも国民が実情を知ることが難しくなることが予想されます。安保法は政府がテレビのニュース内容に介入できる余地を与えています。
近い将来、改憲してでも立法段階で違憲立法審査を実現する憲法裁判所を設置するか、あるいは内閣法制局を独立した機関がチェックする制度を設けるか(こちらのほうが容易)、早急にこのことを実現させなければ機能麻痺になった三権分立を復旧することができなくなります。このことは独裁政治を防ぐために必要な対処に思われます。
■「1984年」Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=Z4rBDUJTnNU 戦争が始まると、安保法によって政府がメディアをさらに統制できるようになる。
■選挙の問題点 〜民意をもっと反映する選挙制度へ〜小選挙区制の見直し、会期末に全法案に対する国民投票(チェック制度)、若者の政治参加
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312070313106
■選挙について 死に票をうまないために
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201410070003572
■自民党憲法改正案「第十三条 全て国民は、個人として尊重される」(現行) ⇒「第十三条 全て国民は、人として尊重される」(改正案) 個人と人の違いとは?
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509172355524
■ジョン・ロック著 「統治二論」〜政治学屈指の古典〜
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201312221117340
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