12月6日の日曜に行われたフランス地方選で極右政党の国民戦線が30%の得票率を得て、第一位に浮上しています。昨年の欧州議員選挙に続いて、トップの位置に国民戦線が浮上しており、2010年の選挙で得た得票率11.4%に比べると、わずか5年で約3倍に伸びたことになります。ちなみに社会党は23%、中道右派・共和党連合は27%の得票率です。( ※共和党はサルコジ氏を党首にする、かつての国民運動連合=UMP)
http://www.lefigaro.fr/elections/regionales-2015/2015/12/07/35002-20151207ARTFIG00012-le-fn-en-force-la-droite-a-la-peine-le-ps-au-plus-bas.php Figaroなどのフランスメディアの情報を総合すると、今回、フランス国内の13地域圏の中、国民戦線が第一党になっているのは6つの地域圏にのぼり、ほぼ半数を占めます。このことはフランス国民に〜左右問わず〜大きな衝撃を与えているようです。細かく見ていくと、明らかにある傾向があります。それは南部地中海沿岸の地域圏やドイツなどとの東隣の国々と国境を接する地域圏で国民戦線が第一党になっていることです。これは言うまでもなく、不法移民が流入する時のフランスの入口にあたる地域です。
とくに今回最大の得票率を得たフランス北東部のNord-Pas-de-Calaisはテロ犯人の出身国であるベルギーとの国境地帯にあたります。さらに、南部地中海岸もまた、地中海を通ってフランスに入ろうとする不法移民が目指してくる地域です。国民戦線は欧州連合そのものに反対しており、欧州域内の人の移動を自由化したシェンゲン協定にも反対の立場。国境を閉鎖して移民の流入を止めることを求めています。
こうした国境地域で国民戦線の得票率が40%近くなっていることはフランス人の中に、イスラム国などの戦闘員や共和国の政治原理と反する思想を持った原理主義者が入ってくるのを阻止したいという思いが反映していると考えられます。実際、国民戦線はモスクがテロ組織の拠点となり得るとして、モスク建設に反対をしてきましたが、今年の2回のテロ事件を受けて与党の社会党自身が宗教指導者がフランスへの憎悪を掻き立てているモスクの閉鎖に踏み切っています。国民戦線党首のマリーヌ・ルペン氏としては今まで警告してきたことが現実になったと言っています。
しかし、同時に宗教のことだけでなく、国民戦線浮上の背景には未だに10%を切れない失業率の高さや貧困の拡大があります。2012年の大統領選で社会党のオランド大統領を生んだ背景には経済状況を何とかして欲しい、暮らしを何とかして欲しいという思いがあったはずですが、なかなか経済は上向くことがなく、さらにデフレスパイラルの危機も漂っています。
・欧州統計 (失業率)
http://ec.europa.eu/eurostat/tgm/table.do?tab=table&init=1&language=fr&pcode=teilm020&plugin=1
国民戦線は2011年に創設者のジャン=マリー・ルペン氏から三女のマリーヌ・ルペン氏に党首が変わって以来、それまでの激しいイスラム排外主義の言動をやめて、ソフトなイメージに転じてきています。2013年には「国民戦線は極右ではない。極右と呼んだメディアは告訴する」と記者会見で語り、「極右」とはなんぞや、とその定義を問う論争すら起こりました。リーマンショック以来、フランスの農民は金融危機や農産物価格の低迷を受けて自殺する人が増加していますが、国民戦線は農民支援を歌っています。こうしてグローバリズムに反対する人々の声を国民戦線が吸収しているようです。かつては社会党に流れていたこれら反グローバリズムの人々の票がかなり国民戦線に流れていると言われています。このことは社会党がグローバル経済が国内に与える負の影響に対して、適切な経済政策が取れていないということなのかもしれません。
フランスの社会学者Michel Fize氏は「極右政党の国民戦線をキワモノ扱いしているだけでは何も解決しない」とハフィントンポストに書いています。必要なことは今の状況を変える政策を打ち出すことだとしています。 「いまフランスには(人口6600万人中)、失業者が500万人、貧困者が800万人、数百万人が不安定雇用で、毎年10万人の若者が学業から離脱している」と指摘しています。
http://www.huffingtonpost.fr/michel-fize/comment-contrarier-lirresistible-ascension-du-fn_b_8739020.html
■欧州各地で農民の自殺が増加 農産物価格の低迷に絶望 需給の変動が直撃 グローバリズムが農民を断崖に追い詰める
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511241859452
■マルセイユで起きたことから 日本のメディアが見落としているフランスで右翼政党が台頭する理由
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201405301027125
■ジョゼ・ボベ欧州議会議員がカナダ産ホルモン肥育牛の欧州への輸入に警告
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310300231483
■フランス農民の知られざる悲劇 2日に1人自殺 金融危機が牛の酪農家にしわ寄せ
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310120630576
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