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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年02月07日12時54分掲載
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堀江敏幸著「子午線を求めて」
仏文学者で作家の堀江敏幸氏によるフランス文学界のコラム集「子午線を求めて」が出版されたのは2000年のことでした。その頃、筆者はフランス語の勉強を再開した頃で、よき読書ガイドと思いハードカバーで買って読んだことを記憶しています。
堀江氏はサルトルとか、ジッドとか、モーリアックのような文豪ではなく、ロマンノワールなどのフランス文学史にどこまで残るか未知数の作家群に惹かれるとして、本書の中でもそうした作家が中心的に紹介されています。とくに郊外に焦点が絞られているため、移民だったり、貧困層だったりといった庶民の暮らしがそこで書き込まれているのです。今、フランスで大きな問題となっているイスラム系移民との軋轢も、極右政党の台頭も、本書の中で出てくる事柄がその後に大きく展開していった事柄ばかりです。堀江氏が注目していた「郊外」はやがてフランス政治の中心を揺るがすことにつながっていくのです。
「ここでふたたびポラール系作家エルヴェ・プリュドンの「氷野」を召喚してみよう。パリ近郊に設定された架空の郊外団地を「流刑にあったアザラシの動物園」と見做し、出口のない徹底して不毛な空気を描ききったプリュドンの小説の第一章は、「郊外、どこでもない場所」と題されていた。どこでもない場所とは、あらゆる無理解と「立方体におさまったこの暴力のすべて」が「免訴」される空間でもある。1980年代初頭、この小説はポラールの常套を踏みつつ、例外的といえる強固な文体をそなえた作品として郊外のクリシェを作り上げるのに貢献したが、「どこでもない」光景は、いまや活字メディアを超えて映像の分野にまで浸透しつつある。その最良の事例のひとつが、マチュー・カソヴィッツの「憎しみ」(1995)だ。」
ディディエ・デナンクス、ジャン・エシュノーズ、マルセル・レヴィ、ファリッド・アイシューヌ、ピエール・シニャック、ティエリー・ジョンケなど。今綴った作家の中には未だに筆者の未読の作家もいます。本書で紹介されているフランス作家の中には、おそらくは日本で未だ訳されていない作家が少なくないと思われます。それでも、というより、むしろだからと言うべきか、年々翻訳が狭まっていきつつある日本の中で貴重な資料となりつつあります。
「非行と軽犯罪に染まったロマン・ノワールの素材を提供するのは、すでに触れたように、落ちこぼれた移民労働者二世か、低所得ゆえに外国人労働者中心のコンクリート住宅にぶちこまれ、そのまま身動きのとれなくなった下層フランス人の子どもたちである。建築家が知恵をしぼった街区はスプレーによる破天荒な落書きで汚され、エントランスは小便の異臭に満ち、郵便受けは残らず壊され、唯一の娯楽施設ともいえるスーパーマーケットでは万引きが横行し、頻発するあまりもう誰の注意もひかなくなっている。大人たちはおなじ建物のおなじ階に住んでいながら顔をあわせず、死者が出ても気づきさえしない。」
本書でも紹介されている社会派のノワール小説作家として知られるディディエ・デナンクス氏はパリの北にあるオーベルヴィリエという郊外の町で暮らしています。この街はイスラム系の住民が多数暮らしている街です。また、家賃が安いこともあって、家賃高騰のパリにアトリエが構えられなくなった芸術家たちが、この町に拠点を移す傾向もあります。デナンクス氏の代表作とも言える「記憶のための殺人」はアルジェリア独立戦争時代のアルジェリア人や反戦活動家の虐殺事件と、第二次大戦中のナチス占領下に起きたユダヤ人虐殺事件を結びつけた傑作として知られており、デナンクス氏は歴史的な題材をミステリ仕立てにして提示することに長けています。
かつては外国文学を紹介する文芸誌もありましたが、現在は衰退の一途をたどっているようです。大学で外国文学を講じている方々はぜひ、こうした本を世に出して欲しいと思うものです。大学を市民のものとして発展させるためには外側に向けて情報を発信することも大切です。
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