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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年02月09日10時54分掲載
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国際
米大統領予備選は大陸横断ウルトラクイズに似ていた 未だ候補者乱立の共和党
今年はアメリカの大統領選挙の年。民主党、共和党それぞれの党の大統領候補選出のための予備選挙はアイオワ州から始まった。アイオワ州はいつも最初の予備選が行われる場所になっており、民主党はヒラリー・クリントン候補とバーニー・サンダース候補がほぼ引き分け、共和党では右派のティーパーティの支援を受けるテッド・クルーズ候補が勝利した。そして、次のニューハンプシャー州でふたたび討論会を行っている。
大統領選挙の予備選の討論会は米国の一部とはいえ主要な政治家の姿がある程度うかがえて非常に興味深い。米国で何が国政上の主要なテーマになっているのかもわかるのだ。討論会を観戦したところ、民主党共和党共通するのはイスラム国対策であり、米国は地上軍を派遣すべきかどうか、という点だ。民主党のバーニー・サンダース候補はシリアやイラクで戦うのは周辺のイスラム諸国に任せるべきであって、米国が行くべきではない、という考え方だ。米国はそれらのイスラム諸国を支援するに止めよ、と。一方、ヒラリー・クリントン候補は基本的に作戦遂行ができる特殊部隊を派遣する必要はあるが、地上軍は送る必要はない、としている。とはいえそれは状況次第でもある印象だ。
一方、共和党候補の討論会では基本的に、イスラム国を掃討せよ、という意見が主流になっていた。空爆が中心かもしれないが、地上軍の派遣を否定したわけではないようだ。 興味深かったのはそもそもこうした状況のもとをたどればブッシュ政権が始めたイラク戦争に遡り、それは共和党の戦争ということになるはずだが、共和党候補のトップをなお走っているドナルド・トランプ候補は「俺はそもそもイラク戦争には反対だったがね」と言った。トランプ候補はライバル陣営から「隠れリベラル」という烙印を押されており、単純なタカ派ではないように思われる。実際、キリスト教原理主義のテッド・クルーズ候補と並ぶと、リベラル派にすら感じられるから不思議だ。
先週土曜のニューハンプシャー州での共和党討論会に参加したのは7人の候補者だった。Donald Trump(実業家), Ted Cruz(テキサス州選出上院議員), Marco Rubio(フロリダ州選出上院議員), Ben Carson(外科医), Jeb Bush(元フロリダ州知事), Chris Christie(ニュージャージー州知事) ,John Kasich(ジョン・ケーシック:オハイオ州知事) である。その他の候補者たちはアイオワ州での結果が芳しくなかったのを見て参加を見合わせたようだ。予備選を重ねるごとに支持率が上がる候補には献金が集まり、下がる候補からは金が逃げていく。
共和党では大統領選の本選でのライバルをヒラリー・クリントン候補と想定していた。バーニー・サンダースは勝てないと見切っている印象である。その上でヒラリー・クリントン候補の最大の弱点は外交であり、2009年にオバマ政権が発足してから国際情勢は安全になったのか、危険になったのか、と問いかける。すると誰もがリビアの惨状やイスラム国の台頭をあげ、アジアでは北朝鮮の核開発やミサイルのことを取り上げていた。また、リビアのベンガジで起きた米大使館焼き討ち事件をとりあげ、ヒラリー・クリントン候補が大統領になれば最高司令官としての職務が果たせない、と批判した。そこではヒラリー・クリントン氏が国務長官時代にEメールの公私混同を行って国家機密流出の恐れがあった事件も批判の対象に入っていた。
共和党候補は基本的にオバマ政権の8年(目下8年目)を否定する言論が中心であり、外交以外でもオバマケアと呼ばれる医療保険制度や移民法、高額所得者への累進課税、企業課税などを攻撃していた。マルコ・ルビオ候補に至ってはオバマ政権がやってきたことはすべてダメであり、これをもとに戻すことが米国の力をふたたび世界に知らしめることにつながるのだという。基本的にはタカ派のテッド・クルーズ候補とルビオ候補の方針はよく似ており、二人がともにキューバからの亡命者を親に持つことで共通しているのは興味深い。
そうしたタカ派的演説を極めてスラスラ喋って、森田健作氏のような雰囲気の若手イケメンでもあるキューバ系のルビオ候補に対して、噛み付いたのがニュージャージー州知事で大統領候補者のクリス・クリスティー氏だった。ルビオ候補が同じ節回しを何度も繰り返していると討論会の場で批判すると、会場から大きな拍手が沸いた。「ルビオは25秒の決まり文句を話しているんだ」「ほら、また始まった!」 共和党の人々の中にもルビオ候補がペラペラ喋り過ぎの印象があったのではないだろうか。クリスティー知事が言うには大統領職は重職なのだ。オバマ大統領を批判することは州知事をつとめたことがない青二才のお前にはできんのだ、と言うのである。確かに重大な判断を下す能力は討論会でよどみなくペラペラ喋れることとは異なっている。国会で弁舌できることと、行政責任者として問題解決ができることとは異質のことだという。国会議員と知事とでは担っている責任の度合いも異なる、というのである。
雑誌「ニューヨーカー」の漫画にはこうしたクリス・クリスティー候補を風刺するものが描かれたばかりだ。バーのTV画面の下でこんなセリフが交わされる。
「拷問に関してドナルド・トランプは自分のしたいことを話しているだけだが、クリス・クリスティーは実際に拷問を行っているところだよ」
クリスティー候補がライバル候補をTVの前で解剖して否定している姿を拷問風景になぞらえたのだ。アメリカでの報道ではクリスティー候補はルビオ候補だけでなく、その他のライバル候補たちも批判しているようである。
大統領予備選の討論を見ていると、候補者が横並びになって、いろんな質問に答えさせられ、支持率が下がってくると予備選からの脱落を余儀なくされる。このようなレースを全米各州で続けていくことになる。この風景は「大陸横断ウルトラクイズ」にそっくりであり、思えばあのクイズ番組は大統領予備選をモデルにしたのだろう。
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