イタリアの研究者らのグループは、ラットを用いて電磁波の発がん影響を調べたところ、雄のリンパ腫/白血病に関わる疾患、雄雌の乳腺と心臓の悪性神経鞘腫について、発生率に明らかな増加が見られたとする研究成果を発表しました。(サイエンス・メディア・センター)
これは、ラットを2つのグループに分け、出生前から自然死するまで20もしくは1000μテスラの50Hz電磁波を照射、さらに生後6週間目に0.1Gyの放射線による単一の急性被ばくをさせた結果です。
論文は2月19日付のInternational Journal of Radiation Biologyに掲載されました。
本件についての国内の専門家コメントをお送りします。
【参考リンク】 Morando Soffritti , et al, "Life-span exposure to sinusoidal-50 Hz magnetic field and acute low-dose γ radiation induce carcinogenic effects in Sprague-Dawley rats", International Journal of Radiation Biology, 92(4), 2016, Published online: 19 Feb 2016
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/09553002.2016.1144942?journalCode=irab20
――――――――――――――――――― 本堂 毅 准教授 東北大学大学院理学研究科 これまでの非電離電磁場(*1)における生物・医学的研究の多くは、細胞や動物個体に対して、その生涯の一定期間、電磁場のみを曝露させて影響を調べていました。本研究では、これとは対照的に、親の妊娠12日目から自然死に至るまで、その実験期間を通して低周波磁場を曝露させた点と、生後6週間目に0.1Gy(グレイ)のγ(ガンマ)線曝露を加えることにより、磁場の発がん促進効果を調べた点に特徴があります。また、多数のラットを用意することで、これまでの研究よりも精度の高い実験設計となっています。 現実社会で実際にある複合曝露や胎内曝露などについて、的確に動物実験に反映させることで電磁場の影響が捉えられるとする本研究が正しいならば、現実社会でのヒトを対象とした疫学研究で捉えられていた影響(小児白血病など)が、過度に単純化された条件下で行われていた従来の動物実験では捉えられなかったことが理解できます。また、そのような従来の動物実験の結果を根拠とした電磁場の安全基準が揺るがされることになります。 上に述べたように、本研究で示されている影響は、旧来の動物実験とは異なる条件で導かれているため、旧来の実験条件下で影響を見いだせなかったこととは矛盾がない一方、数理統計的な処理、バイアスの影響を防ぐための処理などに不明確な点もあります。他のグループによるデータの検証や再現実験のためにも、この研究グループによる、より詳細な報告が続くことが望まれます。
*1 電磁波、電場、磁場のうち放射線を除いたもので、電波、赤外線、可視光線、低周波磁場などが含まれる。
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