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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年05月12日23時51分掲載
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反戦・平和
『あたらしい憲法のはなし』を読む 根本行雄
現在、安倍自民党政権の暴走は「解釈改憲」ではなく、明文改憲状態を手に入れようとしている。5月3日、「憲法記念日」。安倍晋三首相には、憲法99条を繰り返し読んで、憲法を順守する義務があることを再確認してもらいたい。そして、この『あたらしい憲法のはなし』を読んで、戦後民主主義の初心のありようを味わってもらいたいものだ。私たちも、また、久しぶりに、日本国憲法の前文だけでも、じっくりと読み返しておこう。
一般の人なら、しょっちゅう、日本国憲法を読んでいる人はまずいないだろう。だから、5月3日、「憲法記念日」には、日本国憲法の前文だけでも、じっくりと読み返したものだ。3分もあれば、1回は読むことはできる。
今回は、『あたらしい憲法のはなし』(クオリ刊)を久しぶりに読んでみた。この本は、「例言」によれば、「戦後はじまった教科『社会科』用に、文部省は自ら教科書を著作し、これを教科書会社が翻刻発行」されたものである。「『あたらしい憲法のはなし』は、それらの一冊で昭和二二年八月二日発行、この年発足した新制中学校用」である。
この本には、2つの魅力がある。1つは、中学生を読者対象にしているので、とても分かりやすい文章になっていることだ。もう1つは、新しい憲法を手に入れたことへの明るい気持ちが満ち溢れていることである。この明るい気分が戦後民主主義の初心のありようであると思う。
押し付け憲法論
改憲論者の多くは、日本国憲法は連合国軍総司令部(GHQ)から押し付けられたものだということを論拠にして、憲法の改正を主張している。
「押しつける」という日本語は、本人が望まないことを他から強制されたり、受け入れるように強いられたりすることを意味する。
当時の国民は、日本国憲法に対して、どのような反応を示したのだろうか。毎日新聞(1946年5月27日)の世論調査がある。
草案の天皇制について 支持85% 反対13% 不明2%
戦争放棄の条項について 必要70% 不要28%
国民の権利義務について 支持65% 修正の主張33%
国会2院制の可否 可79% 否17%
この世論調査の結果をみると、当時の人びとは、おおむね、好意的に受け入れていたのだと推定することができる。だから、一般国民には「押し付けられた」という印象はなかったと言えるだろう。
敗戦後の日本の政治権力者たちは、ほとんど、戦争責任を追及されることがなく、国体を護持し、明治憲法を堅持しようと考えていた。ポツダム宣言の順守、履行は、明治憲法の解釈と運用によって対応することができるし、そうしようと考えていた。しかし、それは連合国軍総司令部(GHQ)によって一蹴されてしまった。そして、新しい憲法を作ることを強制されたのである。だから、当時の日本の政治権力者たちにとっては「押し付け憲法」なのである。
明治初期、自由民権運動がさかんになり、当時の政府に対して、憲法制定会議をつくって憲法をこしらえることを要求した。そして、日本各地でさまざまな憲法草案がつくられた。しかし、明治政府は1869年に「出版条例」、1875年に「新聞紙条例」、1880年に「集会条例」、1887年に「保安条例」などの言論統制と弾圧を強行し続けた。そして、憲法制定会議をつくることなく、1889年2月11日、いきなり「大日本帝国憲法」を発布し、90年11月29日に施行する。その憲法に則り、第1回の帝国議会を召集した。つまり、選挙によって選ばれた国民の代表が加わっていないところで、秘密裡に、憲法をつくり、「欽定憲法」という形で国民に押し付けたものである。
それに対して、日本国憲法は、次のように制定されている。
「1946年4月10日、男女平等の直接普通選挙により衆議院議員の総選挙が行なわれ、4月17日、新憲法草案が発表され、5月16日、第90回帝国議会が召集された。6月20日に、「憲法改正案」が提出され、明治憲法第73条の手続きによって審議が始まった。8月24日衆議院で修正可決され、10月6日貴族院でも修正可決された。10月7日貴族院からの回付案を衆議院が可決し、11月3日日本国憲法として公布された。」杉原泰雄編著『資料で読む日本国憲法』上巻 72ページ(岩波書店)
つまり、日本国憲法は「男女平等の直接普通選挙」によって選ばれた議員によって審議されているので、理論的には国民が参加していることになり、「押し付けられた」とは言えないのである。
『あたらしい憲法のはなし』には、次のように書かれている。
「これまであった憲法は、明治二十二年にできたもので、これは明治天皇がおつくりになって、国民にあたえられたものです。しかし、こんどのあたらしい憲法は、日本国民がじぶんでつくったもので、日本国民ぜんたいの意見で、自由につくられたものであります。この国民ぜんたいの意見を知るために、昭和二十一年四月十日に総選挙が行なわれ、あたらしい国民の代表がえらばれて、その人々がこの憲法をつくったのです。それで、あたらしい憲法は、国民全体でつくったということになるのです。」(5ページ)
押し付け憲法論には、さまざまな議論がある。しかし、肝心かなめのことは、「押し付けられたかどうか」という憲法の制定過程ではなく、憲法の内容だ。
大日本国憲法(明治憲法)と日本国憲法とを簡略に比較してみよう。
大日本国憲法(明治憲法)の主な特色
君主主権
天皇は神聖にして、不可侵
天皇の大権としての統帥権
兵役の義務あり
恩恵的な臣民の権利
国会は天皇の協賛機関
国会は2院制だが、貴族院は特権階級の代表
内閣については条文なし
内閣は天皇の輔弼機関
違憲立法審査権なし
日本国憲法の主な特色
国民主権
天皇は日本国と日本国民の統合の象徴
絶対的平和主義(戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認)
兵役の義務なし
基本的人権は不可侵で、永久の権利
国会は国権の最高機関、唯一の立法機関
2院制で、どちらも国民の代表
内閣については条文あり
内閣は行政の最高機関(議院内閣制)
違憲立法審査権あり
先に、毎日新聞(1946年5月27日)の世論調査の結果を紹介したように、当時の人びとは、おおむね、好意的に受け入れていたのである。
「みなさんの中には、こんどの戦争に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戦争がおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戦争をして、日本の国はどんな利益があったでしょうか。何もありません。ただ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戦争は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、戦争をしかけた国には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戦争のあとでも、もう戦争は二度とやるまいと、多くの国々ではいろいろと考えましたが、またこんな大戦争をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
そこでこんどの憲法では、日本の国が、けっして二度と戦争をしないように、二つのことをきめました。その一つは、兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戦争をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これは戦力の放棄といいます。『放棄』とは、『すててしまう』ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの国よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。」『あたらしい憲法のはなし』16〜18ページ
毎日新聞が憲法記念日を前に行った全国世論調査を行なった。2016年5月3日の記事によれば、次のような結果になっている。
「憲法9条について「改正すべきだと思わない」とする人が52%で半数を超え、「改正すべきだと思う」とした27%を大きく上回った。「憲法を改正すべきだと思うか」については「思う」「思わない」がともに42%で拮抗(きっこう)した。」
日本国憲法は近代憲法の一つである。だから、立憲主義という考え方を基本にしている。国民があらかじめ権力を縛るための「ルール」(憲法)を定めておき、権力者の暴走にストップをかけるという考え方である。今や、安倍政権によって、その立憲主義が脅かされている。
安倍晋三政権は、日銀、NHKなどを含め、権力から独立している組織にお友だちを送り込んで、その自律性を奪いとり、自分たちにとって都合のよいものにしています。
13年8月、集団的自衛権行使に賛成する官僚を内閣法制局長官に登用した。この人事は、「法の番人」の独立性を保つため長官人事に政治力を発揮しない、という歴代内閣の慣例を破ったものである。
憲法は衆参どちらかの総議員の4分の1以上の要求があれば召集せねばならない、と規定がある。しかし、安倍政権は野党が要請した臨時国会を召集しなかった。
安倍政権は、特定秘密保護法をつくり、安保法制という「戦争法」をつくり、解釈改憲という手法によって、実質的に、明文改憲を実現しつつある。
熊本地震の被害が深刻になるにしたがって、緊急事態条項を憲法に加えるべきだという自民党や改憲論者たちの声が大きくなっている。緊急事態条項の本質とは、一時的にせよ、三権分立というコントロールをとり外して首相に全権を委ねてしまおうとすることであり、立憲主義の破壊につながるものである。かつて、ドイツのナチス政権がおこなったことだ。戦争につながる道である。
『あたらしい憲法のはなし』には、次のように書かれている。
「国の仕事の正しい明るいやりかたは、ここからうまれてくるのです。国会がなくなれば、国の中がくらくなるのです。民主主義は明るいやりかたです。国会は、民主主義にはなくてはならないものです。」(31ページ)
国会を軽視し、三権分立を形骸化し、立憲主義を蹂躙し、国家権力を独り占めにしていくやり方は、明るい民主主義のやり方ではない。「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起る」ことにつながる道である。
今こそ、改憲論者である安倍晋三首相には、日本国憲法の前文をしっかりと読んでおいてもらいたいものだ。
「この前文には、だれがこの憲法をつくったのかということや、どんな考えでこの憲法の規則ができているかということなどが記されています。この前文というものは、二つのはたらきをするのです。その一つは、みなさんが憲法をよんで、その意味を知ろうとするときに、手びきになることです。つまりこんどの憲法は、この前文に記されたような考えからできたものですから、前文にある考えと、ちがったふうに考えてはならないということです。もう一つのはたらきは、これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならないということです。」『あたらしい憲法のはなし』6ページ
5月3日は「憲法記念日」だ。安倍首相とその閣僚たちには、憲法99条を繰り返し読んで、憲法を順守する義務があることを再確認してもらいたい。そして、この『あたらしい憲法のはなし』を読んで、戦後民主主義の初心のありようを味わってもらいたいものだ。私たちも、また、久しぶりに、日本国憲法の前文だけでも、じっくりと読み返しておこう。
ここに、日本国憲法の前文を引用しておこう。
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」
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