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2016年05月27日13時48分掲載
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核・原子力
原子力市民委員会が「声明:熊本地震を教訓に原子力規制委員会は新規制基準を全面的に見直すべきである」を発表 山崎芳彦
脱原発社会建設を目指し、市民の公共利益の立場から情報収集、分析、政策提言を行い続けている原子力市民委員会(吉岡斉座長)は5月17日、熊本地震を契機に、現在国内で唯一稼働している九州電力川内原発の運転停止を求める要求が高まっているなか、原子力規制委員会が、熊本地震を教訓に、「部分的改善を経営的に支障のない範囲内で行えば、全ての既設原発が合格できるよう周到な配慮のもとに策定された」本質的に甘く、原発の安全性を保証し得ない新規制基準を全面的に見直すことを求める声明を公表し、原子力規制委員会に提出した。
原子力規制委員会は、熊本地震により甚大な被災を受け過酷な生活を強いられ、地震の先行きに不安を募らせる九州の住民、国民が、九州電力川内原発1・2号機の運転が続いていることに危機感を高め、その停止を求める声が高まっているのに対して、「現状では停止する必要がない」として、川内原発の運転を続けるという態度をとりつづけている。政府も同様である。
田中俊一原子力規制委員会委員長は、4月18日の規制委員会の会議の後に記者会見を行って「川内原発の運転を停止させる根拠はないので、停止させることはない」との見解で終始した。この記者会見である記者が、 「現在、八代までの、長さにして3分の2ぐらいのものが動いて、最大のマグニチュードが7.3だということですけれども、気象庁が南西方向に震源域が伸びるのではないかという予測をしているわけですね。これは想定でも何でもなくて、実際動いているという話を聞いていますけれども、、細かい振動が、そうなった場合に、機械的に大丈夫かもしれないけれども、マグニチュード8.1が起きる恐れがあるわけですね。まだ本震が終わっているとは限らないわけで、それを、機器が耐えられたから止めるということではなくて、予備的に止められないのかというのが現在の議論だと思うのですけれども、そこはいかがでしょうか。」などと質問したのに対して、 「それは、安全上の問題があることが確認できればというか、そういう判断をすればですけれども、私どもとしては、今の状況の中で、安全上の問題があると判断していないということです。我々以外に、政治的判断とか、いろいろなことがあり得るかもしれませんけれども、私どもとしては、技術的に見て、そういう判断をするだけのものには至っていないと思っています。気象庁が、南の方に移っているということを含めまして、我々はそういうことを踏まえた上でそういう判断をしています。」、「原子力発電所は事業者が動かしているし、いろいろな意味で、社会的にも非常に大きなものですから、それを予備的に、特段の根拠がないのに止めなさいとは、そう簡単には判断できないということはあります。」と答えている。
さらに、田中委員長は別の記者の質問に対して、(国民の懸念について)「今の熊本地震がどういう進展をするかというところは気象庁も言っていますけれども、その範囲でどういう状況が起こっても、今の川内原発について、想定外の事故が起きるという風に判断しておりません。」、(避難計画について)「私の方から申し上げることではないと思います。ただ、要するに、土砂崩れが起こるとか、いろいろな問題が起こる、複合災害が起こるということを前提とした避難計画を作っていただいているだろうというふうに思っています。」、(九州の振動が落ち着くまで、せめて経過を見るためにも止めておいてほしいというのが大多数の意見だと思うが、こういう判断はできないのかに対して)「原子炉規制法上は安全上重大な懸念がある場合には止める権限があります。でも、それは根拠がなく、そうすべきだという皆さんのお声があるから、そうしますということは、するつもりはありません。政治家に言われても、そういうつもりはありません。」 などと答え、川内原発の運転停止のための措置を原子力規制委員会は、国民、九州の人々の要望がいかに強くてもしないという態度に固執する姿勢をあからさまにした。
原子力市民委員会が発表した「声明」はこのような原子力規制委員会に対して、熊本地震によって原子力安全規制の欠陥、新規制基準の欠陥が一層明らかになったとして、その全面的見直しを求める内容になっている。 原子力市民委員会の「声明」は、「1.熊本地震によって噴出した九州電力川内原発停止要求」において、熊本地震を契機に原発への国民の不安が高まり、九州電力や原子力規制委員会に対して川内原発の運転停止を要求する動きが九州の住民を中心に高まっていることについて「熊本地震に見られるような、ある断層帯での地震が周囲の断層帯を刺激して連鎖的に震源域が広がっていくというパターンは、従来あまり注目されていなかったが」「今後熊本地震が川内原発近辺の断層帯の地震を誘発する恐れがないとは言えない。地下に隠れていた断層が動いて地表に現れるかもしれない。住民たちの不安は杞憂であるとは言い難い。むしろ、われわれがまだまだ自然現象の全容を理解していないという事実をこそ認識すべき」であり、「原子炉を一時停止しておくことは、地震に対して有効な方策で・・・過酷事故発生のリスクを大幅に減らすことができる」ことを具体的に明らかにしている。(制御棒の原子炉への挿入失敗のリスクをゼロにする。核燃料熔融に至るまでに冷却水注入を行うための対処時間を相対的に長くできる。運転停止期間中に職員や周辺住民の防災訓練を重ねいざという時の対処を円滑に行える。など)。
「2.熊本地震によって露呈した原子力安全規制の欠陥」においては、新規制基準そのものが原発の安全性を充分に保証するものではないのだから「川内1・2号機は、新規制基準の欠陥が解消されるまで無期限に停止させるべき」であり、さらに「原子力規制委員会は、関西電力高浜3・4号機、1・2号機及び四国電力伊方3号機に対する設置変更許可を凍結し、バックフィットルートに則り新たな規制基準のもとで必要な審査を進めるべき」とした上で、熊本地震によって露呈した原子力安全規制の欠陥について決定的に重要な問題点として、「防災・避難計画の実効性がないこと」、「耐震設計審査基準が甘いこと」を指摘し、具体的に問題点を明らかにしている。 「防災・避難計画」については、「最大の欠陥は過酷事故の際に周辺住民の安全を守るための実効性ある地域防災計画が、原発の建設・運転を許可する際の法律上の要件となっていないことである」と指摘し、原子力規制委員会が事業者と自治体が協議し合意した地域防災計画についてその有効性をチェックして合否の判定をする法令上の仕組みがなく、自治体に具体的計画の作成を丸投げしている一方、自治体の首長は防災・避難計画の実効性確認の責任を政府に転嫁する仕組みになっていること、2011年の福島第一原発事故の教訓がまったく真摯に受けとめられておらず、川内原発の防災計画では地震と原子力災害という複合災害には対応できないばかりか、原発からおおむね5キロメートル圏内以外では、空間放射線量率が相当な高濃度にならない限り屋内退避により被曝を防護することになっており、多くの家屋が地震で倒壊または屋内にとどまることが危険な状況では危険性を高め混乱を激しくするものとなっている・・・ことを指摘し、さらに「あらゆる地域防災計画が机上の空論、多くの被災者を置き去りにすることを暗黙の前提とした防災・避難計画しか立てることができないと考えられるが、そのようなものを防災・避難計画として容認して良いのだろうか。」と述べている。川内原発のみの問題でなく、原発安全規制の根本的な問題、欠陥を指摘するものであろう。
さらに「新規制基準の甘さ」については、「原子力規制委員会が定めた新規制基準は、事故対策組織を形式的に整備することと、ハードウェアの追加措置といった部分的改善を経営的に支障ない範囲内で行えば、すべての既設原発が合格できるよう周到な配慮のもとに策定されたもの」と断じ、本質的に甘い規制基準であり、それをクリアしても原発の安全性は保証されないとしている。 熊本地震で問題になったこととして、耐震設計基準の不十分さを指摘、福島原発事故を踏まえて一定程度改善されたことについての評価はしているが(津波対策が組み込まれたこと、活断層が耐震重要施設の直下にある場合設置許可を出さないとしたこと)、たとえば川内原発では基準地震動Ss(地震学及び地震学的見地から施設の使用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあるとして、原子力規制委員会が認め、耐震設計の評価に用いるもの)は引き上げられたものの、設備の補強はほとんどなされず、その理由も不明で、第三者による検証が不可能であること、大掛かりな補強工事を不要とするために安全率の切り下げが行われている疑いも濃いことなどを指摘している。 さらに、今回の熊本地震が、今までの基準地震動Ssに対する設計方針の根幹部分の限界を露呈させたとしている。「単一の大きな地震動に、原子力施設が耐えればよいという考え方」に立っていることは、熊本地震で益城町において震度7の地震動が繰り返し襲うなど、『繰り返し地震』が起きている」ことに注目し、「基準地震動未満でも弾性範囲をこえる地震動に繰り返し晒されれば、施設の安全機能が損なわれる恐れがある。熊本地震で1回目の地震動に堪えても2回目以降の地震動で倒壊した建物は少なくない。それと同様のことが原子炉施設でも起こりうる。」と指摘し、原子力規制委員会が「繰り返し地震」を前提として耐震設計基準を全面的に見直すべきだとしている。
原子力市民委員会の「声明」は、以上のような内容をはじめ熊本地震と川内原発の運転についての問題の解明を詳細に行ったうえで、「3.原子力規制委員会のなすべきこと」を提起しているが、その全文は次のとおりである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「原子力規制委員会のなすべきこと」 原子力規制委員会は4月18日の臨時会議で、現状において川内原発の運転を停止する必要がないとの見解を示し、今までその見解を変えていない。その理由は、以下3点である。 (1)熊本地震による川内原発の地震動が今まで数ガルから十数ガルにとど まっていること。 (2)現在地震が発生している布田川断層帯と日奈久断層帯のの2つの断層 帯が連動した場合でも地震動は100ガル程度にとどまっていること。 (3)まだ見つかっていない活断層が原発近傍で動いたと仮定した場合の上 限として設定された地震動(基準地震動)620ガルが起きても安全は保た れる。
1番目と2番目は結果論であり、さておくとして、3番目の理由は根拠不十分である。前述のように基準地震動は過小評価である可能性が高く、近年何度もそれを上回る地震動が発生しているからである。またその地震動に原子炉施設が耐えられるかどうかは、仮定に仮定を重ねた机上の計算で確認されているだけである。さらに「繰り返し地震」を考慮すると、それを想定していない従来の基準を基に「安全が保たれる」とする見解には説得力がない。
原子力規制委員会のなすべきことは、川内1・2号機の安全宣言を出すことではない。熊本地震によって明らかになった新規制基準の欠陥を解消すべく、迅速な行動を起こすことである。
その第1は、防災・避難計画を原子力規制委員会の規制要件とし、必要な指針・ガイドを整備し、厳しい適合性審査の対象とすることである。第2は、耐震設計審査基準を全面的に見直すことである。基準地震動の見直しにおいては、現行の策定方式は基準地震動を作為的に小さな数字とする余地が大きいが、それを抜本的に正す必要がある。とくに「震源を特定しない地震動」の想定を実質的にM6.5まででよいとしている規定は根拠薄弱である。それを改めた上で、「繰り返し地震」にも対応できるようにすることである。この2点に関する新規制基準の改定が済むまで、原子力発電所の安全性は保証されていないのであるから、原子力規制委員会は運転中の川内1・2号機について停止を要請するのが本来の責務である。
原子炉等規制法64条には、原子炉等による災害発生の急迫した危険がある場合において、災害を防止するため緊急の必要があると認める時は、災害を防止するために原子炉等の使用の停止、その他必要な措置を講ずることを命ずることができる、という規定がある。つまり原子力規制委員会は九州電力に対して川内1・2号機の運転停止を命令する権限を有しているのである。熊本地震の現在の状況が、「急迫した危険」という条件を満たすかどうか議論の余地があるとすれば、命令ではなく法的根拠によらない要請が穏当なところかもしれない。そのうえで、原子力規制委員会は新規制基準の改定を進めるに際して、「急迫した危険」が何を指すのかのガイドラインも策定しておくべきである。 以上 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 原子力市民委員会のホームページから「声明」の全文を読むことができる。筆者はその「声明」文から、1. 2.の内容を筆者なりに要約し、3.については全文を転載した。要約部分の文責は筆者にある。
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