安倍首相は2014年9月以後、内閣のスキャンダルに次々と見舞われ政権の支持率が低下してきたのを受けて、突如として衆院を解散して総選挙を行うと宣言しました。その理由として掲げたのは消費税の増税を2015年10月に10%に引き上げることが法律で決まっているが、それを先延ばしして2017年にする。だから、2017年には何があっても必ず上げることでよいかどうか、民意を問うとしたのでした。
そもそも消費税増税を先延ばしにすること自体に基本的に争点はありようはずもありませんでした。というのもその年の4月1日に消費税が5%から8%へと上がり、景気が冷えついていたからです。普通の庶民なら買い物をするときに、税金の高さを日々感じたはず。
「高齢化で増え続ける年金や医療などの社会保障費を賄う狙いがある。国民負担は年間で約8兆円重くなる見通し。第一生命経済研究所によると、年収500万〜550万円の4人世帯の場合、年間の負担額が7万1千円増える。消費税率の上げを受け、モノやサービスの価格が1日からほぼ一斉に上がる。コンビニエンスストアは原則、午前0時から新税率を適用。主な鉄道は始発から、タクシーは1日に営業所を出た車から新料金に替える」(日経)
こうした中、安倍首相は消費税の引き上げ時期を1年半後(2017年)に先延ばしするが、その時は何があっても必ず10%に引き上げるからそんな安倍政権を信任するかどうか、国民に問うとして総選挙に打って出たのです。この時、安倍首相の口から「税は議会制民主主義の基礎である」という珍しい発言までしました。これはNHKのニュースウォッチ9に安倍首相が登場して、衆院を解散する理由について話した時の言葉でした。
安部首相が2014年の秋に選挙に打って出た理由には最大野党の民主党が選挙の準備がまったくできていないことがありました。この時の12月の衆院選挙の投票率は52.66%で、衆院選挙史上、戦後最低の数字となったのです。というのも増税先送りを争点にした選挙など、意味がないという論調がメディアで取り上げられ、有権者は無意味な選挙だという風に洗脳されていきました。「白票」を投じるのがよい、といった有権者を愚弄するアドバイスまでネット空間で広がっていました。その結果、選挙自体が盛り上がらず、低い投票率となり、組織票を固めた自民党と公明党が大勝することになったのです。
そして、今回2016年夏の参院選を前に、安倍首相は2017年の消費税の増税を先延ばしにすると言い始めています。理由はリーマンショック級の世界経済の下降状況があるからだ、という説明です。2014年の国会解散の頃は、<何があっても2017年に消費税を増税する方針だが信任するかしないか投票してくれ>と言っていました。首相の言葉がいかにも軽く、有権者をその時々の思惑でいかようにでも誘導できる、と考えていることは明らかです。
2014年の秋、マスメディアは選挙の無意味さを強調するばかりで、結果的に投票率の低下に貢献したと思います。本来なら、たとえ国会解散の理由が党利党略のための無意味なものであっても、この選挙でそれまで安倍政権が行ってきた特定秘密保護法の強行採決など、民主主義の手続きや憲法を軽視する安倍政治に対して国民が判断を下す大きな機会となりえたはずで、重要な選挙にもなりえたのです。その意味でマスメディアが重要な役割を果しえなかったことは今日のメディアの機能不全を示すものでした。
あれから2年近くがたち、安倍政権は消費増税を再び先延ばしする方向です。2014年秋に安倍首相はNHKのニュースウォッチ9で「税は議会制民主主義の基礎である」と言っていました。そうであるなら、大企業が節税のためにオフショア市場に法人を設立するタックスヘイブンの問題や、グローバル企業の税金の問題に対処する必要があるのではないでしょうか。
■産経「消費税10%再延期へ 安倍首相が方針固める 5月に正式表明」
http://www.sankei.com/politics/news/160328/plt1603280011-n1.html
■選挙について 〜自民党と公明党が3分の2議席を得た昨年12月の総選挙を振り返る〜 「議会制民主主義」と60日ルール
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507290956063
■安倍首相 「税は議会制民主主義の基礎である」
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201411182309112
■総選挙 争点は特定秘密保護法、憲法第九条 きわめて重要な選挙
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201411140943055
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