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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年06月26日21時43分掲載
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西平重喜『統計でみた選挙のしくみ』を読む 根本行雄
安倍晋三首相は、消費税の再延期を打ち出し、同日選実施を見送ったことによって、衆議院での3分の2以上の議席を維持することを選択した。7月10日に投開票がおこなわれる参議院選挙では、18、19歳の約240万人が新たに有権者に加わる。20歳以上の男女に選挙権が認められた1946年の衆議院選挙以来、70年ぶりの制度改正である。そして、今度の参院選は明文改憲に向かって暴走している自民党・安倍政権に3分の2超の議席を与えるかどうか、日本を戦争をする国にするかどうか、私たちは重要な選択を迫られている。こういう時期だからこそ、私たちには、選挙について、まだまだ、学ばなければならないこと、知っておかなければならないことがある。
安倍晋三首相が消費税の再延期を打ち出し、同日選実施を見送ったのは、衆議院での3分の2以上の議席を維持するためである。暴走を続ける安倍政権は明文改憲にこだわっているのだ。そして、「緊急事態条項」というナチスの行なった独裁政治を可能にする改憲をも目指しているからだ。
日本国憲法には、誰もが知っているように、主権は国民にあるということ、そして、「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するという「代議制」、つまり、間接民主制を採用しているのだということが明らかにされている。だから、選挙は民意を正しく反映するものでなくてはならない。その簡単明瞭なことが、なかなか、実現することがむずかしいのだ。しかし、民主主義という制度の基本を支えているものの1つは、明らかに選挙なのである。だから、とても重要なものである。そのわりには、ネモトも含めて、多くの人は選挙について十分な知識を持っているかどうか、あやしいと言わざるをえないのが実態である。
「選挙」とは、日本の現行制度においては、有権者がその職(国会議員)にふさわしい人物を候補者の中から選ぶことである。そして、日本は議院内閣制なので、間接的にではあるが、有権者がその政府の代表者を任命することにも関わっているのである。 しかし、現行の選挙制度は獲得議席数と得票数の割合とが大きく乖離しており、その点においては、民意を正しく反映していない。しかし、そのような欠点のある選挙制度であろうと、選挙によって過半数の議席数を確保し、3分の2超の議席を確保すれば、合法的に明文改憲もすることができる。緊急事態条項を成立させて、ナチスのように独裁政治を実現することができるのだ。「悪法も、また、法なり」である。
また、「選挙」とは、「代理人」を選ぶことなのか、それとも「代表者」を選ぶことなのか。日本の現行制度においては、「代表者」を選ぶことになっている。しかし、国会議員は選挙の時ばかり「甘言を弄し」ているばかりで、公約を守らなくてもペナルティもない。また、「投票」以外に、主権者である国民の意志を表す方法はデモをするとか、署名運動をするとか、ほとんど、「主権者」の意思を表し、実現する方法は案外少ないのである。だからこそ、なおさら、選挙は重要だということになる。
私たちは誰か一人を選ぼうとするとき、話し合いで決めることができないならば、「くじ引き」か「投票」によって決めることになる。 古代ギリシアの都市国家アテネでは、公職はすべて「くじ引き」で決めていた。「くじ引き」は候補者の性格、能力など、個人にかかわるデータを無視して決めるやり方である。裁判員や検察審査員などは、「くじ引き」で決められるので、候補者の個人的な事情は、基本的には顧慮されることはない。つまり、候補者個人の性格や能力などを考慮することなく、候補者の一人一人を平等、公平に扱うやり方である。だから、「くじ引き」には投票者はいない。
「投票」とは、候補者の性格や能力など、個人的なデータを参照したり、考慮したりして選ぶやり方である。つまり、投票者個人の性格や能力などを考慮することなく、平等に1票を持つものとして、投票者を平等、公平に扱うやり方である。
当然、「選挙」は「投票」とつながっている。だから、投票者を平等に1票をもつものとして公平に扱う。そして、「1票の重み」を平等に、公平にということが、予想外にむずかしいのである。
□ 選挙の5原則
選挙については、普通選挙、平等選挙、直接選挙、秘密選挙(秘密投票)、自由選挙(自由投票)という5つの原則がある。
明治憲法では「直接国税15円以上を納める25歳以上の男子」と制限されていた。つまり、財力・人種・信条・性別などを理由にして選挙権を制限していたのである。それに対して、日本国憲法は、財力・人種・信条・性別などを理由にして選挙権を制限することなく、一定年齢に達したすべての国民に選挙権を与えている。こういう制限のない選挙のありようを「普通選挙」という。 普通選挙は日本国憲法第15条3項及び日本国憲法第44条但書で保障されている。 普通選挙の制度が世界各国に広まったのは、第一次世界大戦後になってからである。
平等選挙とは、一人一票(数的平等)であること、一票の価値が平等(価値的平等)であることを意味している。日本国憲法第14条1項及び日本国憲法第44条但書で保障されている。
直接選挙とは、選挙権をもつ人が代表者を直接に選ぶ制度である。それに対して、フランスやオーストリアなどの上院選挙やアメリカ大統領選挙などでは、選挙人を選び、その選ばれた選挙人が投票を行う制度がある。それを間接選挙という。
秘密選挙とは、選挙人の投票内容(どの候補者に投票したのか、あるいはどの政党に投票したか)の秘密が保障されている制度である。日本国憲法第15条4項前段で保障されており、公職選挙法46条(無記名投票制)や同法52条(投票の秘密保持)などの規定は、この原則に基づいている。
有権者が必ず投票しなければならないように強制したり、棄権に対して制裁を課すような選挙制度に対して、投票したい人だけが自由に投票することができる制度を「自由選挙」という。
現代の私たちにとっては、ごくごく当たり前の、常識だと思える、これら選挙の5原則も、人民の戦いによって獲得されてきたものである。
□ 西平重喜著『統計でみた選挙のしくみ』を読む
久しぶりに、西平重喜著『統計でみた選挙のしくみ(日本の選挙・世界の選挙)』講談社ブルーバックス 1990年9月 を再読してみた。
最初に、結論を述べてしまえば、主権者である国民の意思、民意を正しく反映する選挙制度は、残念ながら、まだ、ない。
小選挙区制、中選挙区制、大選挙区制の3つがある。定数1の選挙区で選挙する方法が「小選挙区制」である。1選挙区から3人、4人あるいは5人の代表者を選ぶ方法が「中選挙区制」、6人以上の議員を選ぶ方法が大選挙区制である。だから、市区町村長や都道府県知事などの首長選挙は、当選者が1人だから小選挙区制である。また、市区町村議会の選挙は、ふつう全地域が1つの選挙区となるので、大選挙区制である。
西平によれば、「外国では小選挙区制、中選挙区制、大選挙区制などという言葉はない」のだそうだ。大選挙区制の国は、いずれも比例代表制を採用しているのだという。
日本では、選挙と言えば、「単記制」である。しかし、単記制には人口の多い選挙区の有権者の権利が人口の少ない選挙区の有権者より小さくなることが起こる。つまり、1票の重み、発言権の重みに格差が生じてしまうのである。 「単記制」に対して、「連記制」というものがある。複数の当選者を出す、中・大選挙区制では、当選者の数だけ連記するという方法である。そうしないと、民意に反する結果となることがおこるからである。しかし、この連記制にも欠点がある。「複数の議員を出す場合、連記制にすべきだという議論はもっともだが、結果は小差でも一党独占となり、民意を反映しないおそれが大きい。」(21ページ)からである。
西平は、「現在ヨーロッパでは、multi-member制の国はすべて比例代表制を採用している」(20ページ)と述べている。1票の重みの不均衡をなくすには、比例代表制がもっとも優れている。「比例代表制というのは、国民の意見の縮図を議会につくり出す選挙法である。」(49ページ)しかし、実際には、その比例代表制にも、さまざまな問題点がある。得票数にもとづいて、どのように議席を配分するかという方法(計算のしかた)に、さまざまな問題が起こり、それに対するさまざまな解決法がある。しかし、まだ、決定的なものはない。
西平は、2つの比例代表制を提案する。 第1案(全国一括式)119〜125ページ 「全国的にみて国民全体の意見の忠実な縮図を議会に作り出す」 全議席を各党の全国での得票合計により、比例配分し、それを各党ごとに各都道府県(あるいは選挙区)に再配分して、当選者をきめる。
第2案(2段式)126〜134ページ 「各地域の代表を確保し、さらに各地に散在する少数意見を全国的にすくいあげる 各都道府県を選挙区とし、ひとまず各選挙区で1議席獲得の十分条件(ドループの基数)により、各党に議席を配分する。そうして配分もれとなった議席は、全国で一括して各党に追加配分しようというもの。
ネモトは、衆議院議員の選挙には、第1案に賛成である。さまざまな選挙の方法の中で、比例代表制がもっとも民意を正しく反映する制度だからである。参議院については、1票の格差を無視して、あくまでも、地域代表、職業代表、圧力団体の代表、その他の少数意見の代表者を選抜する方法を採用する。西平の第2案も、一考の余地はあると思う。
□ 多数決の結果は民意の反映か
毎日新聞(2016年6月16日)には、『多数決を疑う』(岩波新書)の著者である坂井豊貴(慶応大教授)へのインタビュー記事「そこが聞きたい 多数決の結果は民意の反映か」が掲載されている。
選挙では候補者や政党が、複数の政策を「抱き合わせ」で訴えます。AさんとBさんが争い、Aさんが勝つとします。しかし、同じ選挙で個々の政策ごとに多数決をとったとすると、全ての政策でBさんの政策が選ばれ、実現する政策が正反対になり得る。これを「オストロゴルスキーのパラドックス」==と呼ぶのですが、数学的にはこんな可能性が実際に生じます。ある政治家が勝ったからといって、彼の政策が有権者から支持されたとは限らないのです。
多数決というと、いかにも多数派の意見が尊重されそうです。だから「少数意見も尊重せよ」と言われるのですが、そもそも多数決が本当に「多数派の意思」を尊重しているのかというと、極めて怪しいのです。
致命的な欠陥として、多数決は「票の割れに弱い」点が挙げられます。2000年の米大統領選で、共和党のブッシュ氏と民主党のゴア氏が争いましたが、第3の候補・ネーダー氏が現れ、ゴア氏の票を食ってブッシュ氏が勝ちました。最近の国政選挙で野党候補が乱立し、野党側の票が多い場合でも与党が勝った例も同様です。
坂井は「多数決は民主主義との相性が悪いのです。」と述べる。そして、「多数決の弊害を緩和する仕組みはあるのですか」と問われて、「ボルダルール」を紹介する。
私が推すのは「ボルダルール」という制度です。スロベニアの国会議員選挙の一部などで用いられています。これは、3人の候補者がいれば、1位に3点、2位に2点、3位に1点と加点します。このルールのもとでは、選挙で勝つためには多くの有権者から少しずつ加点した方が有利。先ほどの「全ての人から2位になる候補」は、かなり強くなります。
繰り返しますが、多数決は票の割れに致命的に弱い。勝った候補が有権者の多数派であるとは限りません。また、全ての有権者から2位にされる候補は勝てないことから分かるように、勝った候補が有権者の広い支持を得られているとも限りません。
そうであれば、道徳的な話になってしまいますが、権力の使い方には節度がなければなりません。権力を使う側には「節度を持つことが必要だ」という自覚を持つ必要があります。節度を持つとは、つまり「立憲主義的抑制を守る」ということです。多数派の力でやるべきではないこと、合法であっても権力の使い方として正しくないことについて、権力者は常に自覚すべきです。
坂井の主張は理解できる。しかし、精神論や道徳論では、民意を反映させることはできない。それは戦後の70年の歴史を見れば、明々白々である。やはり、制度として、民意を正しく反映させる選挙のやり方、そして、選挙公約を守らなかった場合のペナルティを与える制度など、具体的な制度改革を模索し、実施し、改善を続けていくべきだろうと思う。しかし、名案が容易に見つかるものでもないのも事実だ。だからと言って、手をこまねいているのもどうかなと思わずにはいられない。
それにしても、「選挙」というのは、なかなか、一筋縄ではいかない。比例代表制がいいとは思うが、その比例代表制も、計算のしかたによっては、大幅な議席の変化が起こってしまう。むずかしい問題だ。今回は、現時点での中間報告と言うことで、読者の理解を得たい。
日本の現行制度においては、立候補者は選挙の時には「甘言を弄し」ているばかりで、公約を守らなくてもペナルティもない。過半数や3分の2超の議席を獲ると、自分勝手なことをする。安倍は改憲を隠し、「付帯条項」を隠し、消費税を再延期し、選挙の争点隠しに躍起になっている。そして、とにかく、3分の2超の議席を獲ろうとしている。議席さえ確保してしまえば、隠しているキバをむき出しにしてくることは明白だ。ナチスのような「独裁政治」を実現していくだろう。ほんとうに怖ろしい時代がやってくるのだ。 毎日新聞等の世論調査によると、自民党と改憲勢力が3分の2超の議席を確保する勢いだという。日本人の多くは、「ゆでカエル」状態なのか。主権者である国民の意志を表す方法は「投票」をすること以外では、デモをするとか、署名運動をするとか、「主権者」の意思を表し、実現する方法は少ない。だからこそ、選挙は重要だ。
日本の現行の選挙制度は民意を正しく反映させるものではない。その事実をふまえて、今度の参議院選挙には臨んでいくしかない。改憲勢力に3分の2超の議席をあたえ、安倍に「フリーパス」を与えてはならない。とにかく、投票には行こうと思う。
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