世論調査の結果と選挙結果が逆転した例が,しばしば見られるようです.賛否が半々(50%付近)の拮抗状態では,標本(サンプル)誤差は大きいので要注意です.信頼度95%にすると,サンプルサイズ200人のサンプル集合をとると7.1%の誤差があります.差が7.1%ですから賛成が50%こすか反対が50%越すかわからない場合は投票による賛否の結論も統計上の誤差で変わりうる、ということになります。
ちなみにサンプル数が600人だったら誤差は4%ぐらいになり精度が上がります.一般にサンプル数がnだったら1/√nです.これはnが母集団よりはるかに少ないときに成り立ちます.もちろんラン完全なダムサンプリングが実施され,いずれにしても、サンプル集合が母集団の性質を正確に代表していることが暗黙の前提です.サイズの大きなサンプル集合ならこの誤差は小さく(サンプリ数をnとすると√nの逆数に比例)なります.
英国のEU離脱国民投票の結果は,離脱51.9%,残留48.1%(投票率72.2%)と、4%以内の差でした.サンプルサイズが600人ですとこの程度の標本誤差はあります.でも実際はもっと大きなサンプルの人数でこの時は世論調査をしたでしょうから,標本誤差以上の誤差があったことになり,サンプル集合がランダムサンプリングでなかったのではと疑われます(そもそも意図的でなくても偏ったサンプル集合になることは普通で,予測を信じるのは危ない).
斯様に,サンプル集合が母集団を代表しているかどうかは大事です.
さて,以下は6月24日に日本の新聞で報じられた日本の世論調査の話です.
http://hunter-investigate.jp/news/2016/06/-24-300.html これによると、各社同じような世論調査を出したわけですが,出所は日経リサーチ社のもの.読売は,日経と同じデータ(同じサンプル集合)の使いまわしとのことです.
この調査のサンプルサイズは2万程度ということで,賛否が拮抗する50%でも標本誤差は0.7%です.いかにも高精度のようですが,出所が同じサンプル集合であることが悪質です.誰もこれがランダムサンプリングであったと保証はできません.一方の陣営の意見が多く集まって偏ったサンプル集合ができる危険性は避けられません.一般に世論調査では世論誘導に都合のよいサンプル集合を意図的に選ぶということも起こりえます.
■余録
Q 谷さん、世論調査は電話なんて使うのをやめて、ネット制にして母数を1億人全部にしたらどうでしょうか。年齢、支持政党、男女、年収などさまざまな属性を記入してあとで検証できるように(プライバシーは守られる必要はある)。総務省によると、ネット人口は1億人を超えているのです。
谷 克彦「賛成です.私は生涯一度も世論調査で意見を聞かれたことがないのです.私の意見が反映されるわけがない、個性が無視される統計量というのは信じられません」
谷克彦(数学月間の会 世話人) 東京大学教養学部基礎科学科卒業,玉木英彦先生のゼミでロシア語を学ぶ.結晶学,対称性が専門
■マスコミ各社・選挙前の世論調査の「支持率」は本当に信頼できるのか? サンプル集合の選び方で数字はまったく変わる 谷克彦(数学月間の会 世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606181029266
■十年目の数学月間を記念して 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507191723460 ■トランス脂肪酸について 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507301512374 ■海洋への放射能流出 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507171617005 ■新国立競技場のキールアーチ 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507131351431 ■超ウラン元素アメリシウムの話 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509160222293 ■凍土遮水壁 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602190855185 ■ロシア語を学んだ頃 1 谷克彦 ( 数学月間の会・世話人 )
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602222333011 ■ロシア語を学んだ頃 2 谷克彦(数学月間の会・世話人)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602231241022
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