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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年07月17日16時39分掲載
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コラム
ペンギン・ジョーク
「ニューヨークのタクシー運転手のジョーク集」というのを買うと、エッチなジョークもあれば政治を笑うものもあり、ここまでは各国共通ですが、中にペンギン・ジョークと言う独特の分野があることに気づきます。ペンギン・ジョークとはペンギンがバーに入ってきてカウンターに上がったり歩き回ったりする。そんなペンギンのふるまい対してバーテンが何かを言うというお決まりのパターンです。ペンギンがバーにやって来る、というシュールな状況に対して、バーテンは極めて日常的なノーマルな反応をする、という落差が笑いの源になっています。
たとえばペンギンがバーに入ってきて、カウンターを歩き回り、さらに壁を上って天井をさかさに歩いて、また出て行った。それに対してバーテンが「なんてこった、奴は挨拶もしないで行きやがった」とぼやく。
ここでバーテンがぼやいているのはペンギンの不思議な行動ではなく、「自分に挨拶をしなかった」ことに対してです。こういうのがペンギン・ジョークです。日本人の中には「笑えない」と思う人も少なくないかもしれません。なじんでしまえばそれなりに面白いのですが、なじまないとかなり突飛な印象も確かにあります。
最初はなんでこのような笑いのシリーズがアメリカにあるのか理解に苦しみました。スタンダップコメディ全盛期の1980年代のアメリカの雑誌のジョーク特集を古書店で入手して手に取ってみると、そこにもペンギン・ジョークはたくさん入っています。これはおそらくニューヨーカーの文化なのだと思いますが、世界中のジョークを検証したことがないので、本当にニューヨーク以外にないのかわかりません。もしかするとアイルランドとか、スコットランドなんかにそのルーツがあったりするんでしょうか?想像に過ぎませんが、ワイン文化圏ではなく、ウイスキー文化の国が発祥のような気がします。
いずれにせよ、ニューヨーカーはペンギン・ジョークを考えたり、話したりすることで一種の頭の訓練あるいは頭の体操を絶えずしながら、不条理に備えて心の余裕を持とうとしているように僕には思えるのです。ニューヨークは人種のるつぼで、世界中の民族が集まっており、そこには政治亡命者もいれば大金持ちもいて、難民もいます。祖国で不条理に直面して渡ってきた人が少なくありません。と、同時にアメリカ自体がそうした不条理を世界に作り出す源泉になっています。そうした過酷な状況を生き抜くためにそれを笑うジョークが必要になるのでしょう。
近年は日本も不条理に近づいている気がします。何といっても二大政党制を目指して選挙制度を改造してきたのに蓋を開けてみたら二大政党がなく、一大政党しかない。これはブラックユーモアであり、不条理だと思うのです。そういう意味で近い将来、日本でもペンギン・ジョークが必要になって来る気がします。
*私はすっかりペンギンと思っていたが、先日、1980年代に出版された米雑誌『エスカイア』のニューヨーク・ジョーク特集を読んでいて、ペンギンではなく、Duck(鴨)だったことに驚いた。私の中で、鴨がペンギンに置き換わっていたのかもしれない。
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ペンギンとバーテン
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