自民党による憲法改正案の中で、多くの人が指摘しているように、非常事態条項がもっとも独裁につながる危険が大きいことがわかります。いったん非常事態になれば内閣が議会を通さず、法律を制定できる、という意味でただちに立法権の掌握になりますが、それと同時に、注目すべきことは司法権も侵される可能性が高いことです。今回、トルコのクーデター未遂のあとの非常事態宣言下の状況を見る際、トルコの司法界を克明に観察する必要があります。なぜならエルドアン大統領はまず自分に批判的と思われる司法関係者を一網打尽にしたからです。
今年の6月に「日本の司法は独立を保てるか? 最高裁判事が全員、安倍首相の応援団になる日 自民党改憲案の真の怖さ」という一文を掲載しました。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606160619394 そこで言いたかったことは最高裁判事の任命権と、最高裁長官の指名権を内閣が独占していることです。すなわち、最高裁判事の中で首相と対立する考え方の判事たちを全員、何らかの理由で解任することができれば、その結果、新たな判事として首相の共鳴者を任命することで最高裁を完全に支配下に置くことができるのです。もちろん最高裁長官も同様です。そのために非常事態宣言は有効な手段になりえることです。そのよい例が今、トルコで起きている非常事態宣言です。
トルコの今回のケースで見てみましょう。エルドアン大統領が3か月の非常事態宣言をして、まずやったのが軍人と司法関係者の逮捕・拘束・解職でした。クーデターを起こしたのは軍人ですから、それはまだ理解できるとして、司法関係者が2745人もいきなり解職されるというのは驚くべき事態です。イギリスのインディペンデント紙によると、クーデター未遂の直後、トルコの司法関係者の最高組織であるTurkey’s Judges and Prosecutors High Council =「判事と検事の高等協議会」に召集がかけられました。この判事と検事の高等協議会は、エルドアン大統領の政敵であり大統領がクーデターの首謀者であるとしているギュレン師(米に亡命中)に関係すると見られる判事と検事の合計2745人を一気に解職する措置をとりました。このうち、10人は「判事と検事の高等協議会」自身のメンバーだということです。さらに、administrative court(行政裁判所)の判事ら48人と、控訴審の判事ら140人が逮捕されたと報じられています。
http://www.independent.co.uk/news/world/europe/turkey-coup-latest-news-erdogan-istanbul-judges-removed-from-duty-failed-government-overthrow-a7140661.html 一方、ロシアの通信社RTによると、トルコの憲法裁判所の判事も2人直ちに逮捕されています。憲法裁判所の検事や職員を合わせると逮捕者は100人以上になります。これはエルドアン大統領の非常事態宣言下で行われた出来事が合憲か違憲かを判断する司法担当者を解職したり、逮捕したりすることであり、まさに自分に都合の悪い司法判断をさせない独裁的な行動です。 https://www.rt.com/news/352349-turkey-judges-prosecutors-coup-crackdown/ インディペンデント紙によると、ギュレン師とエルドアン大統領は2013年までは仲間だったとされ、それが対立関係になってしまったのはギュレン師がエルドアン大統領らの腐敗を指摘し始めたことがきっかけだと書かれています。その意味では検事を含めた司法関係者を全員、身内にしておくことで司法の摘発から逃れることができます。と同時に非常事態宣言のもとでどのような暴力的な行動や憲法違反の行動を取ろうとも違憲判決を受ける恐れがなくなります。そして、国会は与党「公正発展党」が過半数を占めていますから、国会は大統領の行動を追認するだけでしょう。これを見ると、非常事態条項が持つ恐ろしい可能性がリアルに見えてきます。今、トルコで起きていることはまさに三権分立が崩壊した、大統領による独裁政治に他なりません。
※ギュレン師が2013年にエルドアン首相(当時)と対立するようになった頃、トルコでは「トルコの春」と名付けられた民衆の抗議運動が激化していたと北沢洋子氏は以下でつづっています。その理由の1つがエルドアン首相(当時)の家族ぐるみと思われる腐敗行為への批判だったとされます。
■【北沢洋子の世界の底流】「トルコの春2013」の背後にある事実 政治・経済、そして人びとの思い
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306131459284
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