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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年08月22日11時25分掲載
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文化
[核を詠う](215)『福島県短歌選集 平成27年度版』から原子力詠を読む(3) 「放射性物質ふふむ雪ならむ白き時間がふくしまをふる」 山崎芳彦
昨年、2015年元旦から東京新聞・中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井各紙がそれぞれ朝刊の一面に毎日1句を掲載し続けている「平和の俳句」(金子兜太・いとうせいこう選)の昨年一年間の俳句をまとめた『平和の俳句』(2016年7月刊、小学館発行)を読みながら、改めてこの企画を今も続けている関連各紙の英断と底力に敬意を深くしている。同書に2015年8月15日掲載の作品「千枚の青田に千の平和あり」(浅田正文、石川県金沢市)があり、いとうせいこう氏が「作者は福島県の旧緊急避難準備区域から金沢に仮住まいする。」と説明を付している。金子氏は「これはドナルド・キーンさんの翻訳も掲載された。文句なくいい句です。金沢を訪れた際、実際に作者の方にもお会いした。みずみずしい、いい句ですね。」と評している(「2015年を振り返って」印象に残る句5句の一つに選んで)。
『平和の俳句』には「作者に聞く」として作者の浅田さんの思いについて、東京新聞2015年8月15日付朝刊に掲載の「普通にコメが作れる暮らしの幸せ―浅田正文さん」の記事を、この句を英訳したドナルド・キーンさんのコラムと併せて紹介している。転載させていただく。(キーンさんのコラムは省略) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 東京のシステムエンジニアから自給自足暮らしへ 「平和だからこそ手間をかけて棚田に稲を作ることができる。一枚一枚の田んぼに平和が宿っているんです」。福島第一原発事故(2011年3月)で避難し、石川県での生活を余儀なくされる金沢市夕日寺町(ゆうひでらまち)の浅田正文さん(74歳)は、そんな思いを込めて句を作りました。 石川県輪島市の白米千枚田(しろよねせんまいだ)は国連食糧農業機関(FAO)による世界農業遺産(能登の里山里海)のシンボル。1004枚の田が山から日本海まで続きます。「きれいだけど、手植え、あぜの草刈りは大変だろうな」と浅田さん。 浅田さんは長く東京でシステムエンジニアをしていましたが、20年前、54歳のときに福島県田村市に移り住みました。コメ作りのほか大豆や小豆、野菜類を作る自給自足に近い暮らし。田畑で汗を流すと、自然の命の営みを肌で感じる生活です。水を満たした田んぼには、美しいイトトンボがすみはじめました。毎年、現われるトンボの群れは「神様のご褒美」、仲間もでき、豊かな時が流れていきました。
戦争や原発事故は、暮らしを吹き飛ばしてしまう それが2011年3月の福島第一原発の事故で奪われました。自宅は原発から25キロ。震災翌日の夕方、自宅の片づけをしていたとき市から避難指示が出て、通帳や印鑑も持たず、妻の真理子さん(66歳)と車で金沢の友人宅に向かったのです。 先の見えない避難生活、そんなとき、能登半島に講演に行った帰りに立ち寄ったのが千枚田でした。 自分が求めていたのは、やはり「自然の営みに合わせた暮らし」。3年前から現在の家を借りてトマトやサツマイモ、カボチャなどを作りはじめました。同じ体験を誰にもしてほしくないと願い、志賀原発の再稼働差し止め訴訟にも参加します。 浅田さんは「農のある暮らしは、優しい気持ちがないとできない」と話します。「戦争や原発事故は、暮らしを吹き飛ばしてしまう。この穏やかな暮らしが次世代に引き継がれるようにしたいしたいんです」 終戦から70年。平和は当たり前のものだと思ってきましたが、浅田さんは普通にコメが作れることの大切さを俳句に込めました。 戦後70年の安倍首相談話では、『積極的平和主義』が掲げられましたが、戦禍を繰り返さないためにどう立ち向かうべきなのでしょうか。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い引用をしたが、俳句も、短歌も原発や平和の問題とどう向き合って作品を生み、いまを生き現実と未来を思うかは、やはり深く重く、大切な課題の一つであることを思った。だからこそ、いま読んでいる『福島県短歌選集 平成27年度版』の全作品を読み、この連載の中では原子力詠に限って(筆者の読みによる)記録しながらも、その他の作品について思いを凝らさないではいられない。
なお『平和の俳句』には原発に関わって読まれた俳句も選ばれている。それらの句を転載しておきたい。
○寒き世や残してならぬ原発禍 (櫻田昌三 三重県) ○誰も来ぬ汚染の街に咲く桜 (寺内徹乗 石川県) ○起き抜けの水を六腑(ろっぷ)に原爆忌 (岡村イト子 東京都) ○大夕焼核の時代に生まれたる (川口靖子 静岡県) ○冴返(さえかえ)る地球に核の墓場かな (坂本真理 タイ・チェンマイ) ○除染して神や仏はもどるのか (小野長辰 埼玉県) ○広島も福島もみな秋津島 (横山 淳 東京都) ○一族の忌日同日原爆忌 (沖田豊史 東京都) ○この街に模擬ピカドンの落ちしこと (金深雅幸 福井県) ○被爆してまた被曝する平和ボケ (藤本明久 石川県) ○郭公が啼く原爆などいらない (小川千里 東京都) ○きのこ雲二度と見ないぞあの日から (菅野恭輔 埼玉県) ○伯母の名も加えられたり原爆忌 (薬師寺良晋 静岡県) ○被爆樹に触れて平和を祈る夏 (伊藤可代子 岐阜県) ○せつないよ広島生まれの8月は (長瀬澄子 東京都) ○似島(にのしま)を緑豊かに九条守る (加藤和彦 愛知県) ○小鳥来る被爆マリアの眼窩より (野崎憲子 香川県)
「平和の俳句」から原子力に関わると読んだ句を記録したが、前回に続いて福島歌人の原子力詠を読ませていただく。
線量数値低くなりしか保育園の園児の歩行列ただしゆく 原発事故に幹事全員の賛意得ず都内ホテルの開催となる (高校同期会) 復興のひとつが進み住宅の建設に田が埋められてゆく 国道が通りて過疎を免れたる今避難者の宅地となれり 空澄みて広ごる海の青深く凪波なれど出漁叶はず 原発事故の先の見通し不確かにて市内に移住の新築の増ゆ (6首 鈴木八重香)
除染後の赤き凍土を押しあげて小さき緑の水仙芽吹く 福島といふだけで値は叩かれると友の作りし味良きトマト (2首 高田優子)
汚染土に住みいし生きもの袋づめ太陽の光永久にまみえず (1首 高橋友子)
ひと日おきに透析に通ふ此の道に除染の人等折々に居て 除染後も残ると言はるるセシウムかけふも続けらる除染再び 学童の通る道優先に進みゆく除染のつづく雪の降る中 休耕地に背高アワダチソウ盛りにて君の田づくり休みて五年 (4首 高橋文男)
再会を誓ひし日より五年過ぐ友の集落やうやく見えぬ 峡に住む叔母に会はむと峠越え米味噌醤油携へ行けり 山里の叔母訪ぬれば玄関に涙うかべてわれを迎へぬ (3首 棚木妙子)
東電の恩恵薄きわが「いわき」原発被害もろに受けたり 原発の被災者を容(い)れ無条件、人も車も溢るる「いわき」 原発の被災者移り来て「いわき」土地の価格の値上がり激し 原発の被害者増えてわが「いわき」市の人口はいまだ不確か 双葉町は夫の墓所ある町なれば原発被害者はなべて友がら 空青く墓参日和の中日なれど県の許可とり詣(まゐ)る気力なし (6首 籐 やすこ)
被災五年磐梯山まで風評の登りて減りし観光客とふ 泡立草生えてはびこる休田に黄の旗振りて農を笑ふや 汚染土の山隠さむとわが庭に植えし夕顔怪しく灯る 町中の庭の美観を損ねゐる汚染土の山消ゆるはいつぞ (4首 波汐朝子)
ふくしまやセシウム深野 雪深野 とっぷり隠れ私が見えず セシウムの大蛇(おろち)討つ神招かんか御山(おやま)祭りのこの大草鞋(わらじ) 福島産菜の茎立ちを食(は)む朝か被曝の日々より起(た)つ証しとも 人おらぬ飯舘村にかくれんぼ「もう」と啼くべき牛らも居らず 烈風にのうぜんかずら揺り出(い)でて誰へ移さんその炎(ひ)の笑(え)みを ああ我ら何にも悪きことせぬを「原発石棺」終身刑とぞ 科学者ら希(ねが)うは核融合とう 陽(ひ)のほかに陽をつくる事とう 原発爆ぜ人らも脱(ぬ)けてすかすかのこの福島ゆ見ゆるは何ぞ 雪深野「仮設」のひとへ虎落笛(もがりぶえ)吹き極まりて何奏(かな)でんか (9首 波汐國芳)
除染後の表土替わりし吾が庭に紅こまやかな水引の花 (1首 二瓶みや)
日も風も動かぬ冬のさ中なり鬼を潜めて埋もれてゐる 鳥鳴けとかたくり咲けと誰か言ふ土剝ぎとらるる小鳥の森に 「忘れない3・11」イベントに「被災者」と呼び呼ばるる違和感 「忘れないつて負担かしら」横浜の人言ひつ福島の雑踏にふと (4首 野崎美紀子)
ひたひたと従きくるセシウム振り払ふ思ひに強くアクセルを踏む 文明に役立つ筈の核なるを作りてしまへりおろかな人間 生き永らへ再び食する時来るやセシウム汚染の原木椎茸 放射能にさらされながら耐へてゐる吾等に今こそ生れよ風神 白鳥らシベリア目指すを被曝ゆえ近くて遠き古里楢葉 (5首 橋本はつ代)
原発に追われて来たる関東に遠きふるさと思わぬ日のなし 一時帰宅に片付けする気も湧かずただ言葉なき夫と戻れり 時間のみ空しく過ぎゆく震災後四年(よとせ)心の復興はならず 居住区は道路を境に分けらるる放射能はそこで止まると言うか 背丈よりはるかに高き荒草の中にバラ一輪帰宅中に 阪神大震災より二十年中越地震より十年つぎてフクシマ ドローンにて撮りしふるさと海山を友送り来て胸あつく見る 仮設にて女宝財踊り舞いおればかつての仲間の懐かしき面 流れくるふるさとの歌その歌詞の重さに万感胸に迫れり (9首 半谷八重子)
やうやくにわが家の除染の始まりて線量下がるを願ひ見守る 新しき線量計を首にかけ無邪気に遊ぶ三歳の孫 除染時に移し植ゑたるコスモスが小さき花にていまだ咲きつぐ 放射線量検査終へたる峡の畑三年ぶりに青豆作る (4首 古川 祺)
物産展アコヤの母貝に守られて汚染なき海の真珠が光る (1首 古山信子)
駅伝の中継画像に映りたるフレコンバッグ目に残るなり (1首 星 陽子)
次回も『福島県短歌選集 平成27年度版』から原子力詠を読ませていただく。 (つづく)
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