各界で先進的な業績をあげた人々が講演を行うTEDのシリーズのyoutube映像版で「How to learn any language in six months (外国語を半年で習得する方法)」という興味深い講演があります。講師は クリス・ロンズデール(Chris Lonsdale)氏。ニュージーランド出身で、80年代初頭に中国に留学して中国語を習得した人のようですが、心理学を応用した独自の語学習得法を生み出したようです。その映像が以下。場所は香港の嶺南大学です。この映像には日本語字幕もあり、必要なら選択できる設定になっています。
https://www.youtube.com/watch?v=d0yGdNEWdn0 面白いと思ったのは語学習得をスポーツのようなものと考え、筋肉がくたくたになるまでスポーツ選手が練習するように外国語を肉体レベルで訓練する必要があると言っていることです。こつこつ何十年もかけて蓄積していく、というイメージではなく、スポーツのように実践的なイメージを持った方がよい、と言っています。
そして、動詞10個、名詞10個、形容詞10個で1000個の異なる文章が作れる。だから、頻度の高い単語を自分で自在に組み合わせて文章を作ってみるトレーニングを積む必要がある、と。最初はあまり、細かい規則に囚われず、赤ちゃんや幼児が言葉を習得するときのように、単語を組み合わせて文らしいものをたくさん作ってみる。これが先ほどのスポーツにも似た、という意味合いであり、自分の創造力を駆使して使ってみるという行動を起こすことが大切だと言っています。そして、それに慣れてくると、接続詞などを学んでより精緻にしていけばよいのだ、と。
また、英会話の85%は1000の単語で、さらに3000の単語で98%がカバーできるのであり、頻度が高いところに集中して学ぶことが大切である、と。その意味ではまず一番頻度が高い1000語を習得すれば85%の英会話が可能になる、と言っています。
実際の講演ではもっと体系立てて話しているのですが、要は子供が言葉を習得するように最初から完成された立派な言葉を話そうとせず、手あたり次第言葉を組み合わせて、慣れていき、次第に精度を上げていけばよい、ということのようです。もちろん、その過程で文法をマスターすることは必要であることは言うまでもないでしょう。今、ここでロンズデール氏が話しているのは文法の理解というようなことではなく、それは当然前提であり、ここではいかに短期間で自分が一通り使えるようになるかという実践方法です。
言語には様々なタイプがあり、中国語のように動詞の活用がない言語もあればフランス語やイタリア語、スペイン語などのように動詞の活用の習得で相当のエネルギーを要するものもあります。様々なタイプの言語がありますが、ここでロンズデール氏が言っていることは動詞の活用がどうであろうと、比較的少ない基本単語をできる限り自分で組み合わせてたくさんの文章を作って発音してみる、ということが必要である、ということでしょう。そのためには理解できようができまいが、大量にその言語を耳にしてそれに漬かる必要があると言っています。しばしば日本の英語教育で言われるのが、外国語の取得は母語の習得と違う。だから、赤ちゃんが学ぶような方法ではダメなんだ、という説があるのですが、それとは違った考え方です。文法書やその他のテキストを読んで勉強することは外国人にとっては当たり前で、それだけでなく、実践することの重要さを説いているのだと思います。
ロンズデール氏が唱えているのは、英会話のテキストの決まりきったパターンを学ぶのとは根本的に違っています。決まりきったパターンの習得だけでは少しでもテキストに出てこない質問が来たら詰まってしまう。そうではなくて、どんな場合にでも柔軟に自分の頭で言葉をシンプルに組み立てるための実践訓練の効果的方法ということでしょう。結局は外国に留学してその国の言語を使って生活しながら語学を習得する営みと、本質的にはそう大差がないようにも思えるのです。
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