民進党代表戦で右派の野田派に属する蓮舫参院議員が選ばれ、その幹事長に野田佳彦元首相が就任しました。野田氏は蓮根のように蓮の花(蓮舫)を支える、と記者団に語りました。このような人選に「驚いた」という人もいますが、野田派の蓮舫議員が野田元首相の影響力の下にあることは言うまでもありません。
■蓮舫氏の2004年の訪台 台湾政界の熱い期待
折しも沖縄のヘリパッド建設を巡り、政府の強硬姿勢に対して住民の闘争が激化している最中のことです。この蓮舫=野田ラインの野党第一党の新体制は今後の政局にどう影響するのでしょうか。そこで日刊ベリタの2004年の記事を振り返ってみたいと思います。2004年の日刊ベリタの志村宏忠記者の台北からの記事によると、蓮舫議員は参院議員に初当選して、父親の郷里である台湾を訪ねています。この時の政権は民進党(正式には民主進歩党ですが、略せば日本の民進党と同じ名前です)の陳水扁政権で、中国からの独立を旗印に当選を果たしていました。蓮舫議員は日本の参院議員として、陳水扁総統と会見したほか、呂秀蓮副総統らの討論会にも参加しています。
記事によれば「『15日の討論会後に台湾メディアに取り囲まれた蓮議員は、「日本の外交はおかしい。台湾は私の父の祖国だが、日本は台湾を国として認めていない。なぜ台湾は国ではないのか』と訴えた。また、『日本は中国に遠慮しすぎだ』とも述べた」
蓮舫議員は当時、尊敬する政治家に陳水扁氏を挙げていたというのですから、中国と台湾の関係については蔡英文氏が率いる今の民進党のラインと同じで、中国政府が唱えている1つの国、という考え方を否定するのではないかと推察されます。この時、蓮舫議員は日本の政治家として訪台したのですが、実際には台湾籍も有していたということになります。
「16日、台湾の陳水扁総統と面談、陳総統は「日台の架け橋になってほしい」と期待の言葉をかけた。しかし、総統府での会談で陳総統は、日台の自由貿易協定締結、台湾人旅行者のビザ免除、台湾のWHA(世界保健総会)へのオブザーバー参加の日本政府の継続支持など、1年生議員には荷の重そうな課題での協力を要請した。7月の参院選当選以来、台湾メディアの蓮舫議員に対する関心は高く、15日に台北市内で開かれた国際フォーラムに参加した後も台湾メディアに取り囲まれた」と記事にはあり、台湾側から日本の政治に期待する様子が描かれています。もし二重国籍であったとすれば、いったいどの国を代表する立場なのか、ということは政治家には問われることではないでしょうか。というのは本来、すべての市民が国政に参加すべきですが、それができないので、そのために選挙を行うのであり、選ばれた政治家は国民から信託された存在だからです。
■野田ドクトリンと蓮舫・民進党代表
このことは今の野田派に属する蓮舫議員の政策と無縁なのでしょうか。民主党の野田政権のもとで、防衛政策を担った長島昭久衆院議員はその著書「活米」の中で、野田政権の政策をこう表現しています。
「野田政権発足に際し、私たちは大方針を定めました。これは、久しぶりに本格的な「ドクトリン」と呼ぶべきもので、3つの柱からなっています。1つ目が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を中核とする経済連携、貿易と投資のルールづくり、2つ目が安全保障、とりわけ海洋のルールづくり、3つ目がエネルギーをはじめ戦略資源の安定供給のためのルールや仕組みづくりです。・・・・これによって、明確に、鳩山政権時代にめざしていた「東アジア共同体」構想、つまり中国を中心とする秩序に米国抜きで不用意に入っていくという考え方と決別したのです。」
要するに東アジア共同体構想を廃棄し、日米安保条約をベースに、中国と対峙していくことが基本姿勢です。またTPPを掲げ、中国が中心となる貿易圏ではなく、日米を基軸とした自由貿易圏を作ることも要にあります。そして、長島氏はこう総括しています。
「麻生、安倍ふたりの首相が描いた日本の外交・安全保障戦略。地政戦略的には私の考え方とほぼ一致しています」
これは何かといえば麻生太郎氏(現在、副首相)の「自由と繁栄の弧」と、安倍首相の「安全保障のダイアモンド」構想を意味します。端的に言えば中国をいかに封じ込めるか、ということです。渡米して安保政策を米国の一線の研究者から学んだ長島氏にとって中国とどう対峙するかが、最大のテーマなのです。
■台湾の苦渋と日米安保
ここから推測されることは野田政権と安倍政権の外交・防衛政策はほとんど双子の兄弟のように似ており、蓮舫氏が代表をつとめる民進党も同じなのではないか、ということです。そして、そのことは中国から距離を置きたい台湾の蔡英文政権の利益とも合致していると考えられます。ただ、台湾の足取りは困難を極めています。国連でも代表権は中国政府が占有しています。
蔡英文氏は昨年、総統選に臨む前に渡米して、今回はかつての「独立」という言葉を使わないことをアメリカに約束してきたとされます。というのは以前、総統選に出馬した時の強硬姿勢をアメリカからたしなめられた経緯があったからです。アメリカは中国との関係を平和に保つために、台湾が独立することを拒んできました。というのはそうなった場合に台湾と中国の間で戦争になる可能性があるからです。(と同時に中国と一体化しないことも望んでいます) 国民党としては異色の、台湾独立を唱える李登輝氏が1996年、台湾史上初めて直接選挙で総統に選ばれた時、中国は大規模軍事演習を行い、強いプレッシャーをかけました。米空母も出動し、一時は緊張した事態となりました。こうした中国側の恫喝もあり、今では軽々しく台湾人の政治家が「独立」という言葉は口に出せなくなっているのです。この時の緊迫した事態はその後、中国が空母建設を含め、海軍の増強を急ピッチで進めている理由の1つと言われています。
また2005年に中国は反国家分裂法を制定し、台湾の独立の動きに武力で対処することを法律に盛り込んでいます。こうした状況で、独立を目指す、あるいは最低でも現状維持を目指す台湾の人々は究極のところ、日米の力に頼るほかありません。そして、台湾独立を期する人々の英雄である李登輝元総統は近著の中で安倍首相を高く評価しています。その要は集団的自衛権に他なりません。
こうした中で野党と言っても与党と外交防衛政策で大差のない野田派に属し、今回、代表に就任した蓮舫氏ですが、いったいどのような外交・防衛政策を掲げて、自民党と向き合うのでしょうか。共産党との野党共闘というより、むしろ自民党と連立政権を組んでもおかしくない布陣です。民進党が野党としてどのように再生を果たすつもりなのか、有権者は厳しく見ているはずです。
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