イラン外相のモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ氏がニューヨークタイムズに'Rid the world of Wahhabism'(ワッハーブ主義を世界から一掃せよ)と題する一文を寄稿した(9月15日付 国際版)。かなり力強い文体で、今、世界で問題になっている紛争は「シーア派対スンニ派」という古典的な対立ではない、それは「イスラム教主流派対ワッハーブ主義」の闘いだ、と訴えている。つまり、スンニ派の大多数もワッハーブ主義の暴力の対象となっていると言っているのである。
ワッハーブ主義もまた、スンニ派に属するとされてきたが、ザリーフ氏はワッハーブ主義はスンニ派から派生した危険かつ特殊な流れであり、テロの震源となっている。アルカイダも、タリバンも、イスラム国も、ボコハラムもすべてワッハーブ主義の流れだ、と指摘。その最大のスポンサーこそサウジアラビアに他ならない、と警告を発している。
シリアで活動しているヌスラ戦線も、ワッハーブ派であり、サウジアラビアの資金提供を受けてきた。最近、アルカイダと手を切って「穏健派になった」としきりに報じられているヌスラ戦線だが、これもまたサウジアラビアのマネーで雇われた報道広告代理店によるイメージ操作に過ぎない、としている。これまで巨額のオイルマネーによって、中東にとどまらず、世界中にワッハーブ派を宣伝をしてきた結果が、今の危険な世界だという。
イランと言えばロシアとともにシリアのアサド政権を支援してきた国家である。今、シリアでの停戦合意が米国の「誤爆」問題をきっかけに吹っ飛びつつある。米ロ間の折衝の鍵を握っているのが、ヌスラ戦線とその他のシリア反政府派勢力を、どう扱うかということらしい。
■NYTへの寄稿が以下
http://www.nytimes.com/2016/09/14/opinion/mohammad-javad-zarif-let-us-rid-the-world-of-wahhabism.html?_r=0
■ワッハーブ派 「18世紀にアラビア半島内陸のナジュドに起こったイスラム教の改革運動である。宗派としてはスンナ派に属するが、その下位宗派に数えられる場合もある。」「創始者はムハンマド・イブン・アブドゥルワッハーブ。一般にイスラム原理主義と呼ばれて知られている復古主義・純化主義的イスラム改革運動の先駆的な運動である」(ウィキペディア)
■サウジアラビアが外国メディアに資金援助 サウジアラビア寄りの報道を促す
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201511212308056 ■You Can’t Understand ISIS If You Don’t Know the History of Wahhabism in Saudi Arabia(「サウジアラビアにおけるワッハーブ主義の歴史を理解しなければイスラム国は理解できない」ハフィントンポスト)http://www.huffingtonpost.com/alastair-crooke/isis-wahhabism-saudi-arabia_b_5717157.html 寄稿したAlastair Crooke氏(英国の外交官、元MI6エージェント、著述家)はサウジアラビアにおけるワッハーブ派の歴史を知らなくては、イスラム国は理解できない、という。ワッハーブ派の創始者アブドゥルワッハーブの考えでは厳格なムスリム原理主義に違反する者たちはもはやイスラム教徒ではなく、彼らは全員死刑に値し、その妻や娘はレイプされるべきであり、彼らの財産は没収されるべきである、と。これが何を意味するかと言えば、ワッハーブ主義とイスラム国のやっていることはまったく同じに他ならないのだという。
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