最近、痛快な風刺漫画を見た。若い女性がカミソリでせっせと体中、脱毛している漫画で、最後に毛を剃り終わってベッドに入ると、毛むくじゃらな大男が現れて愛撫する、というものだった。なんとも皮肉な漫画だが、スカッとしていて後味は悪くない。
作者はラミズ・エレール( Ramize Erer 1963- )という女性で、トルコのイスタンブールからパリに移住した風刺漫画家だと知った。 彼女は「悪い娘たち」という一連の漫画で知られており、悪い娘たちというのはつまり、快楽主義的にふるまうということだ。トルコのようなイスラム社会においてそのような自由奔放な娘たちの行状を新聞に描くことは勇気ある挑戦だっただろう。彼女たちは裸体を見せるし、男も風刺の対象となる。
この才気あふれる線を描く漫画家のことをもっと知りたくなって、コンタクトを取った。で、わかったのは彼女がパリにやってきたのは2007年ということだった。ということはエレールさんが44歳くらいの時だから、決して若くしてパリにやってきた人ではなかったのだ。僕はそのエレガントなタッチから、学生時代からパリの芸術学校に学んで、カビュ(Cabu)やウォリンスキ(Wollinski)などの風刺漫画家の影響を受けて自己形成した人か、と思ったのだが、実際はイスタンブールにある国立のミマール・スィナン芸術大学で学び、イスタンブールの風刺漫画家として有名になってから渡仏したのだった。そのとき、彼女は子供を二人連れていた。
彼女が渡仏した背景にはイスラム主義に回帰しつつあるトルコでこうした世界が次第に描きにくくなってきた事情があるようだ。2007年に渡仏した時、彼女はトルコのリベラル派の新聞「ラディカル」(Radikal)の特派員として漫画を寄稿するようになった。「ラディカル」は2万5千部くらいの部数で決して多くはなかったが、トルコにおいては影響力の大きい進歩的な新聞だった。しかし、この新聞も今年閉鎖となっている。いずれにしても最初はフランス語の語学学校に通いながら、パリで漫画を描き続けて今日に至った。
ラミズ・エレールさんによると、自由な女性を描くことになった原点は母親にある。イスラム世界において普通は親が娘に見せまいとする様々な価値観に母親は目を拓かせてくれた、だから母親は彼女が見た最初のフェミニストだったという。そんなエレールさんは漫画だけでなく、絵も描いており、個展も開いているそうである。
※画家として美術展を開いた時の映像
https://www.youtube.com/watch?v=IUvl-1wzv_A
■ジャック・フレッシュミュラー展 < Je vous aime beaucoup (私はあなたを熱愛します)>Jacques Flechemuller コリーヌ・ボネ(パリの画廊主)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201609172124086 ■画廊主コリーヌ・ボネ氏 Corinne Bonnet(la galerie Corinne Bonnet) 芸術家と今の世界 Artists and the world
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602231840342 ■フィリップ・ラゴートリエールの世界 どこか懐かしい漫画的なキャラクター満載 Philippe Lagautriere
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602051955445 ■パリの画家/漫画家のオリビア・クラベルさんにインタビュー Interview Olivia Clavel
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603151831552 ■パリの画家イザベル・コシェローさん グラフィックデザイナーから画家への転身 Isabelle Cochereau
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603130407510 ■パリの芸術家 パタフィジシャンの画家、ゴルゴ・パタゲイ(Gorgo Patagei)氏に聞く
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602092258222 ■抽象絵画の世界 目に見える世界と見えない世界 トリスタン・バスティ(Tristan Bastit)氏
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507030403225 ■パリの散歩道 〜モノと人と言葉〜Guenole Azerthiope
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201309111222443
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