欧州食品安全機関(EFSA)は9月29日、承認のために提出された除草剤ラウンドアップの有効成分グリホサートの試験データについて、かねてより公開を求めていた一部の欧州議会議員とNGOに「開示」すると発表した。EFSAは発表で「シェアする」と意味深長な語を使った。これまで、EFSAはもちろん各国の規制機関は、企業の知的財産権を盾にして、承認に関する企業の提出したデータの公開を拒んできた。限定的とはいえ、この「決断」は情報秘匿の壁に穴を開ける兆しだ。(有機農業ニュースクリップ)
国際がん研究機関(ICRA)は昨年3月、検証可能な公開データに基づいて、グリホサートに「おらく発ガン性がある」とする見解を発表した。欧州では昨年から、グリホサートの登録期限の延長をめぐって、反グリホサートの市民の声の高まりの中でICRAとは真逆なEFSAの閉鎖的な姿勢は批判されてきた。2012年には、利益相反の疑いを指摘されたEFSA運営委員会議長が辞任している。こうした過去を持つEFSAが「開示」を決断したことは、一歩前進であり、「知る権利」をベースにした規制承認の透明性確保の要求に応えた形といえる。
・EFSA, 2016-9-29 Glyphosate: EFSA to share raw data https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/160929a
・Reuters, 2016-9-29 Europe's food safety watchdog says to release studies on weed-killer glyphosate http://www.reuters.com/article/us-eu-health-glyphosate-idUSKCN11Z2BD
「開示」を受けるNGOの欧州企業監視所(Corporate Europe Observatory:CEO)によれば、「シェア」されるデータは、公開を要請していた一部の欧州議会議員とNGOに対してのみ「開示」され、一般には公開されないという。また、データは電子的な読み取りが不可能なフォーマットだという。また、すぐに「開示」されるわけではなく、「開示」にはさらに2か月かかるという。
欧州企業監視所は29日の声明で、「開示」に関する経過とともに、規制の透明性の確保という点で非常に重要な前進と評価した。また、今後もデータ公開の要求は繰り返しなされることが必要であり、データ分析の観点から編集可能なフォーマットで、なんら制限なく公開されるべき、と当然の要求を挙げている。欧州企業監視所はまた、「ハードな10ヶ月の交渉」だったと評している。欧州企業監視所は、15年12月に公開を求める要請書をEFSAに提出していた。
・CEO, 2016-9-29 FSA commits to disclose glyphosate raw data to CEO and Green MEPs https://corporateeurope.org/efsa/2016/09/efsa-commits-disclosing-glyphosate-raw-data-ceo-and-green-meps
今回「開示」を受けることになった欧州議会の欧州緑グループ・欧州自由連盟(Greens-EFA)の4人の議員は今年3月、欧州議会議員の調査権限を根拠として、非公開データへのアクセスを求める要請書をEFSAに送っていた。
・Greens-EFA, 2016-3-15 Is glyphosate safe? We have the right to know! https://www.asktheeu.org/en/request/is_glyphosate_safe_we_have_the_r
● モンサントなども「公開」のポーズ
モンサント英国社など農薬関連企業で構成するグリホサート・タスク・フォースは8月、ブラッセルに期間限定でグリホサート関連データの閲覧室を開設したと発表している。GMウォッチによれば、この閲覧室では、携帯電話などを含む一切の記録機器の持ち込みは禁止され、監視員の監視下で「閲覧」が許されるという。再検証が可能な「公開」ではなく、単なるデータ「鑑賞」の機会を設けたにすぎない。その後、ニュースにもなっていない。
・Glyphosate Task Force, 2016-8-24 Glyphosate Task Force Opens Reading Room for Public Access to Studies http://www.glyphosate.eu/gtf-statements/glyphosate-task-force-opens-reading-room-public-access-studies
● 「公開」が進むきっかけになるか
EFSAの「開示」がグリホサート・タスク・フォースと同様な形であれば、大きな非難を浴びることは間違いないだろう。EFSAのいう「シェア」がどのような形になるか注目される。そして、この「開示」により、企業の主張する知的財産権によるデータ非公開の妥当性の当否が明らかになり、公開が進むきっかけとなるかも知れない。
米国では先ごろ、シンジェンタが米国環境保護庁(EPA)へ提出したネオニコ系農薬のデータが、情報公開制度により開示されたと報じられている。
・Guardian, 2016-9-22 Pesticide manufacturers' own tests reveal serious harm to honeybees https://www.theguardian.com/environment/2016/sep/22/pesticide-manufacturers-own-tests-reveal-serious-harm-to-honeybees
EFSAの「開示」の背景には、グリホサート登録延長に反対する200万人を超える人びとの声がある。最終的にはEU委員会はグリホサートの登録を延長したが、加盟国の特定多数の賛成を得られなかった。EU加盟国のマルタやイタリア使用禁止を正式に決めるなど、グリホサートへの風当たりは強まっている。
硬かったガードに少しづつ穴が開き、承認過程の透明性が拡大する方向に動き出しているかにみえる。欧州企業監視所が声明で述べたように、不断の再検証可能な形式による公開の要求が必要だ。人びとの「知る権利」にとって、公開は当然である。
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