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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2016年10月17日14時57分掲載
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象徴天皇とは何かに迫る 保阪正康著『天皇のイングリッシュ』 西沢江美子
いま書店は皇室本ブームである。8月8日の天皇の生前退位の意向をにじませたビデオメッセージ以来、賛否両論本でにぎわっている。天皇制に批判的だった人がメッセージを支持し、無条件に天皇をあがめてきた右派言論界の多くが批判するという奇妙な展開をしているのも特徴だ。
そんな中で一冊の本を見つけた。新書版、金色の菊のご紋が浮き上がり、その下に「天皇陛下生前退位へ!」の文字。本のタイトルは『天皇のイングリッシュ』。題名にひかれて手に取った。著者はわかりやすい昭和史の著作を沢山持つノンフィクション作家の保阪正康さん。発行は2015年12月だから天皇のメッセージ以前である。
著者は「まえがき」で本書を書こうとしたねらいをこう述べている。「今上天皇は戦後七十年の二年ほど前から、ご自身の考えを鮮明にしてご発言するようになっている」「自分の人生を振り返るなかで、天皇としてどのようにすべきであったのか」と。天皇の言葉を一つひとつひろい、現天皇自身の思想信条を明らかにしようとしたのが本書である。現天皇の出生から現在まで、昭和史と重ねながら、これまでふれられていない昭和天皇と皇太子であった現天皇との「父と子」を垣間見せたアジア太平洋戦争時代や敗戦後のGHQ時代のこと、家庭教師となった非戦論者のクェーカ―教徒、ヴァイニング夫人との出会い、など興味深いエピソードが当時の日記、新聞記事、取材などで浮き彫りにされる。
ヴァイニング夫人との出会いが現天皇の非戦と自立を築く基礎となったと著者はみている。本書のタイトルの由来もそこにある。大きな犠牲を払って築かれた平和憲法の下で「象徴」として生かされた「天皇」はいかなることをすべきなのか、これまでの天皇にはない新しい「天皇」への模索の基礎がここでつくられたと著者はいいたいのかもしれない。
著者の見方はこうだ。「近代日本の天皇は孝明天皇以後明治天皇、大正天皇、昭和天皇の時代にいたるまで、すべて『国体』の下に『政体』が位置していた」。天皇制の下に軍事主導の国家体制があった、というのである。この国家体制は敗戦とともに解消された。だが、「昭和天皇は新しい民主主義体制になっても国体の下に政体がある、つまり天皇の下に戦後民主主義がある」と考えていたと著者は推測している。
こうした整理をしたうえで、著者は、現天皇が平和憲法の中で位置付けられている「象徴」をどうとらえているかに迫る。それは、「国民の安寧と幸せを祈る」こと、「人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添う」ことだとメッセージは伝えた。平和憲法あっての天皇なのだということを、彼なりに明確にしたのだろう。
いま安倍自民党は「天皇の元首」化をうたった憲法草案を掲げて改憲に動き出している。天皇制を原理的に批判することはもちろん大事だが、同時にいまを生きる普通の人にとっては、同時代を生きる天皇自身と天皇を取り巻く状況をリアルにみることが必要になる。そのためのテキストとして本書は役立つ。(廣済堂新書 800円+税)
(ジャーナリスト)
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天皇のイングリッシュ
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