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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年01月05日01時33分掲載
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医療/健康
夜勤ナースの独り言(32)
ご無沙汰しています。東京の看護師派遣会社から医療過疎地の病院に派遣されていた看護師れい子です。 勤務していた医療過疎地の病院は随分前に辞め、現在は都内に戻っています。大切な家族が病気になったので、適切な医療を受けさせるためです。 普通に暮らしてきた人が、ある日突然大きな病気であると診断されることで、その途端に「患者」となり、自分を取り巻く状況が一気に変わってしまう。そして、その人の家族は「患者家族」となる。看護師として働く中で何度も見てきた光景ですが、その災いが私にも降りかかりました。どこかで「自分には起こるはずがない」と思っていたことが、突然起こったのです。
看護職を含む医療従事者が不足する地域で、私は派遣期間の更新を重ね、4年の月日を過ごしました。その中で、その土地特有の習慣や考え方に直面して都心とは違う看護の難しさを感じたり、急性期を過ぎた患者さん、特に高齢患者の行き場・受け入れ施設の無さなど困難な事例にも数多く遭遇して、さらに慢性的な人手不足も加わって、体力を消耗したり精神的に追い詰められることが多々ありました。そういう生活の中で、私の支えになってくれたのが、その土地で出逢って結婚した今の夫です。
夫は、とある観光名所でカフェレストランを経営していました。カフェの経営だけでなく、買い出しから料理、片付け、ゴミ捨てなど全て一人でこなしていました。加えて、料理も上手いし、お店のセンスも良いということで、お店のオープンから5年、経営が軌道に乗り始めたその矢先に、なんと夫が脳腫瘍を患ったのです。 現在46歳の夫は、1年ほど前から物忘れが激しくなりました。「まさか、この年齢で認知症?」と心配した私は、夫に長谷川式認知症スケール(※認知症の疑いのある人に行われる簡易知能検査)をやろうとしたこともありました。しかし、良くも悪くも仕事人間の夫は、「新しいことを常に取り込むには、古い知識やこだわりを捨てる必要がある。忘れていかないと、新しい知識や技術は入ってこない」と言い張って物忘れを正当化。私も「忙しさもあって疲れているのだろう」「元々の性格ということもあるのかもしれない」などと思いつつ、そんなこんなで1年が過ぎました。
そして2015年12月末頃から、夫に眩暈が出現し始めました。車から降りるときなど、下を向いたときに眩暈が起こり、数秒間目をつむれば治るという状態が何度か続き、年明けからその頻度が高くなりました。飲食店の年末年始は忙しいので、夫は「単なる疲れかな?」なんて思い込み、積極的に「受診しよう」という動機に結びつかなかったのですが、疲れやすくなったことから、夜の営業を完全予約制にして休みを確保するようにしました。
そして、忘れもしない2016年4月15日。夫が「眩暈がするときに物が二重に見える」と私に言ってきたのです。物が二重に見えるのは、脳神経疾患の疑いが強いので、ただの眩暈ではなさそうです。私は「めまいが持続する場合、まず三半規管を含む耳の疾患を疑われるので、まずは耳鼻科で受診し、そこで解決しなかったら脳神経疾患を疑ったほうが良さそうだ」と判断し、まず夫を耳鼻科に連れていくことにしました。
私が当時勤めていた総合病院にも耳鼻科はありましたが、医療過疎地なので耳鼻科は週3日しか診察日がなく、初診は週初めの月曜日のみ、その他2日は予約しか受け付けていません(急に耳が痛くなったり、突発性の難聴になったりしたら、みんなどうしているんでしょうね)。 私たちが住む地域には、当日受診できる耳鼻科がその他に無いので、自宅から車で2時間かかる隣の隣の市町村に評判の高い耳鼻科があることを知り、その日はタイミング良く私も仕事が休みだったことから、私は車を運転して夫を病院に連れていきました。そこの耳鼻科は、小さな診療所であるにもかかわらず、近隣に設備の整った耳鼻科が無いためか、朝から人が溢れていました。 医療過疎地の地方に住むということは、受診も1日かがりになるのを覚悟しなければならないことを、改めて思い知らされました。
私たち夫婦が診察室に入ったとき、その耳鼻科の医師は、看護師さんに対して大きな声で「え?この人(=夫)、CT(コンピュータ断層診断装置)撮ってないの?なんだよ。まぁ、いいや」と言っていました。この非常に忙しそうな耳鼻科は、最初に看護師が診察室の外で患者に問診し、それから医師の診察に回すという流れだったようです。 結局、耳鼻科ではCTを撮ることなく、目の中を覗き込むカメラのようなもので、目の動きの異常があるかどうかを確認。モニターに夫の目の動きが映し出された後、左目だけが“眼振”(目の動きが不自然)ということで、「耳の中にある三半規管に耳石が落ち込んでいるのだろう」という見立てとなり、耳石を元の位置に戻すための体操を説明する用紙をもらい、体操の指導を受けて帰ることになりました。 今となっては、その耳鼻科でレントゲンなりCTなり撮らなかったのが良かったのかどうか分かりませんが、もし撮っていたら、夫は、耳鼻科の医師に自身の出身大学病院を紹介された可能性があり、今とは別の運命を辿っていたかもしれません。 そして、耳鼻科の医師から「まぁ、もし心配なら、帰り道に脳神経外科があるから、そこでCTまたはMRI(磁気共鳴画像)でも撮ってもらえば」と言われたので、「耳鼻科で異常が見つからなければ、やはり脳神経系に問題があるのだろう」と思っていた私は、耳鼻科の診療所まで来た道を40分程戻る場所にある脳神経外科の病院に向けて、午前の診察時間に間に合うよう、夫を乗せた車を飛ばし、診察終了時間15分前に病院へ滑り込みました。 今振り返ると、奇跡というか、全てのことが今後につながるような、そんな流れでした。(れいこ)
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