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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年01月28日14時13分掲載
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西嶋真司監督『抗い 記録作家林えいだい』 底辺の視点が引きずり出す真実 笠原真弓
北九州に住む林えいだいは、コツコツとそのあたりを歩いている。そして自分の感性に触れる事実を、ひたすら当事者から聞きだし、記録していく。著書は北九州の公害や炭坑の労働災害、その中でもさらに弱者である朝鮮人労務者に関するもの、女性労務者、そして日本国軍兵士として召集された朝鮮人まつわる理不尽が並んでいる。彼の関心はあくまでも国家権力にしいたげられた物言えぬ者たちに向けられ、その代弁者として記録している。 ではなぜ彼はそのようなことに、こだわっているのか。両親の生き方だった。
▼アリラン峠を越えた人たちを追う
筑豊には、地獄谷と言われた深い谷がたくさんあるという。朝鮮人労務者はその谷を降りて炭坑に入る。第2次大戦を支えた筑豊炭鉱には、ある時期17万人を超す朝鮮人炭坑夫(労務者)が働いていたという。集合写真にはまだ少年のようなあどけない顔も混じっている。彼らは峠を仰いでは故郷を思っただろう。いつしかアリラン峠と言い習わされていった。労働のあまりの過酷さと飢えに、朝鮮人労務者はその峠を越えて逃げていく。その労務者をかくまったのが、林の両親だった。何代も続く古宮八幡宮の神主だった。逃亡者を傷が癒えるまでかくまい、闇にまぎれて逃がす。その時、握り飯を持たせた。
その父が、労務者の逃亡をほう助したと連行され、1月後に帰宅した。林は、その時の様子を淡々と話す。「神社の階段を自力で上がれないほどの拷問を受けていて、1週間後朝、食事だと呼びに行くと死んでいた」と。
林は自分を「国賊・非国民」の子どもと定義して、その低い視点から力を持つ者のやりようを、怒りをもって究明してきたのだ。
映画の始まりで林がカメラを案内して行った先は、半分埋まった丸い石が点在するところ。炭坑で亡くなった人の墓である。私にはその石が、シャレコウベに見える。踏んで歩きそうなそんな石が、せめてもの墓標だという。それすらない人も、いるだろう。あまりの寂しさに、最近は韓国の遺族によって慰霊碑が建てられた。
彼の関心はさらに深く、労務係りにも向けられる。逃亡を企てたとして捕まえた労務者を撲殺した男に寄り添い、「いいたくない。いわない」と言っていた彼の凍った胸を融かし、あおるように飲みながら、そして泣きながらの告白を書きとめる。林さんの、「本当は言いたいのです。聞いてもらいたいのです」という言葉には、労務係をも権力に押しつぶされた者と捉えていることが伝わる。
▼『谷中村滅亡史』(荒畑寒村著)に学んだ現場主義
彼の記録作家のはじまりは、北九州市の職員だったとき、婦人教育を担当したことから。市民と公害問題に取り組み、その成果を1冊の写真集にした。しかしそれが原因で市役所をやめざるを得なくなる。そしてはじめたのが、記録作家である。
彼の徹底した現場主義は、大学4年生で出会った荒畑寒村の『谷中村滅亡史』にある。ひどく感銘を受けた彼は、住民がどのように運動を広げていったのか学びたいと、村人が直訴に行った「押出し」の行程を自身も水を持っただけで24時間歩いたという。この姿勢がのちの聞き取り調査の基本姿勢になった。
さくら弾機重爆特攻機火災事件の聞き取りは、高齢の元特攻兵士を和歌山から九州まで呼び、元女子挺身隊員と共に現場を歩きながらの聞き取りは、まさに実体験を重視する彼の記録者魂だ。その場に立つことで当時をリアルに思い出していくようだ。20年5月25日に沖縄に出撃という23日夜、最後の頼みの特攻機が火災を起こす。だが軍はろくに調べずに1人の朝鮮籍の伍長に罪を着せた事件が語られていく。
第六航空軍の特攻隊の編成参謀の話も聞き出している。「国は特攻隊を編成して死に追いやった。人の命の尊さをまだ知らない中学1年から徹底した洗脳をすれば、みんなそうなる。あれだけ特攻殺しておいて、テメエはこうして生きている。恩給もらってアパート作って、特攻隊に行けと命令したやつがね。責任とったのはいない」と。
現在の日常生活も示す。お嬢さんが時々来るものの、一人暮らしである。不治の病を持ちながら、治療を放棄して動かない指にペンを括りつけて書く執念。それによって、歴史の闇から引きずり出された真実が示される。
100分/2月11日シアター・イメージフォーラム公開より全国上映__ 公式ホームページ http://aragai-info.net 写真のクレジット(C) RKB毎日放送
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