「ニューヨークタイムズを10倍楽しく読む方法」。なんという大仰なタイトルだろう。それはともかく、ニューヨークタイムズは腐っても鯛、西側世界の新聞の中心的な位置を戦後一貫して担ってきた媒体であることは間違いない。しかし、その新聞を日本人が十分に活用できていないと思えるのが残念だ。ソーシャルメディアで時々、ニューヨークタイムズでこんな記事がある・・という情報がチラホラ出回っているけれど、僕の見るところ多くの人は直接英文の記事を読んでいない。誰かが要約したものを拡散しているだけだ。自分で記事をセレクトしたり、記事を自分で直に読んだ時のダイレクトなインパクトはそこにはないのだから。
ニューヨークタイムズに書かれていることすべてが真実かというと過去には誤りもあるし、おかしな分析もあった。しかし、それでも世界の人々がニューヨークタイムズに書かれている情報をもとにリアクションを起こしたり、その情報を精査したりしていることは確かである。だからこそ、ニューヨークタイムズを読む意義があると思うし、どうせ読むなら面白く読んだ方がよい。
ニューヨークタイムズを10倍楽しく読むためには、言うまでもなく、まず読まなくてはならない。読まない限り10倍も2倍もない。0であるものは何倍しても0なのだから。
ではニューヨークタイムズを読むにはどうすればよいのか、言うまでもないが駅のキオスクや洋書を置いている書店などに行くと国際版を買うことができる。今はいくらなのだろう、筆者は毎日配達してもらっているので1部いくらか正確にはわからないが、決して安くはなかろう。何年か前、筆者が外国旅行から帰国したら、ニューヨークタイムズとジャパンタイムズが一緒に配達されていた。「あれっ」なぜジャパンタイムズが・・・と思って配達店に電話して問い合わせたら、筆者の留守中に2つの新聞が提携して両方購読しないといけなくなっていたのだった。その値段は現在、合わせて月額5143円だから、決して安くはない。しかも僕が基本的に読むのはニューヨークタイムズだけで、その分割高に感じられる。ジャパンタイムズの質が悪いわけでは決してないが(実際、筆者は昔、ジャパンタイムズをキオスクで買っていた)ジャパンタイムズは日本国内の事情が主で情報的には日本の新聞と重なるのだから、この提携は僕にとってはマイナスでしかない。
紀伊国屋書店に問い合わせてみたら、今、ニューヨークタイムズはジャパンタイムズとセットで1日分で210円になっている。日本の新聞よりは50〜60円高い。でも、この値段を払うことは悪いことではない。それはなぜかというと、人間はお金を払ったら、なんとかしてモトを取りたいと思うからだ。だから、210円も払ったなら、記事を最低でも1つはしっかり読もうと考えるものだ。モトを取ってやろう、という思いは決して馬鹿にならないものだと思う。
ニューヨークタイムズを10倍楽しく読むためには、まずニューヨークタイムズをキオスクで買うことが大切だ。210円も投じて買ったなら、なんとしてでもモトを取ろう。そのためには精読する記事を1つ決める。最初の1日は一番小さな記事でよいのだ。5行くらい、あるいは10行くらいの紙面の隅の小さな記事でよい。小さな記事だから、そこに出てくるわからない単語は全部辞書で引く。紙で買うことの良さは記事の脇の余白に辞書で引いた単語をメモ書きできることだ。だからその記事の周りの余白は書き込みだらけになる。そうしてその内容が自分で理解できるまで、1日中、トイレでも風呂でも電車の中でも寝床でも考え抜く。・・・それができたら次の日は少し長い記事にトライしてみる。こうしていくとやがては1つだった記事が2つ、3つと読めるようになる。続けるうちに楽になっていく。大切なことは1日1記事の精読を続けることだと思う。
記事と言うと政治や経済の難しい記事・・・ちょっと抵抗があるな、という人もあるかもしれないけれど、世界のスポーツの記事やファッション情報、映画や演劇も結構記事がある。とくに週末が近づくとレストラン、旅行、展覧会の催し情報が出ていて、たとえ日本にいて行けなかったとしても世界で何が今トレンドになっているかをざっと知ることができる。
僕の場合、記事を1つ読むことを自分に課していた頃、最初の1年は4コマ漫画を毎日読んで訳すことにしていた。英字新聞社によって掲載漫画も異なるが、ニューヨークタイムズにはスヌーピーが出てくる「ピーナッツ」、デブ猫と飼い主の物語「ガーフィールド」、ビジネス世界の矛盾を風刺する「ディルバート」、中世の欧州を舞台にした「ウィザード・オブ・ID」、虎と子供の漫画「カルヴィン&ホッブズ」、政治漫画「ドゥーンズベリー」など6種類ほどあり、好きなものを選んで吹き出しを訳す、という手がある。
でも実を言うと僕が英字新聞を読み始めた当初はジャパンタイムズや毎日デイリーニューズ、デイリー読売などだった。米軍のぐーたら兵士の悲喜劇を扱う「ビートル・ベイリー」やロンドンのパブでビールを飲んでいるひもの男とその妻の物語「アンディ・キャップ」などだった。その日読みたい漫画で新聞を選ぶ、ということがよくあった。
「アンディ・キャップ」の場合はイギリスの英語でかつ俗語の使用など独特のニュアンスがあり、しばしば1日中、会話の訳を考えて夜を越したものだった。4コマ漫画だから簡単だろうと思っていると、そうでもなくて、むしろ、ちょっとしたやり取りのニュアンスがわからない、ということはよくある。そして、その会話を正確に訳す訓練は実はとても大きな意味があることだと僕は思う。そこには庶民のリアルな感情が息づいていて、しばしば文化の違いから、何が面白いのか一見わからないことがある。だからこそ、外国の人たちの笑いを理解することはコミュニケーションする上で替え難い大きな糧になるのだと思う。2〜3日考えてもわからない時は留学生に電話して落ちが何なのか、聞いたことも何度かあった。 (英米圏の文化に今日の日本人はかなり親しんでいるため、笑いのパターンもかなり蓄積されて理解されているけれども、スペインの新聞漫画になると彼の地の事情をよく知らないために理解するのはもっと難しくなる。)
ちなみにジャパンタイムズの活用法としては今後は日本から英文で世界に発信することが個人レベルでも当たり前に行われる時代が来るだろうから、それに備えて日本で起きている事象をどう英作文にするかのサンプルと思えば活用できるのではないだろうか。日本の新聞を読んでそれを英文にしたらどうなるか、その1つのサンプルとしてジャパンタイムズがある、こう考えることもできると思う。
■ニューヨークタイムズを10倍楽しく読む方法 その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702141919492
■ニューヨークタイムズの論説欄 〜魑魅魍魎の魅力〜 村上良太
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201107180344211
■ニュースの三角測量 その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612151601554
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