先に「原発は地球上にあってはならないもの」という論説を発表した(1)。大方は、ははあそんなものかと受け取り、それでおしまいとなっているものと思われる。それは、やはり、あの事故がもたらしている様々な災いが、大部分の日本の人には実感されていないことによるのであろう。さらに、困ったことには、多くの人々は、原爆犠牲者に対してあったと同じように、福島事故の犠牲者・避難者を排斥するような根性を持ち合わせているらしく、避難者がいじめられている。それは、原発事故とそれに由来する健康障害の実態を理解できていない、いや理解できないどころか知らないことに主な原因があると思われる。これは政府・福島自治体が、事故に基づく放射能汚染とその健康への影響の実態を、なるべく隠蔽しようと試みているからでもある。実に困った現状である。
しかるに、台湾では、福島原発事故の被害の過酷さとそれが自分達に起る可能性に目覚めて、原発廃棄を2025年までに実現することを議会で決定した。これは、台湾の現政権が、電力業界に依存していないことが大きな原因ではあろうが、大部分の政治家が、市民の声に耳を傾ける勇気を持っているからであろう。このことと対照的に、日本の政治家の大部分は、市民に耳を傾けるどころか、企業そしてそれに支配されている現政権の言われるままに動くだけであるのは非常に情けない。情けないではすまされない。彼らのやり方は、日本を滅ぼしかねないのである。
日本を滅ぼすという表現には、(あ)日本に住む人たちの多くに健康障害が起るだろうということの他に、(い)日本が財政的に破綻しかねないという2重の問題が含まれている。(あ)の問題に関しては、その基本は、先の論(1)で簡単に考察した。ここでは(い)の問題を議論してみる。
一番の問題は、福島事故の深刻さである。その深刻さ加減は、東電・政府の発表の仕方で隠蔽されている。未だに、事故の処理工程で、40年で処理しきれることを主張している。現実には、実際的な処理工程などできていない、いやできる状態にはないのである。というのは、事故の実態が把握できていないからである。4基もの原子炉が破壊され、1〜3号基では、もっとも危険な核燃料が融解してしまったが、それが、どのような状態でどこにあるかすらわかっていない。ようやく、最近になって、2号基(外見上爆発的な事故は無かった)の圧力容器(燃料棒が入り発熱する容器で、高圧に耐えるようにできている)の下部に穴が空き、燃料棒融解物(デブリ)は格納容器に落ちているらしいことが、ロボットからの撮影である程度わかった。しかし、どのぐらいの量がどんな状態で、どこに落ちているかまではまだわからない。しかも、格納容器のすぐ外側で、530 Sv/hrという高線量である。この線量がこの数値で継続しているとすると大変な高放射線量である。原爆の爆心地の線量は160 Sv(広島)、350 Sv(長崎)であったと推定されている。これは、総線量であり、どのぐらいの時間継続したのか不明であるが、爆発後1日ぐらいのトータルとすると、現在の530 Sv/hrというのはとてつもなく高い線量であり、融け落ちた燃料中で、核分裂反応が起きている可能性がある。即死線量は10 Svほどであるから、ここに1分間いるだけで即死である。これは、デブリそのものからではなく、そこから格納容器の壁を隔てての線量である。こんな高線量のデブリをどう扱うか。人類が未だかって経験したことのない事である。燃料デブリが、まだ格納容器内にあるのか、それとも、その底をすでに融かして、地中にも出ているのか。いや、現在は出ていなくとも処理の手はずが見つからずに時間が経っていけば、そうなる可能性がある。そうなったらどうするか。そんな経験は人類にはまだない。現在までの唯一の熔融デブリの回収の例は、1979年にアメリカペンシルバニア州で起ったスリーマイル島原発事故である。この場合は幸い、処置が早かったので、燃料は融けたが半分ほどであり、すべて圧力容器内に収まっていた。このデブリを取り出すのに、20年はかかった。
なお、以上の記述は、福島2号基一機のことである。爆発を起こした1号基、3号基でもメルトダウンしたことは明らかだが、デブリの捜査は、より困難であり、まだ何もわかっていない。これが、事故後6年の有様である。
チェルノブイリの事故機(4号基)は、デブリの撤去は困難として全体を石棺で覆ったのだが、30年後の昨2016年には、石棺が充分に放射能をカヴァーできなくなり、あらたに石棺の上に巨大な覆いを被せざるをえなくなった。これも100年もつかどうか保障はないそうだ。デブリからの放射線は、数千年から数十万年出続けるのである。
福島では、デブリの存在状態もわからないものが、3基もあるのである。現在は、どう処置して良いかわからないので、水を加えて冷却することは行っている。その冷却水は、回収できる部分もあるが、汚染されて海に注いでいる。保持するタンクは満杯であり、タンクを新たに設置する場所もほとんどなくなってしまった。保持した汚染水の除染作業は順調には行われていない。
こうした現状からみるに、40年で処理できるなどということはとても無理。1世紀いやそれ以上かかるであろう。しかもそれで、完全にクリーンな土地が回復できるかといえば、ほとんど不可能であろう。不可能ではあっても、できるだけのことはしなければならない。それにどのぐらいの費用がかかるか、とても想像もできない。東電の全資産をなげうってもできないであろう。したがって、国が費用を注がねばならない。ということは、国民の汗した税金を注ぎ込まなければならない。国の財政は破綻に追い込まれないともかぎらない。日本国民はどうなるか。以上の話しには、放射線の悪影響を受けたり、それを避けるために移住したりする人々に充分な補償をする費用のことは含まれていない。
なお費用に関して言えば、2016年3月(事故後5年)の時点で、かかった費用は約12〜13兆円と見積もられている(2)。除染費用に3.5兆円、廃炉費用に2.2兆円、賠償費が6.2兆円だったそうである。そのうち、東電が負担したのは20%ほどで、残りは政府(日本国民)が負担。これまでに、事故機の処理が何もできていないのにこれだけかかっているのである。融けた燃料デブリを安全に取り出し、それを安全に処理・保存し、高度汚染されている建物、土地その他をきれいにする;途方もない費用がかかるであろう。
福島原発の事故は、まず充分な処理をすることは非常に困難であるし、できる範囲でやるにしても、まともなやり方で、まずは企業が負担すれば、企業の倒産は免れない。それを避けるためには、一つは、政府が事故処理の費用を負担するーすなわち国民に払わせる。2つ目は国民の健康を犠牲にする。現在、政府は、帰還困難区域を充分に除染したとして、指定を解除し、住民を帰還させることに懸命である。どちらにしても、日本という国に大打撃を与えることになる。
福島原発の事故だけでもこれである。しかるに、現在の政府・電力企業は原発再稼働に躍起であり、原発製造業をアメリカ企業などから買い取った日本の企業を維持するために、海外へ原発を売り込もうと必死でもある。再稼働原発の安全性は、様々な理由で充分に考慮されていない。原発を運転する側の操作のズサンさもさることながら、活断層など、地震の可能性の高い場所に立地していることも含めて、今後も、事故の可能性が高いにも拘らずである。
すでに、原発は、他の電力に経済的に太刀打ちできないことは明らかになりつつあるし、台湾やいくつかの西欧諸国のように、福島原発事故から学んで、原発から撤退を決めた賢い国もある。おそらく、今後そうした国は増えていくであろう。日本は、そうした趨勢に取り残され、国民の健康は害され、財政的にも破綻する。
こう考えると、原発というものは、これ以上運転してはならないし、ましてや地球上に増やしてはならない(1)。それはあらゆる意味で、日本を、いや人類を滅ぼしかねないのである(3)。
原発は、核分裂反応の“平和的利用”とされている。しかし、この施設・ノウハウ・技術は、核分裂の軍事利用である核兵器製造に利用できる。現政権が、国民多数の切望する脱原発に踏み切らないのは、軍事利用の可能性を保持したいためと考えられている。核兵器の廃絶は、今年、国連で多数の国の要望で、真剣に実現に向けて動こうとしている。これに反対しているのは、現核保有国とそれに追従する日本などだけである。日本は、原爆の被害を受けた世界で唯一の国であり、核兵器廃絶の先頭を切ってしかるべき国である。核兵器が、今後使用されるとすれば、人類文明が破壊されることは、目に見えている。こんなことが、わかっていながら、そんな兵器をもしかしたら作るかもしれないので、そのために、原発はとっておかねばならないなどという馬鹿げた思惑で、国(も国民も)を破滅させかねない原発を維持しようとする政府は正気を逸している。もっと多くの人が、もっと大きな声で、脱原発の声をあげなければならない。そして、総選挙の場合は、全候補者に脱原発の意志を問い、その結果を選挙区および全国的に公表する。そうした問に答えるのは強制ではないが、問いに答える必要がないという意見も回答の一つである。ともかく、国民の声を上げるだけでは、日本の政治家のような人ばかりの立法府では、実際的な効果は残念ながらあまり期待できない。国政レベルにおける政治家を選択する必要がある。
なお、2月9日の東電の発表では、格納容器内の線量率は毎時650シーベルトという超高線量であることがわかった(http://www.asahi.com/articles/ASK29560FK29ULBJ00J.html?iref=comtop_8_05 )。
(1)http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611161337583 (2)http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10156747380 、その他 (3)「放射能は人類をほろぼす」(緑風出版社、2016) http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1623-1n.html
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