これは、表記の題名の書(1)の紹介である。これは「1万円札から福沢諭吉の引退を求める三者合同講演会」の記録である。この書の副題は「日本の近代化」と「戦後民主主義」の問い直し」となっている。
福沢諭吉は日本近代の民主主義・自由主義の先達と多くの人は思わされてきた(私自身も含めて)。実は、福沢はそれとは正反対の、帝国主義・人種差別主義の最たる人で、明治からの日本帝国誕生とそれを支え、間違った方向に日本を導き、太平洋戦争での敗北へと日本国を動かした原動力だったようです。それを、この書の著者達:安川寿之輔、雁屋哲、杉田聡は、福沢諭吉の著書からの直接の引用により示している。
現在、問題になっている森友学園の代表籠森氏の思想、それに敬意を表明している安部晋三夫妻、そしてその背景にある「日本会議」の思想などは、この福沢諭吉の思想の明らかな追従であることもあり、この表記の書は、多くの日本人に読まれるべきと考えるので紹介する。筆者は、先の「日本国という宗教」(2)という論で、明治から、帝国主義的意識や日本国体=天皇なる概念、周辺国民への蔑視がいかに日本人に植え付けられたかを論じたが、それを先導した中心人物が福沢諭吉であったのである。2、3の引用文を紹介するに止めるが、ぜひ全体を読んでほしい(118ページで1000円)。以下、各項目の最後の括弧内のページ数は、表記の著からの引用ページである。
(ア)1882年3月28日の社説(全集22巻)から;香港での観察・感想: 「英国人が東洋諸国を横行するのはまるで無人の里にあるが如くであった。昔、日本国中に幕府の役人が横行していたが、それよりも一層の威力と権力を振るっていて、心中定めて愉快なことだろう。我が帝国日本も、幾億万円の貿易を行って幾百千艘の軍艦を備え、日章旗を支那印度の海面に翻して、遠くは西洋の諸港にも出入りし、大いに国威を輝かす勢を得たら、支那人などを御すること英国人と同じようにするだけでなく、その英国人をも奴隷のように圧制して、その手足を束縛しよう、という血気の獣心を押さえることが出来なかった」(p50-51)
(イ) 日清戦争で、日本軍が平壌の闘いで清国軍を打ち破った時(全集14巻、570ページ):「今度の平壌の勝ちに乗じて北京まで乗り込んで降伏条約などいろいろ清国相手に談判することがあるようだが、私の目的とするところはただ国益の一方だけであった、目につくものは分捕り品にしてしまうほかはない。なにとぞ北京中の金銀財宝をかき浚って、相手が官であろうが民間であろうが区別なく、余さず漏らさずかさばらないものであれば、チャンチャンの着替えまで引っぱいで持ち帰ることこそ望ましい...」(p63)
(ウ)朝鮮人、中国人その他の蔑視(ヘイトスピーチ)の数々:「朝鮮は尚未開なり...遂に武力を用ひても其進歩を助けん」「朝鮮...野蛮国の悪風 ...」「東学党...烏合の衆」「卑劣朝鮮人の如し」「チャンチャン...皆殺しにするは造作もなきこと」「支那人を文明開化に導くなんと云うことは、コリャ真実無益な話しだ」「銭に目のないチャンチャン」「台湾の反民...烏合の草族...無知蒙昧の蛮民」などなど。(p41)
(エ)教育勅語について:「我が天皇陛下が我々臣民の教育に叡慮を労せられるるの深き、だれか感泣せざるものあらん...今後、全国公私の学校生徒は、時々これを奉読し、かつ、これが師長たるもの(=教師)も...生徒をして佩服せしむる(=心に留めさせる)ように、と提案する.そうなれば、仁義・孝悌・忠君・愛国の精神を煥発し、聖意ある所を貫徹せしむべし」(p95-96)
(1)安川寿之輔、雁屋哲、杉田聡著『さよなら!福沢諭吉』(花伝社、2016) (2)http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701180922253
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