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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年03月16日23時45分掲載
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文化
【核を詠う】(226)福島の歌人・波汐國芳歌集『警鐘』を読む(3)「放射線多きに住むを病葉(わくらば)の透きて見えくる命ならずや」 山崎芳彦
読んでいる波汐國芳歌集『警鐘』が第32回詩歌文学館賞を短歌部門で受賞した。同文学賞は日本詩歌文学館振興会などが主催してすぐれた詩歌(詩、短歌、俳句各部門)作品に対して与えられるものだが、波汐さんの歌集『警鐘』の受賞は、福島第一原発事故を踏まえて「文明の反人間的な暴走」に警鐘を発する短歌作品(3・11以後『姥貝の歌』、『海辺のピアノ』、『警鐘』の3冊の歌集を刊行している)に対する評価によるものと思い、この連載の中で3歌集をはじめ多くの波汐短歌を読んできた筆者の喜びは大きい。そして改めて『警鐘』をしっかりと受け止めなければならないと思っている。今回が「警鐘」の作品を読む最後になるが、前回抄出した「科学者ら希(ねが)うは核融合とう 陽のほかに陽をつくる事とう」、「陽の中ゆ核の盗人(ぬすっと) 滅びへの道馳せゆくを文明と言う」、「何でそんなに急いでいるの 人類の終(つい)がみるみる迫りて来るを」などの作品について、改めて注目させられることがある。核融合発電をめぐる動きである。
核融合発電の実用化を目的に研究をすすめている核融合科学研究所が3月7日に、核融合発電の実用化に必要な1億2000万度の超高温を実現するため、重水素を使った新しい実験を、岐阜県土岐市の同研究所で開始したことが報じられた。(YOMIURI ONLINE、3月8日付「核融合発電に向け重水素実験開始…完成・抗議も」) 記事によると「核融合は、小さな質量の原子核が融合して、別の種類の原子核に変わる反応で、太陽の内部で起きているといわれている。核融合発電は、この反応の際に放出されるエネルギーを利用する。同研究所は、これまで水素を使って、電子と原子核がばらばらになったプラズマの生成実験を繰り返し、2013年に達成した9400万度が最高温度だった。」「5月初旬には、目標の1億2000万度を目指すという。実験は9年間を予定している。」、「一方、住民グループ『多治見を放射能から守ろう!市民の会』はこの日、同研究所正門前で抗議集会を行い、約50人が『実験反対』のシュプレヒコールを上げた。同会は先月8日、『重水素実験は、放射性物質のトリチウムや中性子などが発生する危険な実験』として同研究所に抗議文を提出している。」などと報じている。
福島原発の事故が未だに収束せず、続いているというべき現状、人びとがさまざまな苦しみに喘ぐように核発電の事故被害のなかで生き、現在と将来を見通せないなかで、核分裂による発電を続けながら、次には核融合による発電があるというかのように、核融合エネルギー技術の開発推進を、政府・原子力機関が進めている危険な企みを、かつての原発推進を許してしまったように許してはならない。核融合を「地上の太陽」と呼び、無限のエネルギーを取り出せる技術だとして謳いあげて、核融合科学研究所を中心に、資源エネルギー庁、文部科学省、原子力委員会などが、国の予算を付けてプログラムを推進しているのだ。文部科学省は「核融合エネルギーは、長期的・安定的供給、環境、安全性等の観点で優れた特性を有し、その実現は人類共通の課題である。」とまで言っている。
この核融合発電炉計画について、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏(素粒子物理学)は、「物理学を学んできた筆者から見ると、核融合発電には致命的ともいえる欠陥がある。」ことを指摘し、かつて日本がITERを日本に誘致しようと計画した際には、当時の小泉純一郎首相宛に出した「嘆願書」の中で、「ITERの誘致を見直して下さい。」と訴えた。その中で、 「燃料として装置の中に貯えられる、約2キログラムのトリチウムは、わずか1ミリグラムで致死量とされる猛毒で、200万人の殺傷能力があります。これが酸素と結合して重水となって流れ出すと、周囲に極めて危険な状態を生みだします。ちなみに、このトリチウムの持つ放射線量は、チェルノブイリ原子炉の事故の時のそれに匹敵するものです。反応で発生する中性子は、核融合炉の10倍以上のエネルギーをもち、炉壁や建造物を大きく放射化し、4万トンあまりの放射性廃棄物を生み出します。実験終了後は、放射化された装置と建物はすぐ廃棄することができないため、数百年に亘り、雨ざらしのまま放置されます。この結果、周囲に放射化された地下水が浸透し…極めて大きな環境汚染を引き起こします。」と指摘している。(「ウィンザー通信」、2013年3月6日付より引用) また小柴氏は2001年1月18日付の朝日新聞「論壇」に「核融合炉の誘致は危険で無駄」と題して投稿を寄せている。
核融合発電について、筆者は専門的知識を持たないが様々な文献や知見に接した限りでは、原発と同じように危険な原子力エネルギーを人間の生きる社会に持ち込むものだと思わないではいられない。政府機関や核融合発電を推進している様々な情報は、もちろん原発の時のように「安全」、クリーン」、「無限のエネルギー」、「世界的・人類的に必要な優れたエネルギー」…などと宣伝を強めているが。
波汐さんは歌集『警鐘』の「あとがき」で「エネルギー問題で、科学者達の核開発の目標が『核融合』であって、今世紀中にその実用化が叶うといわれております。核融合反応とは太陽が光り輝くエネルギーを放射している原理であり、それを人類が手にするというのは空恐ろしいことで、アダムとイブの創世の始めから破滅への道を突っ走っていることに重ね、大きな視野で我々自身も罪科に加担していることとして己にも責めを問うのは原罪意識の短絡的な思い込みでしょうか。そして、こんなにも早く文明の終点が迫っているのを知れば震えないではいられません。」と、警鐘を鳴らしている。
その波汐さんの歌集『警鐘』を読む最終回になってしまったが、読み、記録したい。
▼嗤い(抄) 福島や風にほぐるる夕顔の花に嗤いの尽くることなし
柚子の木に柚子溢るるをセシウムの噫金色(あなこんじき)の嗤いと思う
舌見せて口あき山女(あけび)ああ被曝 自業自得(じごうじとく)と嗤ったような
ガラスバッチとう線量計を付くる日々怒りの嵩(かさ)も計られおりや
滅びへの径急(みちせ)く人を夕まぐれ嗤っているは柘榴の口ぞ
▼四季の譜(その二 抄) 雪が降る しんしんとセシウム降る音の虚(うつ)ろの中に引き込まれおり
この夕べ雪積む音に目つむればありありと立つ鬼火なりけり
セシウムを包み降る雪 頻(し)き降れば空がぽっかり空(あ)きしと思う
寒中を除染の足場組まれつつ家が震えつ われも震えつ
ふくしまに春待つ心 福島に深雪(ふかゆき)分けて道つくるなり
雪深野 「仮設」のひとへ虎落笛(もがりぶえ)吹き極まりて何奏でんか
被曝四年今年も待つを雪うさぎ本当(ほんと)の福島率(い)て跳(は)ね出でよ (雪兎は雪解け頃に現われる吾妻山の雪形)
虎落笛吹いて呼べ呼べ福島に残る歌たち戻り来るまで
被災後の銀杏黄葉(いちょうこうよう) 今ひとつ燃えよ起てよと揺すぶってみる
鴉、鴉ああと嘆きの一しきりこぼせば軽くなりて飛ぶらし
匂い立つ春山いくつ脈々と動かし初むるわが歩みなり
風が今フルート吹けば辛夷の花弾み弾むを自然(じねん)のこころ
除染とて削(そ)がるる庭が流ししをその血分けしや真椿(まつばき)の紅(こう)
福島の死者も交(まじ)るや落ち花の椿夕べを口つらねたり
除染とて削がれし木の枝すべすべにほら鶯の声がこぼれる
一頻(ひとしき)り除染の水を浴びしよりどうだん躑躅の朱こぼれたり
紅冴ゆる満天星(どうだん)明りに見ていたり被曝の心遣(や)り場のなきを
▼起ちあがる川(抄) 原発に失くしし町を呼ぶ人ら過去世(かこぜ)の方より来しも交りて
南天の実のくれないを揺りいるは鳥ぞや鳥のほかに又居る
遣り場なき汚染土庭に積まるるを妻は花植え笑み添うるとう
被曝地の福島びとにみちびかん雨後の川一つ起ち上れるを
▼炎の旗(抄) 汚染土の入れ替え庭に終えたれば花など植えて友を迎えん
ああ福島うつくしまなんて煽(おだ)てにぞ乗りて揺られて酔いたる人ら
フクシマよ起ち上れとや夕空に炎(ほのお)の旗を振る稲妻が
▼大滝(抄) 被曝後の日々を嘆きてつく息の著(しる)きも容(い)れんこの大滝や
大滝の華厳見放(けごんみさ)くる位置なればざぶりと空(あ)けよわが鬱をこそ
虹生(あ)れて大滝がふと透くものをおお福島の闇見ゆるなり
鬱の底 福島の底抜かんとぞ華厳の滝の轟音みちびく
▼稲妻(抄) 原発が追いかけくる…と詠みし道そを避難路となしし人らぞ
被曝五年 避難の列の長々と手繰り手繰るを尽きぬ奥処や
汚染土を覆うシートの蒼々と遠き稲妻ひらめく里ぞ
稲妻が闇に走るを福島の海が見えるか いのち見えるか
おお福島 チェルノブイリに凭れつつ傾きかけてこぼるるこころ
▼起つ証(抄) 福島産菜の茎立ちを食(は)む朝か被曝の日々より起つ証(あかし)とも
首都機能本気で容(い)れむと思いしやこの県統ぶる御人好したち
汚染土を除けんと咲かしし夕顔の花凋(しぼ)みたり口噤(つぐ)めとや
花火あぐ この大空を筒抜けにあげてもあげても抜けぬ鬱ぞや
草深野吾妻嶺(あずま)のマグマ率(い)て討たん今福島に仇なす者ら
セシウムは賊にしあれば討たんとぞ野火も率てゆく我が田村麻呂
▼続口語徒然(抄) 明日なんてあるのだろうか福島になかなか開(あ)かぬ痛みの扉(とびら)
ああ福島何処まで沈めばいいのだろう ずんずん高くなる水平線
福島に何が見えるか今其処で夕顔のはな嗤ったような
虎落笛泣きだしそうね今そこで遠退(とおの)く福島呼んでいるんだ
原発のメルトダウンに戻らない福島がああこんなに重い
今年また浜昼顔の花明り 被災ふくしまに何みえますか
▼急坂(抄) 泡立草 黄の波立ちて寄せゆかん原発爆ぜし町の虚(うつ)ろへ
ふるさとに風力発電所つくるとう頑張る風も電気起すや
メーデーのデモが組み行くスクラムに被曝われらのうた連ねたり
白内障術後の妻よ今一つ「フクシマ以後」の何が見ゆるや
空の塵セシウムの塵はたはたとヘリコプターがはたく昼です
▼SLの行く風景(抄) 息荒くSL行くをセシウムのある風景も呑みこんでゆく
化石館にアンモナイトの渦辿る 愛(め)でて辿れば核なき世ぞや
たった今起つ心ぞやひとしきりサルビアの紅陽(こうひ)に燃えたつを
▼塩屋岬(抄) 笹原の笹にたつ風ざわざわとセシウム変化(へんげ)が駆け来るような
被曝禍の重きに起てぬ街のなか はや春めきて起つ風のあり
セシウムに追われ追われて古里の塩屋岬の突端に佇(た)つ
▼吠えわたるまで(抄) 恐竜の化石が出でし福島に恐竜起ちて無垢の地呼ばな
想定外と人言わば言え ああ、あの日ざぶりと神が海こぼししを
白亜紀の双葉の地こそ呼び戻せ恐竜の口 炎を吐きて
放射線多きに住むを病葉(わくらば)の透きて見えくる命ならずや
文明の我がストップ論 成(な)らざるを言うこと勿れと妻に笑わる
原発事故 福島で良きと言う人へ火を吐く竜となりいる夕べ
波汐國芳歌集『警鐘』を、筆者の抄出で読み、記録させていただいてきたが、今回で終る。次回からは福島の歌人グループ「翔の会」の歌誌『翔』を読ませていただく。 (つづく)
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