フランスの大統領選が1か月後に迫ってきた。フランス大使館によると4月23日(日)に第一回投票。2週間後の5月7日(日)に上位2名で決選投票が行われる。選挙運動期間はおよそ1か月間。これはアメリカの大統領選に比べると圧倒的に短い。しかし、任期は5年間とアメリカより1年長い。最終的に候補が確定するのは第1回投票に先立つ遅くとも3週間前の金曜日だという。
「選挙運動は第1回投票に先立つ2週前の月曜日に開始し、投票日前日午前0時に終了します。」(フランス大使館のサイトより)
現在の主な候補者
ブノワ・アモン (社会党連合) フランソワ・フィヨン(共和党連合) エマニュエル・マクロン(始動) マリーヌ・ルペン(国民戦線) ジャン=リュク・メランション(左翼戦線:左翼党・共産党)
※当初出馬を予定していたヤニック・ジャド(ヨーロッパエコロジー=緑の党)候補は社会党のブノア・アモン候補を支持するために退くことを発表した。
この5人が先日3時間にわたるTV討論会(放送局はTF1)を行った。フランス大使館の説明が正しいとすれば、これは公式の「選挙運動」には入っていないらしい。もちろん、すでにこれまでにも様々な候補者は自分の考えをラジオなどで語ってきた。興味深いのは5人の候補者一人一人が話した時間が計測され、ボードにまるで将棋の対戦のようにタイムが表示されていくことだ。
https://www.youtube.com/watch?v=VYXhy7Om0gs
2017年の大統領選挙の最大の話題は極右政党の国民戦線から大統領が生まれるか、ということだ。マリーヌ・ルペン大統領誕生なるかどうか。フランス大統領選の予備選挙も終え、投票が迫ってきたところで、いろいろ波乱含みの選挙であることが見えてきた。
最大の波乱要因は本命視されていた共和党のフランソワ・フィヨン候補が妻に架空公務を割り当てて長年高給を得ていた疑惑が報じられ、イメージが大幅にダウンしたことだ。フィヨン候補は決選投票に出られないのでは、という観測も出ているほどである。
一方、社会党ではオランド大統領が再選を目指さないと宣言したことで当初は本命視されていたマニュエル・バルス候補が予備選でブノワ・アモン候補に敗れたことだった。アモン候補はバルス氏やオランド大統領よりも左の立場で、去年党内でも反対を呼んだバルス首相が力づくで可決させた労働法改正には反対の立場を取っているようである。さらに、国民に生活の最低保障するため一定の基礎的な生活費(ベーシックインカム)を配分する、と訴えているらしい。しかし、アモン候補は認知度がイマイチ高くないこともあり、決戦に進めるかどうかが案じられている。ヨーロッパエコロジー=緑の党の候補だったヤニック・ジャド候補は退いてブノア・アモン候補を支持することを決めた。
今回の選挙で健闘しているのがバルス内閣に入閣していたエマニュエル・マクロン元経済・産業・デジタル大臣だ。社会党からではなく、独自の政治組織「始動」を立ち上げて他党がまだ予備選をしている間から盛んにしてPRしてきた。フランソワ・フィヨン氏の思わぬ低迷もあって、人気トップを走るマリーヌ・ルペン候補につけている。ということは決選投票でマリーヌ・ルペン候補に勝てるとも見られている。
マクロン氏が健闘していることは既存の2大政党だった社会党と共和党が陥没傾向にあることを意味する。その意味では波乱を呼んだ去年のアメリカ大統領選に似ていないこともない。マクロン氏は金融界出身で財界よりだが、フィヨン氏よりは左の立場と見られており、極右政党に勝てる候補という見方がある。
現在、与党である社会党や左翼党・共産党、さらには環境政党などは右派政党や極右政党に勝つためには一枚岩になる必要があるが、社会党と左翼連合(左翼党・共産党)で割れており、共倒れになる可能性もある。もし、アモン候補が退いて左翼がメランション候補に一本化すればメランション候補とマクロン候補の決選投票の可能性もあると言う。メランション候補はもともとは社会党の党員だったが、のちに離党してより左の左翼党を立ちあげ党首になっている。メディアに頻繁に出ている政治家であり知名度は抜群にある。ただし、メディアで訴えている政策を実現できるかどうかを疑う人も少なくないようだ。
極右政党だった国民戦線がここまで伸びてきた理由は二代目党首となったマリーヌ・ルペン氏が先代の強面からソフトイメージ路線に切り替えて、発言にも用心深くなってきたことや二大政党下でフランス経済が中々改善しなかったことである。
さらに言えば、共和党(当時は国民運動連合)のサルコジ政権の時に行ったリビア侵攻およびカダフィ政権転覆のつけでフランス内外でイスラム原理主義勢力による報復テロが増えたこと、さらに社会党のオランド政権でも引き続き「テロとの戦い」をアフリカや中東で行ったためにパリ首都圏でテロ攻撃を受けたことなどの敵失がある。 二大政党に飽き飽きした人々がマリーヌ・ルペン候補に一度任せてみたい、と思っているのである。しかし、エマニュエル・マクロンという、やはり二大政党の枠外から立候補した人物が後ろにつけており、次第に支持を伸ばしている。マリーヌ・ルペン候補は反EUを標榜しており、一定の人々を惹きつけているが、しかし、経済のかじ取りができるのか不安視する声もある。もし1回目の投票でマリーヌ・ルペン候補がトップでエマニュエル・マクロン候補が2位につけて、二人の決選投票になった場合、マクロン候補が左派と右派の半分を勝ち取り逆転勝利になる、と見る見方が報じられている。いずれにしても今年の大統領選は例年と異なり、目が離せない。
村上良太
※フランス大統領選挙(在日フランス大使館)
http://www.ambafrance-jp.org/article5401#t-b702 ・選挙運動費用は公的資金と民間資金により調達し、大部分は政党から出されます。しかしながら、いくつかのルールを順守しなければなりません。個人献金は4,600ユーロまで。第1回投票のための支出上限額は1,685万1,000ユーロ、第2回投票は2,250万9,000ユーロ
・公式期間以外も、発言・放送時間が監視されます。メディアは、立候補予定者間の公平性の原則を順守しなければなりません。さらに発言時間の平等性の原則(候補者・支持者対象)、放送時間の平等性の原則(メディア対象)を、適用しなくてはなりません。
■Yannick Jadot se retire de la course a la presidentielle et rallie Benoit Hamon
http://www.lemonde.fr/election-presidentielle-2017/article/2017/02/23/yannick-jadot-se-retire-de-la-course-a-la-presidentielle-et-rallie-benoit-hamon_5084560_4854003.html
■ヨーロッパエコロジー=緑の党(EELV)地方支部長に聞く 〜その3〜 来年のフランス大統領選とBrexit (英国のEU離脱 )について Interview : Nadine Reux, Secretaire regionale EELV Rhone-Alpes
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201611111331235
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