原題の「サフラジェット<Suffragette>」のことを知らなかった。女性参政権の闘いは日本では平塚らいてふという素晴らしい先人がおり、市川房枝さんもその後を引き継いだ。赤松良子さんはお元気でクオータ制を日本に導入する運動を永年続けられている。しかし日本の女性の地位は世界経済フォーラムの発表では144ケ国中111番目(2016年10月)という不名誉なことこの上ない。安倍政権になって毎年順位を落としているのが実態。
※オリジナル・トレイラー
https://www.youtube.com/watch?v=056FI2Pq9RY
<あらすじ>
1912年ロンドンが舞台。モード・ワッツは夫と同じ洗濯工場に勤め、幼い息子を育てながら慎ましく暮らしていた。ある日、ショーウィンドーを眺めていると、「女性に参政権を!」と叫びながら女たちが目の前のガラスに投石を繰り返した。事態が飲み込めずにいたが、病気がちな息子を無料で診察してくれる女医や洗濯工場の新しい従業員たちから「サフラジェット」という女性参政権運動を知る。誘われて議会で開かれる公聴会を聴きに行くがひょんなことからモード自身が発言することに。用意された原稿ではなく質問に答える形で自分の言葉で語り始める。「洗濯工場で生まれ、7歳から働いている。今24歳だが、洗濯女は短命です。体は痛み、咳がひどく、指は曲がり、足は潰瘍に火傷、ガスで頭痛持ち、賃金は週13シリング。男性は19シリングで労働時間は3割も短い上、配達中心で外にも行ける」選挙権についての意見を聞かれると「ないと思っていたので意見はありません」ではなぜここに?「もしかしたら‥‥他の生き方があるのではと‥‥」この公聴会を受けて議会は討議したが結論は彼女たちを打ちのめした。
<エミリーの死・先鋭な闘いと獄中>
それまで50年闘ってきたリーダー、エメリン・バンクハーストは彼女たちに先鋭的に闘うよう演説をし、彼女たちは郵便ホストに爆弾を投げ込んだり、電話線を切断したり、建設中の大臣の別荘を爆破したりと直接行動を起こしていく。抗議行動に参加して逮捕され、工場をクビになったモードを夫は許さず、家から追い出し息子にも会わせないばかりか勝手に養子に出してしまう。心の拠り所すら奪われたモードは英国王が参加するダービーで国王に直訴する計画に加わるがパドックに入ることができない。同行のエミリーは出走中の国王の馬の前に身を投げ出し命を賭して訴えた。エミリーの葬儀は大々的に行われ、モードは参政権運動の仲間の13歳の娘を洗濯工場から連れ出し、議員の妻に託す。この少女はモードがかつてそうであったように、工場主によって性的虐待をされていたのだ。セクシャルハラスメントのシーンでモードはさりげなく部屋に入り邪魔をする。そんな抵抗が精一杯だった時代にいきなり投げ込まれるほどの強烈なシーンだった。
モードは創作の人物だが、エミリーやエメリン・バンクハーストは実在する。彼女たちの過激な行動を非難するのは簡単かも知れないが、モードが夫に「もし、女の子が生まれていたら名前は何にした?」「マーガレットさ。母の名前だ」「どんな人生かしら?」「お前と同じ洗濯女さ」」この夫の言葉が彼女を奮い立たせた。男性が作った男性のための法律を守るよう強いられていた時代、彼女たちの行動を非難することはできないし、彼女たちに義務だけを課し彼女たちを守ってくれない法律を守る理由が果たしてあるのだろうか。
<サフラジェットの闘いと平塚らいてふ>
日本では馴染みがなかった「サフラジェット」だが、イギリスやアメリカではテレビドラマに度々登場している。NHKでも放映されている「ダウントン・アビー」。映画「メリー・ポピンズ」のバンクス夫人はサフラジェットの歌を歌う場面がある。元々サフラジェットという言葉は女性政治社会連合(WSPU)に属する女性をあざ笑う言葉としてメディアに登場したが、彼女たちはそれを活用し、suffra GETtesとGを強調して発音し、投票したいだけでなく権利を勝ち取るのだとこの言葉を広めていった。これは、平塚らいてふが、「新しい女」と非難された際、それを逆手に取って「私は新しい女である」と中央公論に寄稿しているのと同様である。サフラジェットは、集会をする度に警官から暴力を振るわれ逮捕され投獄されていく。彼女たちは政治犯として扱うよう獄中闘争をする。イギリスでは政治犯は自由な面会や差し入れ書籍や記事の執筆まで許されていたが、窃盗や凶悪犯は権利を剥奪されていた。彼女たちはハンガーストライキを続け抗議するが、殉教者と祭られるのを恐れた警察は強制摂食をさせた。体を縛りつけ、チューブで口や鼻から入れられる流動食は誤って、または故意に気管に入れられ胸膜炎や肺炎を起こした。彼女たちは精神的に追い詰められても負けず、警察の方が根負けし、ハンストを続けた彼女たちを一時的に釈放し体力の回復を待ってまた収監するという「猫とネズミ法」と呼ばれる法律を制定。彼女たちはハンストをした収監者には緑白紫の3色のリボンがついた勲章を授与、そのリボンには、ハンストの数だけバンドが止められていた。映画の冒頭部分で息子の治療をしてくれる女医のコートの襟に止められた勲章を触るモードの印象的なシーンがある。強制摂食はこの法律でなくなった訳ではなく、抵抗を繰り返す女性は釈放させず、強制摂食が続けられた。この「猫とネズミ法」に対抗するため、また集会に参加しただけで200人もが警察に暴行を受けた経験から彼女たちは「ボディーガード」と呼ばれる女性の一団を創設。集会の際、演説するリーダーたちを守るため訓練も行った。映画にもメリル・ストリープ扮するエメリン・パンクハーストを守る女性たちが描かれる。女性たちが自らのリーダーを守るために組織したのが「ボディーガード」の発祥とはなんて素敵な話。映画では、大声で威嚇し棍棒を振り回す警官の姿とちょっとおしゃれして目配せやささやき声で素早く行動する彼女たちの比較が際立っていた。
<女性参政権とクオータ制>
イギリスでは、その後1918年に30歳以上の女性に参政権が与えられ、1925年に母親の親権が認められ、1928年に男女平等の選挙権が実現する。最も早いニュージーランドは1893年だが、アメリカ合衆国が1920年、日本は1946年、サウジアラビアに至っては2015年。ブルネイは未だに認められていない。人種差別がなくならないアメリカでアフリカ系男性に参政権が認められたのは1870年、女性参政権のはるか50年前。オバマ大統領が誕生したからと言って次はヒラリー大統領が誕生する訳にはいかないようだ。
女性の権利は参政権だけではなく全ての権利でまだまだ壁がある。映画では、家を追い出され、幼い我が子に会うことすら阻まれ、その上養子に出されてしま雨が、その頃イギリスでは、女性に子どもの養育権が認められておらず異議を唱えることもできなかった。それは日本も同様、家父長制が存在し、戦後現憲法を元に民法改正が行われようやく女性は男性と同等に近い権利を得た。
最近政府は、選挙の立候補者の男女比率を平等にしようと動き出したが、本来なら世界100か国以上で制定されている「クオータ制」を導入し、男女同数を制度化し、罰則規定も盛り込むべきところ。努力目標だけを掲げているのは、単に選挙目当て。 そしてその後に待っているのは、憲法改悪。その柱は9条ではなく、24条の家族、婚姻等に関する基本原則だと言われている。自民党草案では、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない」としており、主な議論として「家族を扶助する義務を設けるべき」「婚姻・家族における両性平等の規定は、家族や共同体の価値を重視する観点から見直すべき」「近代憲法が立脚する個人主義が我が国においては正確に理解されず、利己主義に変質させられた結果、家族や共同体の破壊に繋がってしまったのではないか」<平和研西垣淳子氏のレポートから抜粋>
これはまさに、女性の権利を剥奪し、かつての家父長制の中に押し込める法律であり、安倍晋三内閣の閣僚の75%の15名が家族制度の強化を最も太い柱として掲げている日本会議所属であることを考えると大きく符合する。 冒頭日本の女性のジェンダーギャップが111位であると書いた。この順位を発表している世界経済フォーラムは4つの指標で評価しているが日本は、健康と生存率40位、教育76位だが、政治参加103位、経済活動への参加と機会では118位なのです。これは女性の賃金格差が前年より更に広がったことが原因です。細目の中で見ると、国会議員における男女比率は122位、官民の高位職における女性比率も113位と。日本の女性は長生きをし、教育の機会は与えられるが、仕事や地位を掴むチャンスは与えられない、ということが見えてくる。
<市民運動こそ女性にチャンスを>
私は、3.11以降、「女たちの一票一揆」という団体を数名で立ち上げ毎月、脱原発に向けての直接行動や院内集会をし、自民党から共産党まで女性国会議員に参加を促し交流をしたが、諸般の事情で1年間で幕を閉じた。その後は、市民集会などでパネラーを男女同数にするよう呼びかけをしている。が、殆どの反応は「活躍している女性がいない」「女性専門家がいない」という返事。これではいつまで経っても女性の地位は向上しない。決定権のある男性が女性に道を切り開かなければ、女性は活躍できない。更に「女性が大臣になっても稲田とか、高市とかろくなことにならない」と言われるが、男性大臣だってろくな人はいないし、彼女たちは意図的に機会を与えられたに過ぎない。 女性たちが社会的に添え物でない時代は男性の協力なしには達成できない。
※季刊「現代の理論」から転載
木村結
■映画「未来を花束にして」のホームページ
http://mirai-hanataba.com/
■映画「太陽の蓋」と「シン・ゴジラ」が描く日本 木村結
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702272352151
■大学を拠点にした調査報道の始まり ワセダクロニクル 木村結
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201702231212494
■4大学のメディアゼミの合同発表会を聴きに行く 木村結
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701092247131
■東電株主代表訴訟. 事故調査委員会で聴取された文書の開示要求を裁判所は認めず 木村結
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■メディア観戦を続ける意味 木村結
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201610291322486
■映画「日本と原発」はもうご覧になりましたか? 木村結
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■特攻隊の生き残りだった父を想う 木村結
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603111133515
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http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201604060207223
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■「マスコミを味方にしよう」プロジェクト 木村結
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