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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年04月16日13時33分掲載
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文化
【核を詠う】(229)福島の歌人グループ「翔の会」の歌誌『翔』の原子力詠(3)「列島は難破の船ぞ福島の避難の民は今も散り散り」 山崎芳彦
歌誌『翔』の原子力詠を読み、記録させていただいてきて、今回で終るが、作品を読むほどに、福島歌人の短歌をとおして福島原発の事故がもたらした被災が6年を経てなお、ますます、人々の生活に深い苦難を及ぼしていることを思わないではいられない。原発事故によって受けた被害は、避難指示によって避難を「強制」された人びとはもとよりだが、避難指示対象区域外からの自主避難者、さらに避難せずとどまって生きる人々にとっても、さまざまに深刻なものだった、いや今も深刻であることを、これまで読んできた短歌作品は伝えている。政府や原子力関連産業界、原発再稼働推進勢力が原発事故被害者の被害の実態をまともに受け止めることなく、したがって求められる対応をすること無く、さまざまに加工された数字を並べ、人間なき復興計画を描き出しているなかで、今村復興相の「暴言」ではない本音が露わになったのだ。あの非人間的な発言は、今村大臣固有のものではなく、現政権、原子力推進勢力の「本音」の一片なのだろう。
原子力社会の維持、推進、従って原発の再稼働促進を進める原子力産業界の総本山ともいえる「一般社団法人・日本原子力産業協会」(会長・今井敬経団連名誉会長、会員数424社・団体)が4月11〜12日に開いた「第50回原産年次大会」において、今井会長は所信表明の中で、「過去の原子力を振り返る」として同会の第1回大会が開かれた1968年からの歴史を日本の経済成長の推進力を支えた原子力エネルギーを謳歌した上で、原子力をめぐる現在の状況について「2011年3月に福島第一原子力発電所の事故が発生し…エネルギー政策をめぐる議論は紛糾し、日本政府はエネルギー基本計画において原子力を『重要なベースロード電源』としながらも、脱原子力を求める国民世論を踏まえて、原子力依存度は『可能なかぎり低減する』ことを決定致しました。また、わが国の原子力発電所は、順次、運転を停止して新規制基準への適合性審査を受けることになり・・・現時点においても未だ、再稼働したプラントは、わずか5基にすぎません。」と述べながらも、 「わが国の原子力発電はこのまま衰退していくことにはならないと、私は思います。わが国のエネルギー需給は依然として海外から輸入した化石燃料に大部分を頼っており、安定供給の面において準国産エネルギーである原子力発電の重要性はいささかも変わっていません。原子力発電は『安全性』を前提とした上で、依然として極めて重要な電源であり、我が国にとって欠かすことのできないものです。」と原発の重要性を強調した上で、 「政府には原子力発電の重要性を国民にしっかりと説明していただくとともに、わが国が将来にわたって原子力を活用し続ける意思を、明確に示していただきたいと思います。」と政府に注文をしている。さらに「(世界各国の原発計画に触れ)わが国が持つ、これまでの建設・運転の経験、福島第一原発事故の教訓等を踏まえた技術や知見が大いに期待されています。」と原発の海外輸出を進める安倍政府との連携について言及している。
この今井会長は、1月の日本原子力産業協会主催の「原子力新年の集い」における会長挨拶では、高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じた大津地裁判決に対して、「高度な専門性を要する原子力発電の分野において、国の決定が地方裁判所の判断によって覆されて、本当によいものでしょうか。」と司法判断に対する不当な批判を行なったり、地球温暖化ガス排出規制に結びつけて、「原子炉の40年超運転に加え、原子力発電の新増設が欠かせない。」との主張を行なった人物であり、経団連名誉会長として安倍政権の重要なパートナーとして影響力を持っていることを思うと、このような「原子力推進勢力」を背景として、東京電力が、「福島への責任を果たすためにも柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を2019年にも実現」などという、無責任な計画を打ち出し、再稼働に反対する県民によって選任された米山知事に再稼働同意を迫ろうとしていることのあまりの理不尽を許せないとも思う。
福島原発事故から6年が過ぎて、政府と原子力推進勢力の手段を選ばない原発再稼働・復興という美名のもとでの福島の現実隠し、の策動にギアがかかっていることを見過すことはできない。福島の歌人の短歌作品はそのことを訴えている。
◇『翔』第56号(平成28年8月発行)抄◇ デブリとふメルトダウンの塊が原子炉のなか今も息づく 原発の事故の始末に七千の人ら通ふをまほらと呼ばむ 安全への過信が生みし赤びかり原子炉の底にデブリ息づく 人間の過誤の燠火を眼裏に原発沿ひの道を急ぎぬ デブリとふ処理の術なき核廃を傍へにわれら生きるほかなし 十万年の核廃物と借財を子孫に残す国のありけり 福島の事故を忘れて再稼働営利のひかりに眩む人ら 原発の事故の風化を早めつつ次回の事故のページめくらる 列島は難破の船ぞ福島の避難の民は今も散り散り 若き人戻らぬ避難区域より綿毛飛ばすかたんぽぽの花 (伊藤正幸)
この先は帰還困難区域とぞ通行止めの標識あはれ ホバリングしながら蓮華に寄る虻をそらして除染の鍬振り下ろす 幾万の特徴を持つ花が咲く地球も寿命の尽きる日ありや (桑原三代松)
原発のメルトダウンに陽炎のゆらゆら歩む影無き人ら 被曝五年月下美人のしたたかさ何でも来よと花ひらきたり セシウムに負けてたまるか薇のト音記号に沸き立つ心 福島にほんとの海が戻らぬを雨ひとしきり乱打のピアノ 福島や漁の叶はぬこの海に鷗らの声反り返りたり 被曝地に生くる証しか一すぢに宙をし攀づるのうぜんかづら 避難して人戻らぬをすかすかの街に他界も透きて見ゆるや ひとも町も攫って来てや原発の送電塔が大鷲となる (波汐國芳)
片仮名の「フクシマ」の意味忘るまじ躓くなかれしくじるなかれ 五年経て漸く泣けると被災者の洩らす言葉をま一度つなぐ 大地震になぶられゐるも黙深く翁は鍬をしけじけと見つ (三瓶弘次)
被災より五年が経ちし山畑に植ゑむと選ぶ馬鈴薯の種 都心より高速道路をもどる娘に霧深ければい寝がたくをり 大統領の肩書持ちてヒロシマに立つオバマ氏の眉間の皺よ 投下より七十余年の歳月ぞ被爆者の肩を抱くオバマ氏 (橋本はつ代)
原発の煮え湯喉元過ぎざるに再稼働をば急ぎ説く人 猛獣の如き原発飼ひたれど躾つづむる原子力ムラ 深々と掘りたる庭に一トンのフレコンバッグ五十が眠る 復興は福島も峠越したりと見切る時をば探る人出づ わがむらの仮置き場所の選定に太き絆がやせ細りたり 炉心溶融の基準をひたに隠しつつ想定外とうそぶく人ら 凶続く原子力ムラのあたりにはエピメテウスの末裔ゐるや セシウムの減りたることを願ひつつ大根の種多目に蒔きぬ (児玉正敏)
わが家の巡りの除染終はれどもまだまだ心安けくあらず 除染とて花も植ゑざるわが庭に戻りて来しか鶯の声 (紺野 敬)
訪ひ来れば飛鳥の山に滝桜三春の里を恋しと咲けり 細き枝しならせて咲く滝桜花冷えの夜に人を恋ふるも 除染ゆゑ木木の失せたる里山に止り木探すか小鳥らの声 除染後に客土入れたる所より萌ゆる新芽よ杉菜の子ども 今年又三・一一近づきぬ心ゆさぶり春の雪降る (古山信子)
原発の放射能汚染の町ありて人影もなく風吹くばかり (渡辺浩子)
測るだけ測りて除染せぬ庭にアスパラガスの伸び来るを待つ 大地震の時間の話題に逸れてゆく黙祷前の役員会議 (岡田 稔)
大地震の余震の記憶薄れしがまだ最中なり放射線の恐怖 交響曲『悲愴』のごとき心もて福島の大地駆けてゆかんか 昨年まで土筆の生えし庭の隅除染終ればあとかたもなし 店先にみづみづしかる楤の芽のやつと見つけしふるさとの春 (鈴木紀男)
熊本の地震続けば三・一一の惨甦り震へ止まらず 熊本の地震に波立つわが胸か原発なくて本当に良かつた 原発の被災いつ迄わが死後も延々と続くや哀れ福島 わが庭の色とりどりの花の中汚染土の山汚点のごとし 被曝五年未だ福島の山菜にセシウムあれば姿見られず 雪消えし吾妻の山に夫ときて蕗を採りしは温き思ひ出 セシウムの未だ消えざるわが庭に朝採り野菜笑む日のありや 家中にキャラブキの香り溢るる迄長野の友ゆ春をいただく (波汐朝子)
◇『翔』第57号(平成28年11月発行)抄◇ 川向かう渡ってしまへばあのときのわたしの記憶消せるだらうか 廃炉さへ覚つかなくて福島の海は無慈悲にさらされてゐる 原発を止めぬ人類よ海原の抱擁力の限りを知るべし (中潟あや子)
原発に追はれ追はるるを街路樹の辛夷が其処で笑ったやうな セシウムに汚れ汚れて阿武隈川 花の笑みさへ浮かぶる術なし 福島に原発汚染水汲む井戸の汲んでも汲んでも尽きぬ怖れや 汚染土は置き去りのまま此の道のよぢれよぢれて行く先みえず 廃炉への道なりといふ常磐線復旧ならぬに重なり見えて 原発の事故後を農より野良仕事取り上げられし兄の終はや (波汐國芳)
セシウムを除く効果のあるなしを立ち枯れゆきし向日葵に問ふ ほとぼりも七十五日で冷むる民「再発防止」も七十五日か (三瓶弘次)
核実験成功せりと北鮮の男の拍手に目をそむけたり (橋本はつ代)
小春日の除染終へたるわが庭に季節外れの蝶蝶が舞ふ 自主避難の傷癒えたるやわが庭に蝶追ひかくる幼き姉妹 黒光る汚染土の袋重機もて埋むるを見つつ何か小暗し 研究と言ひて被曝地ふくしまを調べ調べて何が見ゆるや 天戸川の岩魚のセシウム基準値を超えたるままにまた夏が来る 裏庭に埋め置かれたる汚染土の掘り出す日を知る人ぞなし いちどきに風評払ひ風化止む二兎追ふやうな福島のいま 原発の事故がなからば伐ることのなき桃の木ぞ五年目の冬 戻る人戻らぬ人と迷ふ吾娘自主避難者の胸に凩 (児玉正敏)
巣の藁に吹き来る風音聴きながら燕よ知るやセシウムあるを 大いなる汚染土置き場成りしとふ市民憩ひの信夫山にも (紺野 敬)
ふくしまの凍土のなかゆ萌え出づる水仙の芽に励まされをり 震災後六年目の朝うぐひすの早も来たりてふくしまに春 復興へ五年の歳月過ぎゆくにうぐひす鳴きて励ますごとし 原発の事故より五年の山桜その幹深く汚染記すや (渡辺浩子)
まう一度咲く季あらば浜茄子よ被災の浜に汝と咲きたし 深深としき降る雪に目をやれば福島の鬱を埋めくるるか (畑中和子)
汚染土の山隠さむと巡らせし夕顔の蔓がわが庭を占む セシウムの底わ尽きむかわが庭の枇杷に金色の実が溢れたり 庭の辺を歩む雀らよろめくかセシウム入りの枇杷食みしゆゑ セシウムの無き庭戻るは何時の日ぞ朝採り野菜の味を思へば 被爆せし広島に癌の多きこと被曝福島に諾ひてをり (波汐朝子)
歌誌『翔』の原子力詠を読み、記録してきたが、今回で終る。原子力詠として筆者が読んだ作品のみの記録としなければならなかったのは、本当に心残りで、心打たれる多くの作品を読ませていただいた筆者は幸いであったと、「翔の会」の皆さんに感謝を申し上げたい。
次回からは福島県歌人会発行の『平成二十八年度版福島県短歌選集』(平成29年3月発行)から原子力詠を読み、抄出させていただく。 (つづく)
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