フランス大統領選挙の第一回目の投票日は今度の日曜日、4月23日です。4月16日と17日に行われた最新のアンケート調査(11600人が対象)の結果ではエマニュエル・マクロン候補がトップを走っている。以下はトップ5候補の状況。
マクロン (始動!) 23% マリーヌ・ルペン (国民戦線) 22.5% フィヨン (共和党) 19.5% メランション (左翼党) 19% ブノワ・アモン (社会党・環境政党) 8%
※フランス政治研究センター(CEVIPOF)調べ(ルモンド紙)
http://www.lemonde.fr/election-presidentielle-2017/article/2017/04/19/plus-d-un-quart-des-electeurs-toujours-hesitants_5113314_4854003.html
さらに2回目の決戦投票での組み合わせ別に調べたアンケートではそれぞれの勝敗予想は次のようになっている。
勝ち 負け
マクロン 61% > ルペン 39% マクロン 64% > フィヨン 36% フィヨン 55% > ルペン 45% マクロン 57% > メランション 43% メランション 57% > ルペン 43% メランション 58% > フィヨン 42%
これを見ると、マリーヌ・ルペン候補(国民戦線)はたとえ決選投票に残れたとしても勝ち目がない結果となっている。一方、最も当選に近いのはマクロン候補だろう。そして、今のままで行けば左翼党のメランション候補と社会党のブノワ・アモン候補はともに決選投票に残れない可能性が高い。そうなると、いずれにせよ、中道から右派同志の闘いとなる。だが、社会党のブノワ・アモン候補が撤退して左翼党のメランション候補に協力すれば少なくとも左翼連合は決選投票に残ることができるだろう。
こうしたことから実は第一回投票の2週間前に社会党のアモン候補に向けて、選挙戦から身を引いてメランション候補に一本化していただけないか、と公開書簡を書いた人がいた。パリ大学で現代哲学の教鞭を取っているパトリス・マニグリエ准教授だ。公開書簡はフランスの左派の新聞であるリベラシオン紙に掲載された。以下はマニグリエ氏のメッセージの一部である。
”dans la situation ou nous sommes, il semble clair que votre campagne n’a pas su convaincre les electeurs. Certes, vous me direz que les sondages sont incertains, qu’on a toujours des surprises, etc. Mais vous savez bien que, si les sondages ne peuvent pas predire l’avenir, ils donnent en revanche du present une image assez exacte ; et surtout, ils ne se trompent jamais du point de vue des tendances. Or les tendances ne laissent aucun doute : votre candidature s’effondre, celle de Jean-Luc Melenchon explose. A deux semaines de l’election presidentielle, nous ne pouvons pas nous abuser nous-memes en nous faisant croire a un retournement. Vous perdrez, et vous perdrez durement.”( Patrice Maniglier, philosophe )
「私たちが置かれている状況を考えてみると、あなた(=ブノワ・アモン氏)の選挙運動は有権者の心を十分にとらえてはいないことが明らかになったように思われます。もちろん、あなたは(誰が大統領に当選しそうかを調べる)アンケート調査などには確固たるものはないし、結果はいつも驚きに満ちているのだ、などと言うことでしょう。確かにアンケート調査が未来を予言することができないとしても、現在の状況をある程度表してはいることはあなたもご承知のはずです。とりわけ、アンケート調査は現時点でのトレンドを如実に表しているのです。そしてそのトレンドは疑いの余地がなくこう告げています:あなたの陣営はすでに崩壊しており、一方、(左翼党の)ジャン=リュク・メランション候補の支持は急増中だということです。大統領選(第一回投票日)まであと2週間です。この先で事態が急転するなどということを信じて惰眠をむさぼっている余裕などありません。あなたは敗北するでしょうし、その敗北は惨めなものになるでしょう。」(パトリス・マニグリエ、パリ大学ナンテール校准教授・哲学者)
実は公開書簡はもっと長いもので、マニグリエ氏が撤退を勧めるアモン氏に対して十分な敬意を表していることもここに記しておきたい。
さてアンケート調査を見ると、もしアモン候補が勧めに従って辞退し、左派がメランション候補で一本化した場合、逆転して左派連合が首位に浮上する可能性がある。その場合、残る1枠を巡ってマクロン候補か、マリーヌ・ルペン候補が残る可能性が高い。もし相手がルペン候補ならメランション候補が大統領になる可能性が高いが、もし相手がマクロン候補ならメランション候補は決戦投票で落ちる可能性が高い。もちろん、これは単なるアンケート調査に過ぎない、ということと、このところメランション候補がぐっと人気が急上昇してきたことを考えれば、決選投票で何が起きるかはまだ未知数ともいえる。というのも第一回投票から決選投票まで2週間のスパンがあり、その間に風向きがメランション候補にさらに追い風になることは十分に考えられるからだ。だが、目下、社会党のブノワ・アモン候補が離脱するそぶりはなく、マニグリエ氏もこのままではマクロン候補が当選する可能性が高い、と見ている。左派が勝ち残るには社会党の支持者が自発的にメランション候補に票を流すしかなさそうだ。
■最新のテレビでの候補者11人全員の15分インタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=lR5NR2YqVc4 Jean-Luc Melenchon , Nathalie Arthaud, Marine Le Pen, Francois Asselineau, Benoit Hamon, Nicolas Dupont-Aignan, Philippe Poutou, Emmanuel Macron, Jacques Cheminade, Jean Lassalle , Francois Fillon.
主要5候補以外の候補の話も結構、面白い。たとえば極左政党で高校教師のNathalie Arthaud氏は「銀行は国有化せよ」とか、フランスが襲われた「テロは植民地主義の結果だ」など左翼一直線の候補者だ。左翼泡沫候補のPhilippe Poutou氏(反資本主義党)と同様に2012年にも立候補して1%以下の票しか集められなかったが、それでも国のあり方を15分の中にきっちり主張していく。こういう人が毎回立候補してくるのだ。Francois Asselineau氏のように欧州連合からの離脱を中心テーマだと訴える人もいる。Jacques Cheminade氏はリーマンショックを巻き起こした金融界の健全化を訴えている。泡沫候補でもそれぞれ魅力的であり、司会も手抜きせず懸命に質問している。一人一人の候補者の夢や信念を大切にしようとする番組の姿勢が数の力で国会も我が物にする巨大政党を日々見せられている庶民には新鮮ですらある。 日本の政治番組は民放であれ、NHKであれ、司会が発言に無駄に介入し過ぎて、政治家の考えをじっくり総合的かつ多角的に聞くことが難しい。さらに政権党の政治家にはしゃべりたいことだけをしゃべらせる。フランスの政治番組の司会者たちと比べると、その差が如実にわかるはずだ。日本では番組に出演した多くの政治家や論客がどんどん話題を変えながら結果的に何一つ視聴者がじっくり詰めて考えていけないように誘導しているかのようだ。視聴者が議論とはそのようなものだと思い込んでいる限り、変わりようもないのである。
村上良太
■「レ・タン・モデルヌ誌」(Les Temps Modernes) サルトル、ボ―ヴォワール、メルロー・ポンティらが創刊 今も時代のテーマを取り上げる パトリス・マニグリエ(Patrice Maniglier パリ大学准教授・哲学者)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606241454415
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