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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年04月24日10時40分掲載
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コラム
フランス大統領選 ぶっ壊された社会党
昨日23日、フランスで大統領選挙の第一回投票が行われた。メディアですでに報じられている通り、今回の選挙では社会党と共和党という二大政党の候補が敗北を喫して撤退し、極右政党の国民戦線と選挙直前に生まれた新しい政治組織「始動!」の候補者による決選投票となった。マリーヌ・ルペン候補(国民戦線)とエマニュエル・マクロン候補(始動!)である。
エマニュエル・マクロン候補はマニュエル・バルス首相が率いる社会党政権の経済大臣だった人物であり、一見左派に位置していたが、今回の成功のもとは社会党から出馬しなかったことだ。もう一つの意外なことは当初、社会党のトップ候補と目されていたバルス氏が社会党候補とならなかったことである。
社会党の予備選で大統領候補に選出されたブノワ・アモン候補は国民に基本的な生活費を一定額支給する、という極めて左の政策を掲げたが、実現可能性に疑問を抱く人が少なくなく広範な支持を集めることができなかった。第一回投票でアモン候補が得たのはわずか6%(開票途中)。大統領を頂く政権党の候補であるにも関わらずマクロン氏とルペン氏の約23%(開票途中)に遠く及ばない。選挙前の調査時の8%よりも下がっているのは社会党支持者の票がまだしも勝ち目のある左翼党のメランション候補に流れたからだろう。
このことは社会党内部が左右に分裂して混乱に陥っていることを示しているように見える。その前哨戦として去年、フランス国内を二分した社会党政権による労働法改正問題があった。社会党は自ら築いた週35時間制を軸とする労働者の手厚い保護を基本とする労働法の規制緩和に乗り出したのだった。この改革によって社員の解雇が企業にとっては楽になる。社員を解雇しても訴えられる可能性が相当減り、解雇に伴う手当の額もずっと減らせるようになったのだ。それまでなら解雇理由を企業側は示してその正当性が認められなくてはならなかったからだ。しかし、そうしたことは今後は企業と労働者の個別の契約案件となり、契約時に定めがあれば解雇も容易にできるようになる。
こうした労働規制の劇的緩和の背後にはフランスに規制緩和と競争力の引き上げ、財政規律を求める欧州連合本部の意向があったと言われている。それは欧州連合の経済的なリーダーであるドイツや英国のシティなどがフランスに突きつけた要求だった。欧州連合に留まりたければフランス独自の経済・社会保障政策を放棄せよ、と迫っていたのである。
その欧州連合の象徴こそ、今、大統領選で首位に立つマクロン候補に他ならない。マクロン候補の政策はまさに欧州連合本部がフランスに求めているものだと言って過言でない。法人税率は33.3%から25%へと下げて競争力を強化する。欧州連合の統一市場を支持する。週35時間制を軸とする労働法を規制緩和して労働市場を柔軟化する。民間企業の競争力を高める民活を進める。これはアベノミクスに似ている面がある。マクロン候補が左派の皮を被った新自由主義者と揶揄される理由である。企業ロビイストたちが巨大な影響力をふるっている欧州連合本部がフランスに求めているものはこれに他ならない。
マクロン候補は失業手当費用を大幅に削減すると公約しており、その理由として失業率を10%から7%まで任期中に引き下げると公言している。職業安定所から2回、妥当な仕事の提案を受けて断った場合は失業手当が取り消されることになる。ということは報酬や待遇、仕事の内容などで失業者の側で妥協を余儀なくされることが想像される。逆に、求人募集の企業にとっては人材確保の面でこの上なくありがたい措置となるだろう。恐らく賃金の下降に弾みがつくのではあるまいか。
今回、第四位にとどまった左翼党のジャン=リュク・メランション候補はもともとはフランス社会党の議員だった。ところが社会党に見切りをつけて2009年に、より左の左翼党を立ち上げたのである。社会党は年々、右に移行して行った。議会で強硬的な手段を使って労働法改正を実現したバルス政権は社会党の右傾化の象徴と言えるだろう。バルス首相の政策に対して週35時間制を生んだマルチーヌ・オブリ議員など社会党の古参議員らは反発していた。
社会党が混乱に陥った理由は欧州連合を支持することによってグローバリズムの問題に直面したことである。社会党政権のもとで国内工場の空洞化が進んでいく。欧州連合に加盟している限り、工場が東欧などの労賃の安い地域に移転していく現実をどうすることもできなかった。フランスの国内労働者と欧州連合域内の労賃の安い国々の労働者との間に熾烈な競争が生まれた。いつしかフランス国内にファーストフード店がたくさん生まれている。失業率は10%に高止まりし、若者たちには不安定雇用が押し付けられている。こうした現実に対し、メランション候補は欧州連合との関係のあり方を見直す、と語った。そんなメランション候補に対して英国や外国のメディアは極めて辛い点をつけ、辛辣な批評を浴びせた。今回、メランション候補が大手メディアでは常にマリーヌ・ルペン候補と並んでセットで紹介されていることに注目するべきだと思う。メランション候補の経済政策は欧州連合がつきつけてきた緊縮政策とは逆に公的支出を潤沢に行い、雇用を下支えするものだからだ。
オランド政権が無策だということは当初から見られていたことで、今年の大統領選挙が社会党にとって厳しいものになるであろうことはわかっていた。そして、それがその通りになった。今、フランスの社会党にとってはトップ5候補の中で最下位になったアモン党首で今後も継続するべきかどうかが問われるだろう。その時、グローバリズムとどう取り組むか、改めて政策が問われることになる。今回、マクロン氏が大統領に選出されたとしたら、2022年の大統領選挙でまさに国民戦線とそれをめぐる闘いになるだろうからだ。その時も社会党にとっては熾烈な闘いとなるだろし、今回のように左翼党と票が割れているようではまた勝ち目がなくなってしまうだろう。
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