フランスでは大統領選の決選投票を日曜日に控えています。今日金曜のFigaro紙では5月3日のテレビ討論でマリーヌ・ルペン候補が決定的に劣勢になったと書かれていました。細かいことは不明ではありますが、Figaroの政治コラムニスト、ギョーム・タバール(Guillaum Tabard )氏によると、討論での敗因にはいくつか原因があります。
1つは15000人規模の政治集会と1500万人の視聴者を前にした時(1500万人が視聴したようだ)の違いをマリーヌ・ルペン候補が理解していなかったこと、また第一回投票の前の討論会と第二回投票前の討論との性格の違いをマリーヌ・ルペン候補が理解していなかったこと。コラムニストのタバール氏によると、第二回投票ではできるだけ多くの人の票を足していく必要があり、自己主張だけでなく、むしろ自己主張を弱めて間口の広さが問われるようです。ところがマリーヌ・ルペン候補はそのことを意識していなかったというのです。世論調査で現在優位に立っているマクロン候補をマリーヌ・ルペン候補が叩かなくてはならなかった討論会が悲惨にも空振りに終わった。特にユーロ離脱の利点を説得力を持って大衆の前に描き出せなかったことにあるということでした。
さて、筆者がパリ北駅の書店を訪ねた時、棚にあるのはマクロン氏関係の本が〜本人が書き下ろした「革命」と題する本を含めて〜4冊も置かれていました。ところがマリーヌ・ルペン候補を取り上げた本は1冊だけ。しかも批判的な内容なのです。これには驚きました。書店の棚一つをとってもマクロン候補の優勢が感じられます。マクロン候補が政治信念と生い立ちを書き記したこの「革命」という本を買い、アミアンという町に向かいます。アミアンはマクロン氏が生まれた町で、パリから北に電車で90分くらいです。
駅前から町を歩いていると、異様なものが目に入ってきました。川の中に立つ1体の人形。いったいなんだろう、と思って近くで見ると、Tシャツにマクロンと記されているではありませんか。いったい、これは何を意味するものでしょうか。地元の人の中にはマクロン氏を罰したい人もいるのでしょうか。
アミアンには古い聖堂(カテドラル)がいくつもあり、古風な街並みが並びますが、中心をはずれると自動車部品工場や家電工場などがある製造業が盛んだった街です。ところがこの20年来、ユーロ通貨圏への加盟などグローバル化の影響で空洞化が進んでおり、工場が次々と閉鎖に追いやられています。フランスでは工場空洞化を「デロカリゼ」(delocaliser )という単語を使っていますが、来年アミアンではアメリカ資本のWhirlpoolの家電工場が閉鎖を予定しています。
このWhirlpoolの工場が大統領選の争点として浮上し、両候補がともに工場を訪ねてメディアの前で自己の主張を繰り広げました。マリーヌ・ルペン候補はグローバル化によってこういう事態が進んでいるから、それを救えるのは国民戦線だと主張しています。マクロン候補がグローバリズムの象徴になっているからです。一方、この町で生まれ育ったマクロン候補も負けてはならじと、郷里を訪ねて反論しました。
地元の報道ではこのアミアンのWhirlpool工場では4月24日からストライキを打っていましたが、この日、金曜日、労使間で交渉の結果、一応の妥協案が採択されストは解除されることになったということです。このストも雇用を守るための闘いだったとされます。両候補者が工場を訪ねたのも、このストライキのインパクトからでしょう。
筆者は1990年代に東京・大田区の町工場の空洞化をよく取材したことから、アミアンという製造業の町の空洞化が他人事に思えません。工場の労働者は規模は多少違いはありますが、アミアンでは大手の部品工場が多いのですが1000人とか2000人くらいの規模のようです。一見、1000人くらい・・・と思う人もいるかもしれませんが、1つの町で1000人失業者が生まれればその家族を含めて3000〜4000人くらいが家族として影響を受け、消費も縮小してしまいます。こうした工場閉鎖やリストラがずっと続いてきているのです。そういう意味で、この町が大統領選にどう臨むのか、そしてその後に控える国会議員選挙ではどういう選択をするのかは興味深いことです。
※エマニュエル・マクロン V.S. マリーヌ・ルペンの論戦番組
https://www.youtube.com/watch?v=i5aqL7FBxyI
村上良太
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