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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年07月16日03時20分掲載
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ブノワ・アモン著 「来るべき世代のために」" Pour la génération qui vient " par Benoît Hamon
今年のフランス大統領選は本当に面白かった。従来にない闘いが展開され、思わぬ結末を迎えたからだ。この中で一番、貧乏くじを引いたのは社会党候補のブノワ・アモン氏だったのではないだろうか。フランソワ・オランド大統領が空前の不人気のため、再挑戦せず、社会党で新たな公認候補を擁立した。その時、ブノワ・アモン候補が選出されたのだが、彼は社会党の中ではフロンド派と言われるオランド大統領への批判勢力であり、社会党左派だった。そのアモン氏だが、大統領選では社会党史上でも最低に近いわずか6.4%の得票率で一回目の投票で敗退してしまったのである。さらにアモン氏の受難は続き、翌月の国会議員選挙でも落選の憂き目となった。オランド政権では教育大臣まで担当した人物である。
アモン氏にとっては苦難の1年だろう。辛くてたまらないのではあるまいか。その彼は、しかし、7月1日に新たな政治勢力「7月1日」を立ち上げ、社会党を離党した。自分の理想をコツコツ続けていきたいと言う。マクロン氏のように、スマートにわっと成果をかっさらっていくようなギャンブラー的な華麗さはないのかもしれないが、それでもアモン氏には愚直な政治家の良さがあるようだ。選挙戦のために書かれた「来るべき世代のために」にはアモン氏の政治家としての信念や政策が書かれている。
● 市民提案法案 または 市民版「49条3項」
興味深い点がいくつかあるが、その1つは一定の市民が署名した市民提案法案というものを紹介していることだ。たとえば45万人の市民が賛同する法案があれば国会審議にかけられるようにしたらどうか、というのである。逆に45万人の賛同があれば国会で採決されようとしている法案を国民投票に付して議員だけで決めさせず、国民投票で白紙撤回できる制度を導入してはどうか、というのである。この45万人と言う数字はフランスの有権者の1%を意味する数字だそうだ。僕はこれに賛同だし、以前、日本でももそういう提案をしたことがあった。これなら、いかに自公政権が国会で多数であっても共謀罪や特定秘密保護法あるいは有事法制も強行採決で通すことができなかったかもしれない。選挙戦中に重要な政策については隠しておき、当選後に突然意外な法案を作って数を頼りに強行採決する、あるいは国会審議をすっ飛ばして制定するというようなスタイルは日本ばかりでなく、フランスでも起きているのである。
アモン氏がこういう提案をした背景には皮肉にもアモン氏が所属する社会党のバルス内閣が繰り返し、国会軽視の強行突破で法案を通す荒業を使ってきたからだ。これはフランス憲法の「49条3項」に「政府信任」制度と言うのがあり、政府(内閣)を信任するなら国会審議を中止してそのまま法案を制定できるというものである。ただし、国会で「政府信任」に対する反対の動議が提出されて多数が反対となれば内閣は総辞職しなくてはならない。これは内閣にとっても賭けだが、多数派を握るのが内閣と同じ政党であれば動議が否決されて法案成立になる可能性が高い。しかし、これは民主主義の否定でもある。
昨年の今時分に大きな反対を呼び起こした労働法の改正案もそのように決められてしまった。だから、アモン氏はそうならない制度を提案しているのである。バルス首相が国会をまとめきれなくなって「49条3項」の信任制度を行使する前に、アモン氏らフロンド派議員たちは、バルス首相と同じ社会党員であっても、政府提案の労働法改正案に反対してきた。そして国会審議が続いていた間に、当初あった条文のいくつかは削除させたのだった。これはこれで信念を通したと言う意味で立派なことである。三権分立とは本来そのようなものだ(この時、アモン氏はすでに大臣ではなく、国会議員に戻っていた)。だが、その過程で社会党支持者は二分され、今回の大統領選でもその悪い影響をもろに受けてしまったと言えよう。
●産業ロボットに課税せよ
もう一つが、ロボットに課税せよ、と提案していることだ。今、フランスでは労働法の規制緩和をマクロン大統領らが進めている。アモン氏は反対の立場だが、さらに将来の労働者はロボットに相当部分置き換えられてしまうだろう、というのだ。だから、ロボットの労働を真剣に考えなければいけないと言っている。これは面白い意見であるし、実際にその通りだろう。アモン氏はこの本の中でリーマンショックの後に当選したアメリカのオバマ大統領も不況打破のために懸命に雇用を増やす努力を続けたが、産業ロボットが広範に工場に導入されたために中々簡単ではなかったと言っていたことを引用している。実際、アメリカの自動車工場のラインでも産業ロボットがかなりの職務を高い精度でこなしているのである。これは近い将来、大きな労働問題を引き起こすだろう。
●学校を差別拡大の場にしてはならない
本書を読むと、アモン氏が政治家になった理由は学校という場が差別を生み出す場になってしまうことは絶対に許せないという信念のようだ。アモン氏は子供時代に家に本がろくになかったため、公立学校の図書館でたくさん本を読んだという。学校は差別のない世界を作るために生かされなければならない、これがアモン氏の信念であり、それゆえ学校への予算も増やし、1教室当たりの生徒数を減らそうと考えていた。
今、向かい風の中に立つアモン氏だが、情熱をもって続けていけば新しい道が拓けるかもしれない。
村上良太
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