足踏み状態が続いてきた日中関係に、ようやく改善への展望が見え始めてきた。その転機は、中国のユーラシア経済圏構想「一帯一路」に安倍政権が初めて積極姿勢を見せたこと。両国政府とも、習近平国家主席の来年の初来日実現をターゲットに本腰を入れており、改善が軌道に乗れば、停滞が続く日中経済関係にも弾みが付くだろう。
【改善は内政の利益に】 ドイツ・ハンブルクでの20カ国・地域(G20)首脳会合に合わせ、7月8日開かれた日中首脳会談。中国側の宿舎となったホテルで、カメラを前に握手する安倍晋三首相と習近平国家主席のバックには、日本と中国の大きな国旗。昨年9月の杭州G20では、国旗がカメラに映らぬよう演出されたのとは一変した。中国側も改善に本腰を入れている姿勢の表れである。会談のテーマは、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験をはじめ東シナ海、台湾、歴史問題と懸案が並んだが、最大の焦点は関係改善だった。 日本外務省のブリーフによると、安部は「一帯一路」について「国際社会共通の考え方を十分取り入れ、地域と世界の繁栄に前向きに貢献していくことを期待している」と評価、「条件付きで協力する姿勢」(外務省発表)を明らかにした。新華社通信は安倍の協力発言を速報した。「一帯一路」を北京がいかに重視しているかが分かる。ただ新華社は、安部が「一帯一路の枠組み下の協力を検討したと発言」と伝え、日本側が強調したい「条件付き」については触れなかった。 関係改善について両首脳は「首脳間対話を強化し関係改善を進めるほか、国際会議の機会や将来的な2国間訪問を念頭に対話を進める方針で一致した。1972年の日中共同声明など過去の合意を基礎に、関係改善を進めることを確認した」(外務省ブリーフ)。一方、新華社は習が「今年は中日国交正常化45周年、来年は中日平和友好条約締結40周年にあたる。双方は責任感と使命感を強め、歴史を鑑とし未来に向かう精神にのっとり、妨害を排して、両国関係を正しい方向へ改善し、発展させるべき」と伝えた。双方の受け止めに、大差はない。 中国側からみれば、一帯一路を批判してきた安倍政権の軌道を修正させ、その下で関係改善を進めれば、秋の第19回党大会を目前に習近平の権威に弾みがつく。一方、支持率が急落した安倍にとっても、関係改善はイメージ好転につながるだけでなく、経済、環境問題で孤立を深めるトランプ政権との「心中態勢」からの転換も印象付けられる。関係改善が内政上の利益になる点で、双方の思惑は一致したとみていいだろう。
【AIIBにも踏み込んだ二階】 「転機」の動きを振り返る。二階俊博・自民党幹事長は5月16日、北京で習近平と会談し日中首脳のシャトル外交を提案する安倍の親書を手渡した。習はこれに対し「検討したい」と、積極的に応じた。在京中国外交筋はこれを「日本政府のメッセージが込められており、中日関係好転の契機」と高く評価した。 二階は、北京の「一帯一路」国際フォーラムで、日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)参加を促す発言すらした。北京はそのサインを見逃さなかった。前出の中国筋は「二階は習会談の冒頭『日本政府を代表して』とあえて発言している。今井尚哉・政務秘書官も会議に参加しており、われわれはAIIBへの前向き発言を安倍首相の意向と受け止めている。日本がAIIBに将来参加する可能性も出てきた」とみる。 二階訪中に続いて、5月末から6月初めにかけ中国政府の外交トップ楊潔篪国務委員が来日し安部、岸田文雄外相と相次いで会談。岸田は日中関係の改善に意欲を示し、両者は首脳レベルも含めた対話を強化する方針で一致したとされる。楊は、日本側パートナーの谷内正太郎・国家安全会議室長と、初夏の箱根で5時間半も話し合った。想像だが、習の初来日に向けた感触と、改善に向けたスケジュールをすり合わせたのではないか。 楊来日を受け安倍は6月5日、東京での講演で「一帯一路」構想について、条件付きながら「日本も協力していきたい」と述べるのである。安倍政権は、これまで「中国の経済覇権につながる」と同構想を批判していた。「条件付き」とはいえ軌道修正は明らかだ。 北京が、軌道修正を歓迎しているのは言うまでもない。孤立するトランプ政権と共に、「日米基軸」という冷戦時代の幻影にしがみつくしかない安倍政権を「屈服させた」という理由をつければ、対日強硬ナショナリズムを抑え、関係改善を堂々と進めることができるからである。(続く)
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論文全体の約3分の1を掲載しています。 続きは、以下のリンク(『21世紀中国総研』ウェブサイト内)からご覧ください。
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_82.html
<執筆者プロフィール>
岡田 充(おかだ たかし)
(略歴) 1972年慶応大学法学部卒業後、共同通信社に入社。 香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て2008年から共同通信客員論説委員 桜美林大非常勤講師、拓殖大客員教授、法政大兼任講師を歴任。
(主要著作) 『中国と台湾―対立と共存の両岸関係』(講談社現代新書)2003年2月
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