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橋本勝21世紀風刺絵日記
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2017年07月19日13時56分掲載
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人権/反差別/司法
再審請求中の死刑囚に、刑を執行する 根本行雄
法務省は7月13日、京都、兵庫、島根の3府県で1991年、飲食店経営者の女性4人が相次いで殺害された警察庁指定119号事件で、強盗殺人罪などに問われ、死刑を言い渡された西川正勝死刑囚の刑を執行したと発表した。また、岡山市で2011年、元同僚の女性を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われ、裁判員裁判で死刑を言い渡された住田紘一死刑囚の死刑も同日執行された。金田勝年法相が命じた13日の死刑執行で、2人のうち西川正勝死刑囚は再審請求中だった。再審請求中の執行は極めて異例である。「執行を免れるための形ばかりの再審請求は認めない」と法務省の幹部は述べているが、それは独断と偏見である。死刑制度の廃止は全世界的に高まっている世論であり、人類史の積年の課題である。
「共謀罪」についての国会審議において、金田勝年法相は責任者である法務大臣が法案の説明をきちんとすることが出来ないということを公衆の面前で明らかにした。そのため、法相の答弁を不安視する与党は法務省刑事局長を代役に立てる戦術をとったことは私たちの記憶に新しい。 ホセ・ヨンパルト先生(元・上智大学名誉教授)は、「日本では問題にされていないが、法律を知らない人を法務大臣にするのは信じられないことです。『政府は無責任だ』ということです。」と批判されていた。法務大臣が法案の説明をきちんとすることができない。このような事態は、日本の官僚制を象徴するものだ。こういう人物を法務大臣に選んでいることは世界的にもまれであり、とても恥ずかしいことである。 今回の死刑執行は、法務省の官僚が金田勝年法相の無知に付け込んだものであると思わずにはいられない。法務省の官僚は8月に内閣改造を控え、法相が交代する前に、死刑の執行をするという悪習をまたしても行なったのだ。
□ 再審請求について
ネモトは波崎事件対策連絡会議に参加し、再審運動に関わっている。この会議が発行している「波崎事件再審運動ニュース 第43号」(2015年4月20日発行)に、金井塚康弘弁護士(大阪・なわわばし国際合同法律事務所)は「再審法と波崎事件」という「再審」制度についての解説文を書いているので、紹介しておこう。
この解説文の冒頭に、金井塚弁護士は次のように述べている。 「再審とは、事実認定の誤りを救済する非常救済手段であると一般に説明されます。刑事訴訟法は、再審手続については、19か条しか規定していません。ちなみに民事訴訟法も12か条しか用意していません。条数が多ければ良いというものではないのですが、再審手続というものが、全くの例外だという前提での規定の仕方は考えものです。裁判は間違いがあってはいけませんが、裁判官も人の子であり、人のやることですから、誤り得るものです。間違いがあり得るということを前提に制度を規定する必要があると思うのは、僕1人ではないでしょう。」
続けて、次のように述べています。 「請求人が確保できれば、再審は、刑事訴訟法435条6号において、『有罪の言渡しを受けた者に対して、無罪・・・又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき』請求できると規定されています。この『明らかな証拠』を『あらたに発見した』というのが、証拠の明白性と新規性の要件です。 明白性の要件は、『疑わしきは被告人の利益に』の原則からは、旧証拠による認定が『疑わしいこと』が明らかであればと、白鳥決定以降、やや広く解釈されるようになっています。『有罪の確信がゆらぐ』疑わしさがあればよいはずなのですが、実情は『無罪の確信』まで、明白性として要求されています。 証拠の新規性の要件である『あらたに発見した』とは、『発見』が『あらた』であれば良く、原判決当時存在していたか否かは問わないとされています。誰にとって新たなものである必要があるかについて、裁判所のみならず、当事者にとってもあらたなものであることを要するとしている判例があります(最高裁S29.10.19決定、刑集8巻10号1610頁)。再審請求の段階に至ってはじめてその証拠の意義に気付いたというような場合、僕は新規性を大いに認めるべきだと考えますが、否定した判例があります(東京高裁S46.7.27決定、高刑24巻3号473頁)。おかしなことです。」
□ 執行を免れるための形ばかりの再審請求について
金井塚弁護士が解説されているように、「再審」については、「証拠の明白性と新規性」が要件である。ことばで述べれば、実に簡単そうだが、実際に、再審運動に関わってみると、この「証拠の明白性と新規性」というのはとても高いハードルなのだ。だから、日本の再審制度は依然として「狭き門」のままだというのが実態なのだ。
毎日新聞(2017年7月13日)において、鈴木一生記者は次のように伝えている。
刑事訴訟法は、法相は死刑確定から6カ月以内に執行を命じるよう規定するが、再審請求などの手続きや共犯者の裁判が終わるまでの期間はこの6カ月に算入しないとも定める。その間に「執行命令を出せない」との明記はないが、再審請求中は執行が回避される傾向がある。
再審請求中の死刑執行としては、強盗殺人罪などで死刑が確定し、1999年12月に執行された小野照男死刑囚(執行時62歳)の例がある。小野死刑囚の再審請求は8回目だったことから、法務省は請求内容を精査し、再審で無罪となることはないと判断したとみられる。
法務省によると、刑事施設に収容されている確定死刑囚は124人で、うち7割を超える91人が再審請求中という。同省幹部は「執行を避けるための形式的な請求が繰り返されているケースもある」と指摘する。西川死刑囚の請求も数回に上っていたとみられるが、今回の執行を機に、再審請求中の執行のハードルが下がる可能性もある。
しかし、実際に、再審運動に関わってみると、この「証拠の明白性と新規性」というのはとても高いハードルであることがわかる。法務省の幹部が述べているような『形式的な請求』などと言うものはできないのだ。
今回の「死刑執行」に関連して、大崎事件と飯塚事件について、簡略に述べておきたい。
□ 大崎事件
大崎事件は、1979年10月、鹿児島県大崎町で男性(当時42歳)が自宅の牛小屋で遺体で見つかり、義姉の原口アヤ子さんと親族3人(いずれも故人)が殺人と死体遺棄の疑いで逮捕された。原口さん以外は容疑を認め、懲役1年から8年の判決が確定した。原口さんは無実を訴えたが、81年に懲役10年が確定して服役した。95年に第1次再審を請求し、2002年に鹿児島地裁が再審開始を決定したが、福岡高裁宮崎支部が取り消した。第2次再審請求も退けられ、15年7月に第3次請求を申し立てていた。第2次請求からは原口さんの元夫の遺族も請求している。
毎日新聞(2017年6月29日)は、次のように伝えている。
鹿児島県大崎町で1979年に男性(当時42歳)の遺体が見つかった「大崎事件」で、鹿児島地裁(冨田敦史裁判長)は28日、殺人罪などで懲役10年が確定して服役した原口アヤ子さん(90)の請求を認め、再審を開始する決定をした。有罪認定の根拠となった共犯者とされる元夫(93年に66歳で死去)ら親族の自白について「捜査機関の誘導の疑いがあり、信用性は高くない」と指摘。「原口さんと犯行を結びつける直接的証拠は存在せず、殺害も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」とした。懲役8年が確定して服役した元夫の再審開始も認めた。
原口さんは捜査段階から一貫して無罪を訴え、再審請求は今回が3回目だった。鹿児島地裁は2002年にも再審開始を決定しており、弁護団によると、最高裁が再審開始の基準を示した白鳥決定(75年)以降、同一事件で2度の再審決定が出たのは初めて。弁護団は29日、最高検に即時抗告しないよう要請する方針。
□ 飯塚事件
1992年2月20日、福岡県飯塚市で小学校1年生の女児2名が登校途中に失踪し、翌21日に隣接する甘木市でいずれも遺体となって発見されるという幼児強姦殺人事件が発生した。また、翌22日に遺体発見現場から数キロ離れた場所から、被害者の遺留品が発見された。その後、遺留品発見現場付近、被害者の失踪現場付近で自動車を目撃したという証人が現れ、これに該当する車両は福岡県内で127台あったが、久間三千年被告人がそのうちの1台を使用していたことから嫌疑をかけられた。被告人は、1994年6月23日に逮捕されたが、一貫して犯行を否認し、無実を訴えていた。 第一審の福岡地裁は、「被告人と犯行の結び付きを証明する直接証拠は存せず、情況証拠の証明する情況事実は、そのどれを検討しても単独では被告人を犯人と断定できない」としながら、被害者の身体等に付着した犯人の血液の血液型、DNA型が被告人と同一である等と認定し、1999年9月29日、被告人に対して死刑判決を宣告した。福岡高裁は2001年10月10日に控訴を棄却し、最高裁は2006年9月8日に上告を棄却し、第一審の死刑判決が確定した。2008年10月17日、足利事件でDNA再鑑定が行われる見通しであることが広く報道された。その1週間後の同月24日、森英介法務大臣が死刑執行を命令し、同月28日、判決確定からわずか2年余りという極めて異例の早さで死刑が執行された。ちなみに、森英介法相も法律の専門家ではない。
飯塚事件では、大きな問題点が3つある。 1つ目は、DNA鑑定である。 飯塚事件で用いられたDNA鑑定は、足利事件(DNA再鑑定により、2009年4月にえん罪が明らかとなった。)と同じMCT118鑑定であり、時期もほぼ同時期で、技法や技術も共通で、科警研のほぼ同様のメンバーで行われた。 しかし、飯塚事件のMCT118鑑定は、足利事件以上に不出来であり、(1)目盛りとなる123ラダーマーカーに重大な欠陥がある、(2)電気泳動像のバンドの幅が広すぎ、形が悪すぎて、型判定ができない、(3)現場で採取した試料と被告人から採取した試料を同時に電気泳動していない等の問題点がある。 2つ目は、科警研(科学警察研究所)は、たくさんあった鑑定試料を全て鑑定で消費してしまったと主張しており、再鑑定を不可能にしていることである。これは重大な裁判妨害であり、冤罪を生む要因である。 3つ目は、 遺留品発見現場の目撃証言である。証言は目撃後に相当時間が経過しているのに、内容があまりにも詳細にすぎ、実際には見えないはずのことまで証言している等の問題点がある。しかも、被害者の失踪現場付近での目撃証言も、事件発生から何か月も経過してから証言を始めたものである。
このような問題点があることから、飯塚事件は冤罪であるとする意見が多い。被告人の遺族は、2009年10月28日、福岡地裁に再審を請求した。再審請求では、足利事件のDNA再鑑定を行った大学教授による鑑定書が新証拠として提出されている。
飯塚事件の被告人である久間三千年さんは2008年10月28日、判決確定からわずか2年余りという極めて異例の早さで死刑が執行された。足利事件でDNA再鑑定が行われる見通しであることが広く報道された直後の刑の執行であり、死刑執行の時期が異例の早さであることから、飯塚事件の問題点を覆い隠すための死刑執行ではないかとの疑問が指摘されており、冤罪であり、無実の人を死刑にしたのではないかという意見がある。
□ 司法殺人
名張毒ぶどう酒事件においても、あれだけの「証拠の明白性と新規性」がありながら、再審は開始されなかった。そして、奥西勝さんは獄中で亡くなられた。実質的な「死刑の執行」である。波崎事件の冨山常喜さんも、無実であることを訴え続けながら獄中で亡くなった。ネモトはそのことを『司法殺人』という本で明らかにした。
ホセ・ヨンパルト先生はネモトが『司法殺人(「波崎事件」と冤罪を生む構造)』(影書房刊)を贈呈したところ、懇切なお礼状を下さった。その中に、「日本の司法では間違ったことを認めないで、時間をかけて、関係者が死ねば、もう片付けたことになるようです。」という文章があった。
死刑制度の廃止は全世界的に広がっている世論であり、人類史の積年の課題である。わたしたちは一日も早い、死刑制度の廃止を実現する努力を続けていく。
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