今年のフランスの大統領選挙は決選投票がエマニュエル・マクロン候補VSマリーヌ・ルペン候補となり、フランス人にとっては新自由主義VS極右の二者択一になってしまった。この二つの政治に反対する左派の人々にとっては、一種の悪夢的な状況が出現したのだった。純粋に経済政策だけを見ればマリーヌ・ルペン候補の方が左派に近く、一方で反レイシズムという視点から見ればマクロン候補の方が左派に近かった。マリーヌ・ルペン氏がレイシストと言えるかどうかは議論の余地があるが、少なくともイスラム教徒への言動や政策を考慮するとウルトラナショナリストとは言えるだろう。
去年の米大統領選でも同様で、決選投票は極右的言動のトランプ候補VS新自由主義のヒラリー・クリントン候補だった。クリントン候補は二大政党的に見れば左派的なのだが、実際には自由貿易協定推進派であり、NAFTAを最終的に締結させたのも夫のビル・クリントン大統領だった。そして、極右的なトランプ候補は自由貿易に反対すると宣言して新自由主義を進めてきたクリントン夫妻への批判を強めた。
▼選択が分かれた米仏の有権者
このようにフランスでもアメリカでも <極右 保護貿易> 対 <中道 新自由主義 反レイシズム>の選択を迫られたのが直近の選挙の傾向だった。アメリカで社会主義を標榜するバーニー・サンダース候補は民主党幹部の反対によって民主党代表の座を獲得することができず、フランスでサンダース候補に近いジャン=リュク・メランション候補も左派の分裂のために決選投票に進むことができなかった。フランスでもアメリカでも、あと一歩で左派候補が大統領になる可能性は十分にあった。その推進力はグローバリズムの良さよりもむしろ弊害が近年、大衆の目にはっきりと見えてきたことがあげられる。しかし選択は分かれた。アメリカでは<極右 レイシズム 保護貿易> を掲げたトランプ候補が勝ち、フランスでは<中道 新自由主義 反レイシズム>のマクロン候補が勝った。両国は最終的に異なる選択をした。ただし、トランプ大統領が本当に自由貿易に反対の政策を実行するかどうかは未知数だ。
▼ 異質な国 極右と新自由主義の組み合わせ
日本を振り返ると、与党は<極右 新自由主義>ということになる。自民党は本来は右派であっても極右ではなかったのだが、安倍政権以後、極右政党に明白に変化した。極右政党であり、かつ新自由主義という組み合わせは珍しく見える。しかし、マリーヌ・ルペン氏が率いるフランスの国民戦線も、父親のジャン=マリ・ルペン党首だった頃には<極右 新自由主義>を掲げていた時代もあった。娘のマリーヌ・ルペン氏に党首が交代してから、国民戦線は明確に欧州連合に反対し、保護貿易を進める経済政策を標榜している。そのため、所得が高くない労働者や農民からの支持がかなり高い。
▼ マクロン勝利で2022年が心配な左翼たち
フランス人の左派の人々の中には決選投票を棄権した人が多かった。その理由はマクロン氏が新自由主義の政策を進めれば必ず貧富の格差が広がり、従来の99%対1%の対立が激しくなり、その結果、国民戦線への支持がさらに増えていく、と見ていたことによる。貧しくなった人々が苦しみの原因を外国人や移民に見い出そうとする傾向が高くなるからだ。今回、国民戦線が大統領を生むのを阻止できたとしても、5年後に国民戦線がもっと決定的な大勢力になってしまう恐れがあった。2022年に国民戦線が大統領の座だけでなく、国会でも過半数を占めてしまう可能性である。今年であればそこまで大きな勢力にならず、仮にマリーヌ・ルペン氏が大統領になったとしても国会で一定の歯止めをかけることができる。場合によってはコアビタシオンという形で共和党から首相を任命して連立政権を作る可能性もあった。マリーヌ・ルペン大統領の5年間の政治がフランス国民の期待に応えられるものでなかったら国民戦線の未来はかなり萎むだろう。しかし、5年後に国会の過半数を国民戦線が占めれば政治はもっと決定的に極右に傾いてしまう・・・つまり、本質的には時間の問題だ、という冷徹な認識を持つ人が少なくなかったのである。マクロン大統領の政策がフランス人の多くの人が豊かになるものであればその恐れはなくなるが、左派の多くはその可能性は低いとみているのだ。その意味では新自由主義と極右はコインの両面であり、つながっているとも言えるのである。
▼民進党代表戦 〜改憲と新自由主義をともに標榜する二大政党による翼賛体制の可能性も〜
一方、日本では今、最大野党を標榜してきた民進党の党首選が間近に行われる。来年には総選挙があるのだが、いったいどのような対立軸が打ち出せるのだろうか。民進党の中にも極右勢力と新自由主義勢力があり、この勢力が力を増せば野党共闘の勢力は削がれ、「中国・北朝鮮」からの危機に応じるとする自民党と民進党右派、日本ファースト、維新などによる一種の大政翼賛会的な時代も可能性としては出てくるかもしれない。その場合は緊急事態条項の加憲が最優先事項として浮上するに違いない。緊急事態をてこにして、増税・軍備拡張・教育システムの一新・報道や官庁、司法、企業など各界からの反政府勢力の排除など、日本改造を一気に成し遂げる構想となるかもしれない。
村上良太
■ニュースの三角測量 その2
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201612151601554
■黒田龍之助著 「ロシア語の余白」(現代書館)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201701242241142
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