カタルーニアの独立投票に対するスペイン警察の弾圧について、投票所周辺への機動隊などによる暴力行為は日本のメディアも報じていますが、インターネットがシャットダウンされたことについてはあまり詳しく報じられていません。インターネットによる情報統制・管理で積極的に発言している社会思想家で経済学者の小倉利丸さんが現地の情報をもとにその概要を分析、アマゾンやグーグルなど大手通信事業者がカタルーニアよりもスペイン政府に加担したことを明らかにし、こうした事態は共謀罪が成立した日本でもやがて現実の問題となる、と警告しています。以下、小倉さんの分析を紹介します。(大野和興)
今回特徴的だったのは、
(1)どこかのウエッブをシャットダウンするという方法ではなく、カタルーニアの独自ドメイン、.catを管理しているオフィスを差押え、シャットダウンした。このドメインは、referendum.catとかref1oct.catなど、投票に用いられていた。
(2)googleは投票所情報などを提供する投票用アプリの削除を求められた。
(3)有権者の確認に必要なコンピュータシステムがアマゾンによって投票日の最初の数時間閉鎖された。
(4)投票所でのインターネッアクセスができなくなった。
(5)カタルーニアの地域プロバイダから住民投票のサイトへのアクセスがブロックされた。これは9月末から投票日まで続いた。
(6).catだけでなく、住民投票のサイトが広範にブロックされた。このブロックに加担したのは、
・ El Pais, スペイン最大のメディア業者はロシアのハッカーを使ってサイトの遮断に加担した。 ・ France Telecom Espanya (AS12479) とEuskaltel (AS12338) はDNS tampering(ドメインネームの改竄) ・Telefonica de Espanya (AS3352)はHTTP transparent proxiesを用いてアクセスを阻止した
などである。
出典 https://ooni.torproject.org/post/internet-censorship-catalonia-independence-referendum/
こうした状況は日本でも当然ありうることです。カタルーニアのネットの活動家たちはかなりがんばってサイトの閉鎖に対抗する措置をとるなどしていたと思います。
印象的なのは、アマゾンやグーグルなど大手やスペイン国内の通信事業者の対応がカタルーニアよりもスペイン政府に加担したということです。ネットの中立性なんていうものは、インフラには通用しないということです。
今回の住民投票では、インターネットのウエッブだけでなく、スマホのアプリが重要な役割りを果したようですが、同時に、アプリを搭載できるかどうかは、スマホアプリを提供しているアップルとグーグルの判断に委ねられているという極めて異常な寡占構造に支配されており、これらの企業がアプリを提供しないとなれば、事実上アプリの利用を断念させられることになります。これまでも、中国でVPアプリが使えない措置がとられるなどがあり、政府がその気になれば企業の意思決定を支配できる状況がどこにでもあると思います。
とくに、今回私にとってある意味で衝撃だったのは、トップレベルドメインを管理している組織そのものを政府が強権的に閉鎖するということをやったり、一般に「ネット犯罪」として捜査機関や政府のセキュリティ対策機関が槍玉にあげているDNS tamperingといったサイバー攻撃を政府や民間大手の通信事業者がやったことです。そこまでやるのか、ということでもあります。
共謀罪が存在してしまった日本で、どうするか、カタルーニアの人たちへの連帯もふくめて議論すべきことはたくさんあると思います。分離独立という選択肢が日本の政治で主要な議題になったことはない反面、近代日本の歴史は領土の拡張や統合の歴史ばかり。近代国家は統合や併合は好んでも分離独立には異常に抵抗する。このことに近代国家の問題の本質が露呈しているようにも思います。カタルーニャだけでなく、スペインにはバスクもあり、またクルドをはじめとして、世界中で分離独立と地域の自立を選択したいという運動は多くあり、今回のスペイン政府の対応を特別なものとみるべきではないでしょう。
上で紹介した情報源のooniというサイトは、Tor projectが運営しているもので、インターネットのアクセスが不当に遮断されるなどしていないかを調べることができるツールなどをフリーで提供しています。
https://ooni.torproject.org/
カタルーニアのネット検閲の情報はXNETをぜひ参照してください。カタルーニアに拠点をおくネットアクティビストのサイトです。
https://xnet-x.net/en/digital-repression-and-resistance-catalan-referendum/
(いくつかのメーリングリストなどに投稿したものに加筆)
―――――――――――― 参考 .catドメイン .catドメインができる以前は、スペインからフランス(一部はアンドラやイタリア領サルデーニャ島など)にまたがって住むカタルーニャ民族の機関や会社や個人は、やむなく.es、.fr、.it、.adなどそれぞれの住む国のドメインを使用していた。あるいは関係ない国のドメインを使ってドメインハックを行っていた。例えば、カタルーニャ州のジローナという都市は、ジローナという名にちなんで.giドメイン(”http://www.ajuntament.gi/" “ajuntament”とは、市役所の意)を使用している。このccTLDは、ジブラルタルのもので、スペインの都市がジブラタルドメインを使用することは、ジブラルタルをスペインでなくイギリスが統治する現状を認めることにも繋がりかねず、ジブラタルの主権を主張しているスペイン政府は困惑した。奇妙なことに、この登録はカタルーニャ地方の独立とジブラタルの主権を英国が持っていることに反対しているスペイン社会労働党の関係政党カタルーニャ社会主義者党の事務所によって行われていた。
この問題を解決し、インターネット上のカタルーニャ語圏の文化のコミュニティのニーズに応えるために、2005年9月.catドメインが承認された。このコミュニティは、彼らがオンラインコミュニティでカタルーニャ語を使用するために使ったり、他の文化を持つ人々にカタルーニャの文化を知ってもらうためなどに使うため立ち上げられた。最初の登録期間は、2006年2月13日から2006年4月21日。2006年4月23日から一般からの登録受付を開始した。 規制
.catドメインには対象地域の限定はなく、拠点のサイトがカタロニアにあるとはいえ、すべてのカタルーニャ語話者のコミュニティが対象である。その代わりにカタルーニャ文化に所属する個人や団体でなければならない。
こうした規制にもかかわらず、猫に関係するサイトや、「lolcat」や「Nyan Cat」など猫に関係するネット上の流行にまつわるサイトのためのドメインハックに.catは利用されている。
出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/.cat
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